お洒落はセンス!?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:住山鈴香(ライティング・ゼミ 通信限定コース)
「なんでまたあの靴履いてくるかなぁ……」
新卒で入社してきた新人の彼女の服装が、セレクトショップ店長である私の悩みの種だ。
彼女の履いている靴は黒の革靴なのだが、まるでコッペパンのようにぽっこりとしたなんとも言えないカタチの靴だ。おまけにかなり履き込んでいるので、革の質感がヨレヨレだ。
彼女は短大卒の20歳で入社してきた。服が好きでアパレルを希望していたというのではなく、たまたま就職活動の一つとして受けた会社に合格したから入社してきたというようなタイプだった。
店頭に立つ時の服装は、全て自社のブランドを着る必要はないが、販売員としてお客様に対応するため、お店の雰囲気やブランドのコンセプトに合うような服や、トレンド要素のあるコーディネートが求められる。アパレルでは、自分の服装も大切な仕事の一つなのだ。
私を悩ます彼女は、入社してすぐの新入社員なので手持ちの服が少ない。そのため服装に苦労していることは理解している。しかし、先輩たちが「こういうもの着てみたら」と気にかけて何度もアドバイスをしているが、お洒落に興味がないのか、なかなかアドバイスを聞き入れず、いつもコーディネートが野暮ったい。ましてや靴の手入れもできていない。店頭でお客様を接客できるレベルではないのだ。
実はこれは新人にはよくあることで、彼女もきっとすぐ辞めるんだろうなと思っていた。
ところが半年ほどたった頃から、彼女の服装が少しずつ変わってきた。自社の商品を少しずつ購入し、着始めたのだ。
ショップで働くメンバーはみんな服好きのお洒落好きだ。商品が入荷するたびに、メンバーは試着し、あれが可愛い、これが欲しい、似合う似合わないなど、服とお洒落に関する話が日常飛び交っている。この環境に彼女も感化され始めたのだろう。
とはいえ約20年お洒落にそこまで興味がなかった彼女。彼女が選んだ服を「それは似合ってない」とか「コーディネートが変」とか先輩たちがダメだしすることもしばしば。そうやって失敗を繰り返してはいたが、失敗するうちに、自分の好きなものや似合うものが自分の中で分かってきたようで、なんとか店頭には立てる服装になってきた。
アパレルでは、シーズンごとに商品説明会が開催され、トレンドやコーディネート、ブランドやデザイナーについて学ぶことができる。彼女も何度も商品説明会に出て知識を増やしていった。入社当時は、服のこともトレンドも、ブランドのことも全く知らなかった彼女が知識をつけることで自信がついてきたのだろう。少しずつ、垢抜けてきたのだ。
そうなると、先輩たちが「最近、お洒落になったね」、「今日、可愛いやん」と彼女を褒めるようになった。それにより彼女はどんどん服の魅力とお洒落の楽しさにハマっていき、自分に自信を持つようになっていた。そして、これが仕事にも良い影響をもたらし始めた。
彼女は入社以来ずっと服装にダメだしされていたが、問題は服装だけではなかった。業務のミスが多いし、接客ではお客様への配慮が足りないことが多かった。ところが、お洒落に自信がでてくると、まず、お客様への対応のレベルがグッと上がり、彼女に接客してほしいという顧客様ができ始めた。業務も効率よくこなせるようになってまるで別人に変貌した。
入社して1年後に後輩ができると、1年前は、自分が服装にダメだしされていたのに、今度は後輩の服装のダメだしをするまでになっていた。彼女がここまで成長できたのは、周りのメンバーたちの指導のおかげなのだが、どんなにダメだしされても、失敗してもそれを経験として積み重ねてくることができた彼女の強さがあったからだ。
彼女のように服装でダメだしをされたことで、このアパレルの世界についていけなくて辞める人も多い。だが、彼女はそこを乗り切ったのだ。
アパレルで働いていると、「私、センスないから」という言葉をよく聞く。
センスがあるかないかは生まれつきのように思われているかもしれない。確かにお洒落に関して天性のセンスを持っている人もいるとは思う。
しかし、彼女のように経験と知識を積み重ねていくことでセンスを育てていくこともできるのだ。そして、一度身に付けたセンスは、彼女のように、自分に自信を持たせることができ、表情や振る舞い、行動も変わっていく。
センスがある人というのは、たくさん知識を得、経験を通してその人らしい確固たるベースがある人のことなのだろう。
かくいう私も、セレクトショップ店長という立場ではあったが、大学時代を知る夫には「あの頃のオレンジのワンピースヤバかったよなぁ」と言われるぐらい、センスはイマイチだった。コッペパンみたいな靴の彼女と同様に、私の今のセンスは、経験と知識で構築したものなのは間違いない。
先程の彼女だが、その後、ショップで売り場づくり(ディスプレーや商品陳列)のリーダーを経験し、今は転職し、某有名海外ラグジュアリーブランドで働いている。
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