ライティング・ラボ

子供が好きではない私が、塾講師をしている理由


記事:ゆら(ライティング・ラボ)

『子供が好きか?』
と聞かれると、いつも私は躊躇する。

同じ塾の先生たちは皆、塾で働く理由を
「子供が好きで!」
「子供がかわいくて!」
と何の躊躇いもなく答える。

私は、そんな時いつも少し口をつぐむ。

「子供は特別好きじゃないんだけど……」
そう口にすれば、皆が何をいっているんだと、訝しみ、不思議がるのは目に見えているから。

ややこしい事態になるのはなるべく避けたい。

皆の意見にあいまいに微笑みながらうなずく。

私は特別子供が好きではない。
なのに、私は塾講師をやっている。

これは、一体何なのか?
何かの修行なのか?

私はなぜ好きでもないことをやっているんだろうか?

私は、自分に向けられる愛情があるということを信じていない。
信じていないから、偽物の感情で対処する。
私の対処を、周囲がどう思っているのかと気に病み、自分を見失う。
あれやこれやと思い悩む悪循環。

だが、子供と接している時は、あれやこれやと考えている暇はない。
子供は、その一瞬がすべてだ。
瞬時に対応しなければ、手遅れになってしまう。
更に、子供は、あんなにも小さな体なのに貪欲で、与えても与えてもすぐに吸収してしまう。
だから、どんどん与え続けなければならない。

子供の求めに従って、子供の欲するものだけを考えて与える。
その単純で複雑な作業を無心で繰り返していると、ふと、子供と居る時は、とても気持ちが楽だと気づいた。
一番、自分が素でいられる。
というより、取り繕っている暇がない。

時間が瞬く間に過ぎていく。

子供はいつも清らかに美しく。
そして残酷だ。
その純粋さで、いつも私を試してる。
だから私は、全力で対峙する。

これまで、私は、子供から心を向けられる度に、いつもどこか申し訳なく思っていた。
何も信じていない私は、自信がなくて、その真っ直ぐさを恐れていた。

だけど。
目が合うとパッと笑顔になって、私に走りよる。
小さな指を絡めて手を繋ぐ。
私を信頼し、全身をかけて寄りかかる。
私は、自分が受けとめるこの小さな重みを、信じようと思った。
私のことを好きでいてくれる。
それを信じようと思った。

子供がハッとする瞬間があって、それ以上のものを私は知らない。
私の本気と子供の世界が交わる一瞬に起こるそれは、見たいと思っても造り出せるものではなくて。
その瞬間に出会うと、私は、永遠に生きられると思ってしまう。

もう一度、子供に戻れたらいいのに。
もう一度、子供に戻って、出来なかったことを取り戻せればいいのに。
それは不可能なことなのだけれど。

幼い私の願いは二度と叶えられることはなくても。
手を繋いでもらえることはなくても。
手を繋いであげることは出来る。
頑張ったねと誉めてあげることも。
大丈夫と言ってあげることも。
私には出来る。

そのひとつひとつが、幼い私を満たしていく。
もう一度、生き直せる。

私は、自分のために先生をしているの。
私が、やりたいから先生をしているの。
私が、楽しいから先生をしているの。

上手くいかないこと、力不足でくやしいことがたくさんある。
ああ、 もっとなんで……。
どうして……。
と思うことがたくさんたくさんある。

まだまだ、教えたいことがたくさんある。
もっともっと。

私は子供が好きではないけれど。
私は子供を信じてる。

早く子供たちに会いたい。

***

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2015-07-15 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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