逃げても逃げなくても道は険しい《週刊READING LIFE vol,96 仕事に使える特選ツール》
記事:篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
ジンバルカメラってのは便利なものですね。
軽くて小さいから片手で持てるし、気軽に持ち運びができる。撮影すれば手ぶれはほとんどない。しかも映したい相手を追いかけて撮影する機能まで付いているの。
4K映像まで撮れるのもあるとくれば持たない理由はないと思う。
しかしながら、僕はカメラに関心などほとんどない。スマホの性能もすごく上がっているからインスタ映えを狙った写真も撮れるし、ユーチューバーでもないから映像を普段から撮る必要もない。
でも、買っちゃったんだよね。
どうしてか?
実は、天狼院書店・WEB READING LIFEの企画で取材に行かないといけなくなり、音声や動画がないといけないからだ。
そんなもんスマホで全部まかなえると思いきや、プロの編集者さんが講師の「取材ライティングゼミ」で受けた教えではボイスレコーダーとカメラははあったほうがいいそうだ。
なんでかと言うと取材相手への印象だそうだ。スマホで全部できると言ってもボイスレコーダーないと不安になる人もいるしちゃんとしたカメラを持った人が取材に来た方が安心するそうだ。
それもそうだと思い、ジンバルカメラを買ってみた。もちろんボイスレコーダーもね。カメラは運がいいことにプロのカメラマンが同行してくれるので自分でやらなくても良かったのでとてもありがたい。
取材相手も以前からの知り合いである鎌倉文学館館長・富岡幸一郎先生なので取材記事を書くのに慣れてなくても何とか形にはできるだろう。
初めて取材をする前にジンバルカメラを目の前においてから「これで動画も撮影しますね」と話すと相手も興味を示す。
「こんな小さいので撮れるんだ」
「そうなんですよ。手ぶれしないし、4Kも撮影できるんです」
「へえ。すごいねえ」
なんて会話を交わしながら取材をスタートさせる。動画はカメラマンさんが一緒に撮ってくれているので僕の撮影した動画は使うことはないだろう。でも、記録だけはしておきたかった。音声はボイスレコーダーがあるから問題はない。
実際に取材が終わった後に動画を見返すと取材相手の顔が見切れていてとてもじゃないけど人様の前に出せる代物ではなかった。でも、音声はしっかり録音できていたので書き起こしも無事に完了できた。
それから半月ほどだって二回目の取材。お話を聞くときはジンバルカメラを使う事なく無事終了。音声はボイスレコーダーとスマホをフル活用してどちらでも録音できていた。
時間は40分ほどだけど中身の濃い取材ができたと自負している。中身を公開したいのだが、それをやってしまうと「天狼院書店・WEB READING LIFE」に掲載されたときの楽しみが半減してしまうのでそちらを楽しみにしていてほしい。
その後の話なら規約に触れない程度で明かすことはできる。僕と富岡先生が並べば話になるのは政治や経済、文学、思想といったことになる。
それもそのはずで富岡先生は故・西部邁(にしべすすむ)先生が創刊した言論誌「表現者」の編集長をしていて僕は表現者が主催した塾で西部先生教えを受けていた。
当時から富岡先生にはお世話になっていて講義が終わった後の懇親会やその後の三次会でもお互いに議論を交わしては酒を飲むというのを繰り返していた。富岡先生は塾では世話人のような役目をしていてゲスト講師を選んだり、塾生への気配りとして懇親会ではテーブルを回っては僕みたいな連中の話を聞いていた。
優しくて誰の悪口も言わない人柄は塾生からも慕われており富岡先生の悪口をいう人は誰もいなかった。西部先生が厳しい部分を持っていたのでクッションのような役目をしていたと思う。
取材の後に「ああでもないこうでもない」と言いながら話していると当時を思い出して懐かしくなる。もしジンバルカメラで撮影できたら自分で見返してニヤリとしてしまうだろう。あの時に知り合った仲間とは少数ながら今でも連絡を取っているからみんな懐かしいと思うに違いない。
ジンバルカメラが活躍したのは二回目の取材の後にセッティングされた撮影日でのこと。ッ写真撮影の他に動画撮影もOKをもらっているからジンバルカメラで動画を録画していたのだ。
鎌倉文学館館長で関東学院高校教授・文芸評論家と多彩な肩書きを持っている富岡先生も動画の撮影があまり慣れていないと思うが特に緊張した様子もなく普段通りに話してくれている。この間取材したときと変わらない。豊富な知識から話してくれる内容はもちろん現時点ではシークレット。公開できるときがきたら是非ご覧いただきたい。
