ライティング・ラボ

【私的福岡】ビジネス街の日常と非日常のあいだ


 

記事:Ryosuke Koikeさん

 

台風が通り過ぎた翌日は、雲一つない快晴となった。
7月も中旬を過ぎ、福岡もそろそろ梅雨が明け本格的な夏が到来しそうだ。

 

福岡では「山笠が終わると梅雨が明ける」と言われている。
山笠とは、博多祇園山笠のことであり福岡の大きな祭りの一つである。簡潔に説明すると、7月前半の期間に、中洲周辺の至る所で豪華絢爛な山車が飾られるとともに、7月15日をフィナーレとして男衆が山車を担いで博多を駆け巡る行事である。

 

フィナーレである「追い山」は、迫力があり見ものらしい。
見ものらしいと書いたのは、私は見たことがないからである。
10年以上福岡に住んでいながら見たことがないのは、早朝に始まって終わるからである。

 

午前4時59分にスタートして、だいたい午前6時前に終わる。
7月15日が平日だろうが休日だろうが、例年私は起床後のニュースで終わったことを知る。

 

そういうわけで、これまで「追い山」を見たことがなく、祭り全体も自分とは遠い世界のように感じていた。

 

祭りとは、非日常である。
それぞれの祭りの由来は、神への感謝の行事であったり、無病息災を願う儀式であったり、地域の交流を深めるイベントであったりと様々であるが、我々現代人にとって、祭りは日常生活にない時間・空間である。
普段とは違うものだから、これを好機と捉えて、忙しい父親も家族と出かけることができるし、奥手な男子高校生も意中のあの娘を誘って二人きりになることができる。
祭りは、変わり映えのない日常に変化を与えてくれるものである。

 

朝に弱い私は、これまで非日常である山笠を味わうことができなかったが、チャンスがやってきた。今年の4月から仕事の勤務地が山笠の行われる周辺に変わったのだ。「追い山」は見られないかもしれないが、それ以外の山笠のイベントを目にする機会が多くなるはずである。

 

7月になり祭りが始まったところで、私は興奮や驚きよりも不思議な気持ちになった。

 

出勤の途中、ビジネス街を山笠の法被を着て下駄を鳴らして歩く男衆を数多く見かけた。私と同じように地下鉄のエスカレーターを登る。
帰宅の途中、至る所のビルの玄関や空スペースに詰所が設置されていた。その中では締め込み姿の男たちが食事をしたり作業を行ったりしているのを目にした。博多一本締めも聞こえてきた。その横を私と同じように仕事を終えた人達が通り過ぎていく。
家路に着く人達を満杯に乗せたバスが通り過ぎる一本後ろの路地を、掛け声とともに男衆に囲まれた山笠が走り去っていく。

 

日常と非日常とが分かれおらず、入り混じっていた。当たり前のようにあった。
祭りの参加者の中に、7月前半は毎年仕事を休む人がいると聞く。また、法被は祭りの期間中はスーツ同様正装とされるとも聞く。非日常が日常の中に溶け込んでいる。
これまで自分が見てきた祭りとは異なり、700年以上も続く山笠は、もはや日常化しているように思えた。
山笠期間中の博多は一味違った祭りの雰囲気を醸し出している。「追い山」だけでなく、この光景も観光の一つに思える。

 

自分の今の状況を考えてみる。
二人の子どもに囲まれた結果、以前に比べ自分の時間はなくなっている。
平日は家庭と保育園と職場のトライアングルを行ったり来たりである。気分転換に通勤ルートを変えてみるが、選択肢は限られ変化はそれほどない。
休日は買い物の後、正義の味方である息子に対する悪の親玉としての役割が待ち構えている。

 

仕事でも家庭でもない第三の場所、手元に残された非日常は、今のところ月1回のライティング・ラボだけである。
東京の天狼院では気になる部活やイベントが行われていて正直うらやましい。
やがてできる福岡天狼院は、東京の天狼院に負けず、きっと新たな非日常の入口を提供してくれるに違いない。そして、やがてそれも日常化したときは、また違う自分へと変わっていく気がするのだ。

 

今年の7月15日は年休を取っていた。
目覚めて枕元の時計を見た。午前6時30分。
私が「追い山」を目にする日は、やってくるのだろうか。

 

 

***
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2015-07-22 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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