「やりたいこと」はすぐに溶けてしまう
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Hiroki(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
「何かやりたいことはないの?」
8月の暑い日曜の午後、友達にそう聞かれた。
「いや、特にはないかなぁ」
とアイスを食べながら僕は答えた。
特にやりたいこともなく、ダラダラと過ごすことが続いている。
学生の頃や社会人になりたての頃は毎日が変化に満ちていたが、社会人6年目となると毎日代わり映えもしない。
楽しいことも大変なこともないわけではないが、いろんなことに慣れてしまって感情を揺さぶられることは減ったと思う。
そうやって日々なんとなく生きている僕に、「やりたいこと」だなんて急に言われても答えられるはずもない。
でも本当にそうなのだろうか? 自分には何もやりたいことはないのだろうか?
せっかくなので、もう少し考えてみることにした。
まずは、昨日の行動を思い出してみる。
たしか家でゲームをして、その後は買い物にいって服を買って、ラーメンを食べて帰った。
なんてことない普通の休日だ。良い休日ではあったけど。
今度は、何かこれから楽しみなことがないか考えてみる。
「今度の沖縄旅行が楽しみだな」
「旅行に行くならカメラが欲しいかな」
そんなことが思い浮かぶ。これも特別なことではなく、みんな思うようなことではないだろうか。
じゃあ、学生の頃はどんなことをしていたのだろうか。
サークルのみんなで温泉に行って夜中まで飲みながら語るとか、次のイベントについて意見をぶつけあうとか、授業のない日に昼までだらだらするとか、そんなことをしていたと思う。
テストが終わって遊びに行ったり、夏休みを楽しみにしたり、と生活にメリハリもあったような気がする。
でも、そのときはそんなに特別なものと思ってやっていただろうか。
そんなことはない。
そのときなりに「普通の毎日」を過ごしてやりたいことをやっていただけだ。
サークルで旅行にいくのも、活動のなかで意見をぶつけあうのも、平日に昼までだらだらするのも、テストがあって夏休みが来るのも大学生にとってはそう特別なことではないだろう。
けど時間が経つにつれてそれらは、特別なこととか、今はもうできないこととか、できても同じようには楽しめないこととかになっていったのだ。
今だって一緒かもしれない。
子供ができて、年を取ったら「家でゲームをして、その後は買い物にいって服を買って、ラーメンを食べて帰る」なんて当たり前の休日もなかなか過ごせなくなるだろう。
「家でゲームがしたい」
「服が買いたい」
「ラーメンが食べたい」
そんな普通のことは10年後には特別なものになっているかもしれない。
そして、それらは今の自分にとっては「やりたいこと」だったのだろう。
また、今旅行に行っても、昔とは別の感じ方をするように、10年後に旅行に行ってもまた今とは別の感じ方をすると思う。そしたらその旅行はたとえ同じ場所に行ったとしても、今とはまったく別の体験になってしまうだろう。
今の自分が「沖縄に旅行に行く」とか「カメラが欲しい」というのもそうだ。
行きたいと思った今の自分がそこに行くことが大切なのだ。今の自分がカメラを買って、写真を撮ることに意味があるのだ。
そしてその体験が、何年も経って特別なものになっていくのだ。
そんなことを考えていたら、アイスクリームが溶けてきた。
暑い日はアイスクリームが溶けるのも早い。
ドロドロになったアイスは、さっきほどは美味しくはない。
夏のアイスは美味しいが、食べごろはそう長くはない。
「夏の暑い日にしっかりと冷えたまだ溶けていないものを食べる」
それこそが、最高のアイスの食べごろだ。
「やりたいこと」もそれと同じだ。
「サークルのみんなで温泉に行って夜中まで飲みながら語る」なんて体験は大学生の頃が最高に食べごろだ。その頃にしたからこそ最高の経験になったのだろう。
「家でだらだらゲームをして、その後は買い物にいって服を買って、ラーメンを食べて帰る休日」や「沖縄に行って新しいカメラで写真をとる体験」は実は今が一番の食べごろなのかもしれない。
「これをしたい」と今考えていることは、たとえ些細なことや普通のことでも今こそが最高の食べごろなのだろう。
僕らはそんな「やりたいこと」を無自覚のうちにたくさん持っている。
「アイスが食べたい」もそうだし、「話題のあの店に行きたい」「あの本が読みたい」とかもそうだ。
でも、気を付けないとそれらは夏に外で食べるアイスクリームのようにすぐに溶けてしまう。
だからちゃんと溶ける前に食べてあげないといけない。
そして、食べごろで味わうことのできた経験たちは、将来思い出すときには特別なものになる。
だからそんなたくさんの「やりたいこと」を、僕らは大切にしてあげないといけない。
それがどんなに些細なものだとしても。
「あ、やっぱやりたいことをあるわ」
僕はまた話し始めた。
「おっなになに?」
と友達が答えると、
「焼肉が食べたい」
と僕は返す。
「なんだそれ」
と友達は笑う
笑いつつも
「そう言われると食べたくなってきたな」
と友達も話し、僕らはこれから焼肉に行くことになった。
「アラサーの男2人で思い立って焼肉に行く」なんて体験はきっと今が最高の食べ頃だろう。
日常の些細なことだけど、今僕はその体験がしたいとちゃんと思ったのだから。
何気なく焼肉屋に歩き始めた僕らは、特別で今しかできない体験をこれからするのかもしれない。
***
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