それにしても謎だったのが富岡先生がどうして取材をOKしてくれたのか? ということ。確かに塾で知り合ってお世話になったけど別に無視しても良かった。実際に忙しいだろうし、取材のオファーをしたときも天狼院書店のことは知らなかった。
電話するまで多分2年くらいは会ってなかったと思う。理由は西部先生の死。自裁されて以降、色々とあって富岡先生とは中々お目にかかる機会はグッと減ってしまった。西部先生がお亡くなりなる前に表現者塾が開かれなくなったのも一因だったと思う。
塾の会場だった日本記者クラブの大ホールで煙草を吸いながら西部先生と講義のテーマとは一切関係ないカラオケやらスイカやらアメリカに在住していたときの話を聞いていた時代に富岡先生とは新宿の居酒屋で僕の拙い書生論議を聞いてもらったりしていた。
富岡先生はビールが好きで酔うと赤ら顔になってYシャツの乱しながら誰が見ても酔っ払いだとわかる姿で帰ることもあった。普段がしゃんとしている分ギャップがあるのでびっくりしたのを覚えている。
講義の後に開かれる懇親会では西部先生と同じテーブルに座りたい人が大勢いたのだが、僕はなぜか富岡先生にかわいがってもらっていたのでほぼ同じテーブルに座れたのだ。
それくらい恩義のあるのが富岡先生。どうして長い間連絡を取らなかった人間のお願いをあっさりと聞いてくれたのだろう?
取材のお願いも二つ返事。動画も同じく二つ返事でOKをしてくれた。取材の後の撮影も富岡先生から提案してくれたこともある。とても取材に協力的なのだ。鎌倉文学館の撮影もあっさりと承諾してくれた。
自分なりに考えてみる。
真っ先浮かんだのは鎌倉文学館の宣伝ができること。しかしながら鎌倉文学館は鎌倉でも有数の観光スポットで江ノ電・由比ガ浜駅から行き先が表示されるくらい有名で取材に行ったときも常に訪問客がいた。
それもそうだろう。何せ写真を外観写真をみればわかるが建物が恐ろしく素晴らしい。美術とか建築に興味がなくてもわかるほど美しい建物が鎌倉文学館なのだ。これを撮影しに来た人もいる。
他の魅力としては文学の街である鎌倉の歴史を紡ぐ場所でもあるから文学好きとしては外せない。
現在はコロナ渦で訪問客は減っているだろうが、派手に宣伝するほどでもない。
そこでもう少し考えてみた。
本屋がやっているサイトだから引き受けてくれたのかもしれない。最初の打ち合わせで「この時勢で店舗を増やしているって凄いね」と興味を持って話を聞いてくれていた。社長の三浦さんの名前もメモして自分でも調べてくれたほどなのでこの推測は外れていないと思う。
他にも理由を考えてみると富岡先生は鎌倉文学館館長として鎌倉で文学のイベントを開催したことがあるので文学の企画だから刺さったのか知れない。
それだけでも引き受けてくれるには十分な理由だけど、知らない人なら首を縦に振ったかな? と思ってしまったのだ。
なぜならば、富岡先生は「鎌倉文士とカマクラ」という鎌倉文士(鎌倉に移住をしてきた文学者や作家を指す言葉)についての本を上梓しているが、編集は大学での教え子だったそうだ。
何が言いたいかというとこの企画を引き受けてくれたのは曲がりなりにも僕と知り合ってそれなりの時間を過ごしてきたからだろう。つまり企画が良くてもどこの馬の骨かわからないなら断っていたということ。
つまりそれなりに富岡先生から信用されていたということに違いない。
何が言いたいかというといいツールを用意しても使える環境がないならば宝の持ち腐れになってしまう。僕の場合で言うとジンバルカメラを使える環境になったのは取材相手である富岡先生からある程度の信頼を獲得していたからだろう。
世の中、たくさんの特選ツールがあるがそれを使えるようになるためには土台である人間関係が重要なんだなと改めて思った次第。
まだジンバルカメラを使いこなしているとは言い難いけど、もっと取材で使えるようにこの信頼関係だけは大事に守りたい。《終わり》
□ライターズプロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって都内に仕事で通うほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーライターとして日々を過ごす。
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