リアル・トイ・ストーリー
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:スエミツヒロエ(ライティング・ゼミ日曜コース)
家のアパートのゴミ捨て場に行った時のことだった。それは、月曜日の午後のことだった。
我が家の地域のゴミ収集カレンダーによれば、燃やせるゴミの日は月曜日と金曜日の朝である。ゴミ収集車が、ゴミを回収してくれた後を見計らって、私は次の日の火曜日に出す予定の缶ゴミをまとめて、早めに出しに行ったのである。
鉄でできたゴミ捨て場の重いドアを開けると、薄暗い隅の方に、何やら異質なものが折重なっているのが見えた。ゴミ収集の事業者が回収し忘れたのだろうか。ゴミ袋からこぼれ落ちたのか。
よく見ると、それは、3体のぬいぐるみだった。しかも、見覚えがある。我が家のぬいぐるみたちではないか。
え、でも、どうして? その子たちは、我が家にいるはずだ。こんなところに捨てられているはずはない。
同じぬいぐるみを持っている人が、同じアパートの住人にいたのだろうか。
しかし、それにしても、こんな偶然があるのか?
私は、慌てて、家に戻り、ちょうど春休みで、家にいた娘たちに聞いた。
「ねえ、今、ゴミ捨て場に行ったら、リラックマのぬいぐるみが捨てられていたの。まさか、うちのじゃないよね?」
娘たちは、二人とも成人している。大学生になっていた。そして、バツが悪そうに、こう言った。
「あ、あれ、捨てた。」
「え! 何で? あんなに気に入ってたんじゃないの? 捨てるなんて、ひどい!」
そのぬいぐるみは、まだ娘たちが、サンタさんの存在を信じていた頃、まだ小学生だった頃に、長女のクリスマスプレゼントとして、枕元に置いたものだった。
リラックマのキャラクターシリーズで、3点セットのぬいぐるみだった。一番大きい茶色いリラックマ。ぐっすり寝ている顔が愛らしい。中くらいの白いコリラックマ。ちょっといじわるそうな表情がたまらない。一番小さい黄色いヒヨコ。とぼけた表情に癒される。
そんな3点セットのぬいぐるみは、ベッドで娘と一緒に寝ていたら、可愛いだろうな。と思って、私が選んだのだった。何となく、娘の寝顔と重なって、愛らしかった。私が気に入っていたのだろう。
娘も気に入って、いつも一緒に寝ていたが、ぬいぐるみには、娘のよだれやら何やらこびりついて、ずいぶん汚れていた。そして、娘も成長し、いつしか存在も忘れていた。
多分、処分される機会もないままに、月日は流れ、娘たちは大学生になり、家を離れていた。
長女は大学を卒業してから、チェコのプラハに留学することになり、1年目がすぎた。勉強はきついそうだ。そして、春休みに帰省していた時に、それまで処分できなかったものを、片付けるのだと、張り切って断捨離していた。
もう着ない大量の洋服、部活で作ったお揃いのユニフォーム、高校時代の教科書、美術の授業で作った制作物。などなど。
そして、あのぬいぐるみたちも、彼女にとっては、「もういらないもの」として、分別され、ゴミ袋に詰められて、捨てられたのだ。
そうそう、実は、私は物が捨てられない人なのだ。思い入れのあるものは捨てられず、よって家の中には物が多く、散らかっていて、いつも娘たちに、非難されている。断捨離ブームだけれど、物を大切にする良さだってあると思っている。片付けは苦手だけど……。
娘たちも、私に言ったら、止められると思ったのか。何も言わずに、ぬいぐるみをゴミ袋に詰めて、捨てていた。
ところが、なぜか、私が見つけてしまったのだ。それも、ゴミ捨て場で。
そして、ゴミ捨て場で見つけた、そのぬいぐるみたちが、我が家のものと確認するやいなや、私はすごいスピードで、彼らの救出に向かった。
3匹を抱えて戻ってくると、洗剤とお湯で、丁寧にきれいに洗って、乾かした。3匹のぬいぐるみたちは、すごくすごく幸福そうに見えた。
しかし、何で3匹のぬいぐるみは回収されなかったのだろう。娘たちに聞くと、ゴミ袋に入れて、しっかり口を縛って、出したらしい。
でも、私が発見した時は、3匹は折り重なって、倒れていた。ゴミ袋には入っていなかった。
まさか、ぬいぐるみたちが自分たちで逃げ出したのか? みんなで力を合わせて、必死に、逃げ出したのか?
これって、まさに『トイ・ストーリー』じゃないか。ぬいぐるみたちに魂が宿って、知恵を絞って、危機を脱出したんだ! そう考えて、私も娘たちも、興奮した。
「逃げろー」「がんばって逃げるんだ!」
真相はわからない。誰かが、捨てられるぬいぐるみを不憫に思って、袋から出してくれたのかもしれない。
それにしても、よく、助かったと思う。私が、あの時、ゴミ捨て場に行かなければ、そのまま見過ごされていたに違いない。
絶体絶命の危機を回避して、家に戻ってきた、ぬいぐるみたち。何だか、とても愛おしい。娘もそう思ったのだろう。
留学先に戻る娘のスーツケースには、助け出された茶色いリラックマと黄色いヒヨコが入れられた。白いコリラックマは、とりあえず、お留守番だ。
「留学生活は寂しいから、この子たちを連れていくことにする」
私は何だか嬉しかった。きっと、異国の地で、長女の癒しになってくれるに違いない。
プラハに戻った娘とは、LINE電話で近況を伝え合う。画面には、娘のベッドで、日本から連れていった、あのリラックマとヒヨコのぬいぐるみが、ぬくぬくとしているのが見える。あの子たちは、ゴミ捨て場から救出されて、海を渡って、今、プラハにいる。不思議だな。
そして、何だか、ますます、娘の幸せそうな顔に似て、そっくりに見える。
物が捨てられない。でも、こんなストーリーに出会えるって、素敵なことだと思うのだ。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325
■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984