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「スキ」と仕事の関係性


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:バイアスゆみこ(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「スキを仕事に!」
声高らかに唱えるのが私の仕事である。
わたしは、ある地域で働いている。
地域の魅力を発信して、移住を促進することがわたしの仕事だ。
移住して就業する人へのサポートや、新たに起業する人へのサポートも行っている。
起業する人に向けたキャッチコピーが「スキを仕事に!」だ。

「スキ」は原動力となることはよく知られている。
けれど一方でそれは「スキ」じゃないの線引きもしてしまう。
そしてみんなが必ず「スキ」をもっているわけでもない。
コロナで失業や仕事が激減する人たちが大勢いる今、あらためて「スキ」と仕事の関係性について考えてみたいと思う。
 
「コロナで休校伸びるかな?別にそれでもいいけどね、楽しいから」
と小学生の娘が話す。
娘は文章を書くこと、漫画の絵を書くこと、ぬりえなど、大好きなことがたくさんある。
 
この休校中はプラスチックの板に絵をかいてオーブントースターで縮めて作る”プラバン”にはまりまくり、プラバン職人のごとく漫画「鬼滅の刃」の絵を描いたプラバンキーホルダーを50個ほど作った。
1日8時間も机に座り続けて作っている日もある。小学生にして肩も凝るらしい。
そしてできたキーホルダーを毎日ニヤニヤ眺めては、次はどの絵を描こうかマンガにのページに付箋をつけて楽しんでいる。
はっきりいって「スキ」のパワーは計り知れないし、わが娘ながらとってもカッコイイ。
このまま「スキ」を伸ばしていけば、たぶんその道に進むぐらいのパワーがある。
だからぜひ伸ばしてあげたい。
先日、教育関係のオンライン講演会に参加したら、「スキなもの、探求したいものを自力で見つけられる子は全体の1割もいない。ほとんどの子がそうではないと思った方がいい。」という話をきいた。
娘はたぶん1割の人間だ。
そして私はご多分にもれず残り9割の人間だった。
彼女の兄であるわが息子も、夫も確実に9割のほうなのだ。
 
「あなたも何かスキなことあるでしょう?」
高校3年生の一学期、まだ進路が決まらないわたしに担任の先生が聞いてきた。
スキなこと、スキなこと、スキなこと、スキなこと……
いくら考えても、話してもしょうもなさそうなことしか出てこない。
フレンチトースト作りにはまっていること、とか。
THE YELLOW MONKEYに夢中だったり、とか。
「……。」
沈黙が続く。
わたしには将来の仕事にできるような「スキ」とか、進学して学びを深められるような立派な「スキ」が何もない。
絞りに絞った雑巾を手が痛くなるぐらいねじってねじって絞り出して、それでやっと出てきたその一滴の「スキ」を、長い沈黙の後、伝えた。
「……料理? ……かな」
今少しフレンチトースト作りにはまっているから。
ただそれだけ。
「じゃ、調理師や栄養士なんかがいいんじゃない?いまからでも勉強すれば〇〇大学の栄養科なら入れるから考えてみたらいい」
あれこれ考えても他には何もみつからないし、言われた通りの進路に決めた。
絞り出した一滴のそこへ。
「H大学を目指すよ」
「音響関係の仕事につきたいからS専門学校を受けるんだ」
進路を決めた友達がキラキラまぶしくて目もあけられないくらい。
 
だからわたしは目を閉じだんだ。
予想通り、人に決められた「スキ」ではぜんぜん力が入らなかった。
そんなこと最初からわかっていた。
受験勉強も受験日の1か月前までしなかった。
最後の1か月、テレビでながれる年末の紅白歌合戦をぼーっとみていたら、
来年の今頃わたしは何をしているんだろう―
このまま勉強しないでどこにも受からなかったら、人生の負け組になってしまう―
と急にそう思った。
なんとか自分を奮い立たせて、仕方なく勉強した。
もう間に合わないから、単位の足りてる授業は全部さぼって、1日17時間机に座って足の感覚がなくなるぐらい勉強した。自業自得だ。

なんとか志望校には合格した。
でも人が決めた「スキ」ではやっぱり力が入らない。
大学もかろうじて卒業できたが、栄養の勉強も全然おもしろいと思えなかった。
 
けれど唯一おもしろいと思えた出来事がある。
病院での栄養士実習だった。
任された仕事をこなすというおもしろさを学んだのだ。
長年コツコツと積み上げる勉強とはなんかちがう。
その場、その場、で考えて動く。
その場、その場、任された仕事を片付けていく。
終われば、また次の少し大変な仕事を任される。
それが終われば、また次の少し大変な責任のある仕事を任される。
勉強に比べたら短期的に、かつ簡単に自分のポジションを変えていけるのだ。
休憩時間に職員さんとたくさん話をしたら、仕事がとってもやりやすくなった。
目に見えて短期間で変化が生まれる。
その場で判断する瞬発力が、仕事にはそのまま生きてくる。
仕事ってなんか楽しいかも!私は仕事がスキなのかも!
そう思った。
そう思ったら、なんだか目の前の霧が一気に晴れたきがした。
 
「別にこの仕事スキじゃないんで」
前に働いていた金融機関で、後輩のY子がわたしにボソっと言った。
じゃぁ、どんな仕事ならよかったの?
なんでここの職場を受けたの?
こんなに丁寧に仕事をおしえてきたのに?
一緒に飲みにもいったじゃない?
私の中の松岡修三が『そんな気持ちで仕事するならやめちまえ!!』と心の中で叫んだ。
案の定、その年の年度末でY子は仕事を辞めた。
ただの辞める口実だったのかもしれない。
本当のところはわからない。
彼女はその後はたしてスキな仕事についたんだろうか?
そして、わたしもその翌年に同じ職場をやめた。
責任ある立場を任されてやりがいに満ちた毎日だったが、店長と考えがあわなかった。
でもそれよりも大きな理由は、このままここにいても成長できない気がした。
当時、男尊女卑の残り香が未だ漂っていたその職場で、私のような若い女性の身分ではもうこれ以上できることがないと感じたのだ。
もっと自分自身が成長できる仕事がしたいと思った。
仕事が「スキ」だからこそ、他の仕事を探求してみたくなったのだ。
 
わたしは今回「スキ」と仕事の関係性をすこし考えてみた。
 
「スキ」なことがあり、「スキ」なことを仕事にできるのは素晴らしいことだ。

けれど、必ずしも「スキ」をみつければいいというわけではないと思う。
みんなが「スキ」な仕事だけをしたらどうなるだろう?と考えることがある。
たとえばみんなが「スキ」な仕事だけをすると、ゴミ処理場の仕事とか、工場でルーティン作業をする人がいなくなるのではないかと思う。
世の中は、「スキ」を仕事にする人 と 仕事が「スキ」な人
2者がいるから成立するのではないかと思うのだ。
こんなご時世だから仕事を選んでいる場合じゃない。
「スキ」な仕事じゃなくても、食べていくためにしなくてはいけない。
「別にこの仕事スキじゃない」は精神的衛生上とてもよくない。
この際だから、いっそ「仕事をすること」自体を好きになってみてはどうだろうか。
 
そうすればコロナが明けるころにはきっと、新境地を開拓した仕事好きがキラキラまぶしいぐらいに輝きながら働く世の中になっているんじゃないだろうか-
 
 
 
 
***
 
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2020-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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