一回の占いで救われた話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田口純美(ライティング・ゼミ通信限定コース)
その頃、私はかなり疲弊していた。
長女二歳。いわゆる「魔のイヤイヤ期」を迎え、私は第二子妊娠中の体で事務職としてフルタイム勤務。夫は多忙で連日日付が変わる頃にしか帰宅できず、平日はほぼワンオペ。実家は事情があって頼りたくなかったし、夫の実家は飛行機で行く距離。プライベートでの自分の自由時間はなく、大好きなお酒も飲めず、疲れもストレスもたまっていた。あまり思い出したくないが、雨の日につらすぎて泣きながらベビーカーを押して保育園にお迎えに行ったこともある。
一人目で手探り育児だったことに加え、「孤育て」に近しい状況が苦しさに追い打ちをかけていた。しかも妊娠中で体力もなかった。なにより、当時「しんどさ」が「どのくらいのレベル」なのかがわからなかった。山登りで例えるならば、目の前は上り坂ばかりで、今5合目なのか9合目なのかわからない、そんな感覚だった。まだまだつらい坂道が続くのか、いや、もっときつくなるのだろうか……。恐怖感すらあった。今ならわかる、あの頃はかなりきつい坂道を上っている時期だったのだ。
そして私は感じていた。長女は二歳だったが、長女と私はどこか波長が合わないことを。
言葉も多くはない頃だったが、保育園にいる時間を除いては私と一緒にいるので、相性はなんとなくわかる。なぜ私と長女は合わないのか、そして長女のことがもっとわかると少し楽になるのではないか、そう私は思っていた。
何か解決する方法はないものかと、育児書を読んだり、保育園の先生に相談もしたが、決定打はなく、インターネットサイトを見て興味が沸いた占い師に、思い切って長女のことを相談してみることにした。
ドキドキして診断結果を開けると、こんなことが書いてあった。
「あなたと長女さんは、似ているところがあります。宝石と宝石は、接すると傷つけあってしまいます。少し距離を取ったほうが良いです。ふたりは似ていますが、考え方やスピードは違います。あなたは、あなたに似ている長女さんが、あなたと違う考え方ややり方をするので、いらいらするのでしょう」
私は、はっとした。
そうだ。私から生まれたとはいえ、長女は私ではない。
私は、長女をひとりの人として尊重していなかった。
その後、母との苦い思い出がよみがえってきた。
かつて、母と口論になり「お母さんはそう考えるかもしれないけれど、私は違う考えだ」と言った時、親に反発するのかと母に強烈に叱られた。母と同じ意見であることを常々母は私に強いた。母が私の意見に歩み寄ってくれることはなかった。私は悲しくて泣いた。私は幼い頃から「いい子」だった。反抗することもなく母の顔色をうかがいながら成長したところも否めない。しかし、母が私の考えに理解を示してくれる日がいつか来るだろうという希望も、心のどこかで捨ててはいなかった。しかし、その希望はかなわなかった。
私はその悲しさを乗り越えるために、決意した。
もう期待しない。相談もしない。そして、私は母のようにはならないと。
私は反省した。
私は長女に対して、母と同じことをしようとしていたのかもしれない。私の考え方を押し付けてはいなかっただろうか。血のつながった親子とはいえ、私と長女は別の人格、長女は私ではない。そして、私から生まれた子供であっても、私と相性がいいとは限らない。それは愛情がないわけではなくて、ある意味「仕方のないこと」だ。まさに母と私との関係。
私はゆっくりと、そして何度も、その占いの結果を読んだ。読みながら考えた。
私が長女にできることは何だろう?
長女の話に耳を傾けること、私の気持ちを押し付けないこと、長女の思いを大事にすること、約束したら守ること、大好きだよと伝えること……
思いつくことは、全て私が母にしてもらいたかったことだ。
長女は、元気いっぱいで好奇心旺盛、積極的で明るい性格ながら、甘えん坊で怖がりな一面もある。甘えを許すことで、落ち着きが出てきた。成長にともなって言葉でのコミュニケーションが増え、楽になった。大好きだよと伝えると、私も大好きだよと言ってくれる。それだけでいいじゃないか。うまくいかない日もあるけれど、完璧な母親なんて求められていないだろうし、子供が親に逐一従うはずもない。お互い機嫌が悪い日だってある。それらをどうにかして過ごしていくのが、家族という最小単位の社会だ。
占いの結果はこんなふうに続いた。
「成長すると、生意気なことを言う娘さんになると思いますが、たまには親子喧嘩をしたほうが仲良くなれます。長女さんが成長することで、母親としての不安はどんどん消えていきます。長女さんが壁にぶつかったとき、あなたもご主人も長女さんの助けにはならないでしょう」
なんだか、将来の私たちがぼんやりと目に浮かび笑ってしまった。私と長女は女同士のひどい親子喧嘩をして、それとは関係なく長女は長女なりに自分自身の人生を歩いていくのだろう。私は母と親子喧嘩をしたことがない。母とは喧嘩して分かり合えるような関係ではないから、喧嘩しないよう私の本音を母には言わない。私と長女は喧嘩しながらも仲良い親子関係が作れるならば、私と母との関係性よりよっぽど風通しはいいだろう。
私が長女に向き合ってつらかったのは、手がかかる時期の長女の世話が、身重の私に大変だったということだけでなく、私と母との関係という傷口をなぞって痛みを再確認するような苦しさを感じていたからだ。そんな私を占いは救ってくれた。長女と私は違う人間だという気づき。私が母からされたかったことをして、そして愛情をもってニュートラルに接すればいい。喧嘩だって恐れなくていいのだから気も楽だ。
長女が成長したとき、「お母さんに話をきいてもらいたいな」と思えるような母に、私はなれるだろうか。多分助けにはならないけれど、いつでも話を聞いてあげられるよう、長女の応援団でいたいと思う。
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