いつもは出さないYESを出したホントの理由
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴木かおる(ライティング・ゼミ日曜コース)
「はじめてのキャンプみたいな、キャンプしたい」
5歳の長男が、突然言った。
「はじめてのキャンプ」は、林明子さんの絵本。
「ちいさい子」のなほちゃんが、
隣のおばさんと「おおきい子」たちがキャンプに行くところに、「ちいさい子はだめ!」と言われながらもついて行って奮闘し、皆に助けてもらいながらいろんな経験をする素敵な絵本だ。
薪集め、飯盒炊飯、川辺でスイカを冷やして夜に花火、テントでの怪談。
エピソードのひとつひとつが魅力的で、やってみたくなるのはすごくわかる。
いつもなら、旅行は癒しの温泉と上げ膳据え膳が基本、アクティブ代表格キャンプの選択肢はないのだが、なぜか、「よし、わかった」と言ってしまった。
なぜ、YESを出したんだろう?
自分でも深く考えないまま、彼の希望を確認するところからスタートした。
かわのちかく
テント
ねぶくろ
カレー
すいか
はなび
こわいはなし
おんせん
むしさがし
はんごう
バーベキュー
全部を叶えるのは初心者には難儀だな、と判断し、川の近くのバンガローでバーベキューあたりが無難かな~と考え、
「この中で一番やりたいのは?」と訊くと、
「テント!」
まじかよ。
バンガロー却下じゃん。
いつもならそこで説得してバンガローでもよかったのだけど、「わかった、調べてみる」と、なぜかまた言ってしまった。
まただ。なぜここでもYESを?
ここでも深く考えないまま、勢いで行ける日を確認し、川原でテント泊できるキャンプ場を調べたが、インターネット上で空き確認できるところは全部キャンセル待ち状態。
そういえばコロナ禍でアウトドア熱が高まっているという報道をみたような。
次は電話のみ受付のところにチャレンジし、半日かけてやっと予約できひと安心。
さて日にちと場所は決まった、次どうしよう。道具とかどうすればいいんだろう。
独身の頃、富士登山や夏フェスでテント泊は経験したけれど、移動手段も道具も、一緒に行く友人たちにおんぶにだっこだったので、キャンプ知識はほぼゼロだ。
私たちはアラフォー夫婦と5歳長男、2歳次男の4人家族。
長男はともかく次男は行動に制御がきかない危うい時期で、安全性の確保が絶対。
そこで、
「初心者幼児連れ家族が電車でキャンプに行って川原でテント泊したい」場合に、
何が必要なのか、どんな注意をするといいか、キャンプが得意な友人にきいたり、SNSで「家族でキャンプ!」的なグループを探し出して質問したり、
個人ブログを検索したりして、試行錯誤で準備を進めた。
思っていた以上にたくさんの方々がアドバイスをくれた。
「初心者は色々と借りられるところに行ったほうがいいよ」
「飯盒は難しいからレトルトでもいいかもよ」
「薬や保険証、虫対策忘れずに!」
「子ども連れなら遊び道具があるといいよ」
「いろいろ手を抜いてね」
「また行きたい、と思えるような時間になるといいですね」
親身になってくれて嬉しいな、私のキャンプ熱はどんどん上がっていた。
テント類は借りることにし、寝袋は購入。
ご飯は極力簡単にレトルト中心。
長男とあれやこれや決めていくのもまた楽しい。
そして、だんだんとその日が近づいてきた。
が、2週間くらい前から、文字どおり、暗雲が立ち込めてきた。
天気予報に並ぶ雨、雨、雨マーク。
台風は来ないものの、秋雨前線の影響で見事に雨予報。
川原テントにしたときから、危うい2歳がいることもあり、
増水の危険性を考えて少しでも危ないと判断したら行かない、と、
夫と最初に決めていた。
だから、キャンセルの決断をする、つもりだった。
前々夜、夫と最終判断の会議をした。
夫は迷いなくキャンセルの意向。
しかし、私はその決断を、すぐには下せなかった。
親としてどうなんだ、という想いが逡巡したが、
そもそもなんで普段選択肢にないキャンプに行きたいという息子の希望に、
YESを出したのか。
夫と話していくうちに、
YESの奥に、たくさんの、私自身の希望があったことに気がついた。
今年は、コロナ禍で、すべての保育園行事が中止になった。
年長として成長と活躍を見られるとずっと楽しみしていた、
運動会も、お祭りも、お泊り保育も、発表会も、なくなった。
私は在宅勤務に変わり、会社の指示で越境禁止、
仕事が終わると即家事育児、子どもの後追いで一挙手一投足思い通りに動かせず、部屋は汚くなるばかりで、閉塞感が漂う。
子どもの希望を叶えて、一緒に思い出を作りたい。
日常と違う場所で深呼吸したい。
これ以上、何かが中止になったり、叶わないことが辛い。
それが普段と違うYESを出した、私の本音だった。
それに加えて、積み上げてきたキャンプの準備、
色々なことを教えてくれた皆の親切さ。
私の希望は、大きく膨らんでいたのだ。
夜深くまで話し、結局キャンセルの方向でまとまるが、気持ちがおさまらないまま、布団に入る。
翌朝になっても私の気持ちはおさまらず、私が行きたいのにキャンセルの連絡をするのが嫌すぎる、私1人でも行きたい、と本末転倒なことを言い出す始末。そんな私を見て長男も、おれも雨でもいきたい!と主張。
長らくの膠着状態を経て、
私と長男2人で行く
という変則ソリューションを編み出し、当日を迎えた。
キャンプからの帰り道。
「キャンプ超楽しかった、また行きたい!」
それが聞けただけで私はとても満足だ。
自分のなかの希望から目を逸らさずにいよう、と、
いつの間にか大きくなって先を歩く、5歳の頼もしい背中をみて考えた。
《終わり》
***
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