メディアグランプリ

4番バッターになれなかったから、自分の居場所が見つかった


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記事:Hiroki(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「打ったー! これは大きいぞ!! 逆転サヨナラホームラン!!」
実況の声が響く。
その声をかき消すほどの、観客の大声援に迎えられる。
 
打ったバッターはガッツポーズをして、ゆっくりと走る。ホームまで戻ってきて、仲間たちに迎えられ祝福を受ける。
 
ヒーローインタビューでは自分が話す度に割れんばかりの歓声が起こり、気づけば皆が彼の名を呼ぶ。
 
9回の裏、ツーアウト満塁で打席が回ってきた4番バッターは見事に皆の期待に応え、ヒーローとなった。
 
そんな光景に憧れて小学生の僕は「プロ野球選手になりたい」と思った。
 
もちろん、プロ野球選手を目指すからには4番を打ちたい。
「4番バッターになってホームラン王になるんだ」
僕もそう思っていた。
そんなことを考えたことがあるのは、僕だけではないだろう。
 
けれど、現実はそんなに簡単じゃない。
 
野球部に入った僕は、小学校の野球部で4番になることすらできなかった。
小学校の野球部でも、自分より打てる人はたくさんいた。
目立った活躍もせず、サヨナラホームランを打ってみんなに迎えられる場面なんてなかった。
 
主役になる場面なんてないまま、僕はあっさりと野球部を引退した。
 
中学や高校では野球部に入ることもなく過ごし、自分が小さい頃に「4番バッターになって逆転サヨナラホームランを打つ」なんて考えていたことも忘れていた。
 
高校を卒業した後は大学に進学した。
 
大学には、すごい人がたくさんいる。
研究室に通って、学生ながらに立派な研究発表をする人、バイトをしまくって社会人並みに稼ぎまくる人、スポーツで全国大会に出る人や学生団体を立ち上げる人もいた。
 
僕は成績もそれなりに良かったし、バイトでもそれなりに稼いでいたし、部活にも学生団体もそれなりにやっていた。
 
でも、何かでトップになるとか、すごい実績を残すことはなかった。
だから、何かでトップになって、主役になれる人はすごいと思っていたし、羨ましかった。
 
大学を卒業すると、今度は医者として働き始めた。
 
医者の世界もすごい人がたくさんいる。ほぼ毎日病院に泊まり込んでたくさんの手術をこなす人や、普通に仕事しながら世界レベルの論文を書いている人もいる。
 
そんな人たちに羨ましさを感じつつも、そうはなれないまま時間は過ぎた。
自分は仕事の世界でも「4番バッター」にはなれなさそうだなと思った。
 
けど、何年か仕事を続けていると、不思議と自分を褒めてくれる人が増えてきた。
「処置とか専門のことじゃなくても、いろいろできてすごいね」
「診察代わってもらう人困ってたけど、先生ならこなせるから安心して任せられる」
 
僕は特にすごいことができるわけでもないのに、褒められることに違和感があった。
 
そんなとき、上司と飲みにいって言われたことがあった。
 
「すごい手術ができるとか、すごい研究をしているとかよりも、患者さんや看護師さんとちゃんとコミュニケーションがとれて、ある程度広い範囲を診られる人がいると助かる」
「でも、そういう人って意外といないんだよな。君はそれができるから助かるよ」
 
そういうものなのか、と思った。
たしかに、自分のやっていることの1つ1つはすごいことではないから、自分としては何かをやっているつもりはない。
 
でも、それなりにコミュニケーションがとれて、書類仕事や雑用も普通にはこなせて、専門外でも最低限は対応できて、他の人の代わりの診察でもなんとかはこなせる、というのを全て掛け合わせると貴重な人材になれるらしい。
 
自分では何かすごいことをしているつもりは全くなくても、思ったよりもそういう存在も大切なようだ。
 
大人になって、久しぶりに野球を見るようになった。
 
4番が豪快なホームランを打って観客が沸く、もちろんそんなシーンも相変わらずあった。
 
だけど、ずっと見ていると、ある程度の打率が残せて、どんな守備位置もそれなりに守れる。ホームランバッターというほどじゃないけど、たまにホームランも打つ。
下位打線にも置けるし、1番や2番を打たせることもできる。
 
そんな選手が強いチームには必ずいることに気づいた。
そういう選手のことを「ユーティリティプレイヤー」と言うらしい。
 
そして、よく見るとそういう選手のファンもたくさんいて、チームにも大切にされている。
 
たしかに、1つ1つの能力は突出していなくても、いろいろなことをこなせる選手というのはなかなか代わりがきかないし、貴重な存在だ。
 
それなら、こういう生き方も悪くないと思った。
 
順風満帆に4番バッターとしての人生を歩んでいたら、多分それに満足してそんなことは考えなかったと思う。
 
野球でも仕事でも4番バッターにはなれなかった。
だからこそ、ユーティリティプレイヤーとしての自分の能力を見つけることができた。
そして、自分の居場所が見つかった。
 
今も、同じ職場でやっぱりいろいろなことをこなしながら、僕は楽しく働いている。
やっぱり難しいことをしているつもりはないが、それでも周囲の人は喜んでくれている。
 
自分に突出したものがなくて悩んでいる人がいたら、「ユーティリティプレイヤー」として生きてみるのはどうだろう。
 
意外と自分は貴重な存在であることを発見できるかもしれないから。
 
 
 
 
***

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2020-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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