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自分の病気が、何なのか分からなくなった話


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記事:山添真喜子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「退院したら、どんな体調で生活することになるのかな……」
 
9か月の入院生活が終わる頃、私は自宅での生活を想像していた。
 
大病と言われる白血病を、治療した身である。
白血病サバイバーはどんな体調で退院生活をスタートするのか、どんなことに気を付けなければならないのか、正直不安だった。
 
「退院後も、ステロイドと抗がん剤を飲み続けるから、副作用はあるはず。 まだまだ治療が続いていることを、忘れないようにしなきゃ……」
 
白血病患者は通常2年間治療を続ける。2018年8月から入院治療を続け、2019年4月に退院。その後2020年8月までは維持療法が続く予定だった。
そのため、退院後も月に1度病院に通う。血液検査を受け、その結果を確認した上で、維持療法のための薬を処方してもらうことになっていた。
 
退院するすこし前から動かすと痛かった、右親指と手首の症状が退院後ひどくなった。
 
「抗がん剤の副作用による間接痛かな……」
 
副作用ならばしょうがない、と1か月間我慢した。しかし、痛みは耐えられないレベルになってきた。洗濯はさみをつまんだり、ハサミを使ったり、包丁を握ると激痛が走るようになってしまった。
 
「先生、右手を動かすと、ものすごく痛いのですが……」
 
そう主治医に告げると、整形外科の受診を予約してくれた。
 
「これは、ドゥケルバン腱鞘炎ですね。 女性ホルモンに変化があると出ることが多い症状です」
 
珍しい病気では無いという口調で、初めて会う整形外科の医師が言った。
 
「ステロイドの注射を、手首の腱にしますね。 ちょっと痛いけど我慢してください」
 
白血病の治療のため、いろいろな痛い処置を受けてきた私である。出産もしている。痛みには慣れていると、自負していた。でも、この注射の痛さは尋常じゃなかった。入院中一度も泣かなかったが、思わず涙目になった。
 
「ドゥケルバン腱鞘炎になんて、二度となりたくない。」
 
さんざんな気持ちで、家路についた。
 
退院して2か月が過ぎた頃、猛烈な汗をかくようになった。それも顔周りに。6月だったので、蒸し暑い時期だった。でも、こんなに汗をかいたことは、今まで無かった。そさらに、ちょっとした物忘れもするようになった。今さっき置いた物を、探すようなことが何度か起きたのだった。
 
「この異常な汗や物忘れも、抗がん剤やステロイドの副作用なのかな。
入院中は、こんなことなかったけど……」
 
あまりに不快な状況に、ネットで調べてみることにした。
 
「白血病じゃなくて、更年期?!」
 
私の症状は、更年期の症状にぴったり当てはまるではないか。ものの5分で、不快な症状の原因を自ら突き止めたのだった。
 
入院直後の寛解を目指す厳しい抗がん剤で、私のホルモン状態が大きく変わったのを思い出した。以前主治医から、今後5年~10年かけて進むはずだったホルモン変化が、抗がん剤治療により一気に起きたという説明を受けていた。
 
ドゥケルバン腱鞘炎、ホットフラッシュ、短時間前のことを思い出せない物忘れ。退院後の血液検査で、悪玉コレステロールの数値が上限値を超えていたのも、更年期の特徴として説明がついた。
 
この発見の後、白血病の治療の話はそっちのけで、更年期症状の対応について、検診時に相談するようになった。
 
まず、主治医は、更年期症状に効果がある漢方薬を処方してくれた。それ他にも有効なものは無いかとネットで調べてみたら、エクオールという大豆イソフラボンの成分の情報を見つけた。そこで、主治医から許可を得てエクオールサプリも飲み始めることにした。
 
幸いなことに、漢方薬とこのサプリの効果で、ホットフラッシュや物忘れはすぐに改善された。さらに、なかなか下がらなかった悪玉コレステロールの値も、二か月後には正常値に収まるようになった。
 
「散歩したり、甘いものを控えたりしても効果がなかった悪玉コレステロールの数値が良くなるなんて、やはり更年期の影響だったのだな……」
 
自分の抱えていた問題がクリアーされるたびに、私は心の中でガッツポーズを取った。適切な対応をしたら効果がでることが分かり、すがすがしい気持ちにさえなった。
 
抗がん剤を飲み続ける維持療法の間、免疫力は低下する。そのため、白血病患者にとって感染症対策が最重要課題と言われる。特に気を付けなければならないのが、肺炎だ。そのため、毎日肺炎予防の薬を飲み、月一度の検診の際には、肺炎予防薬を吸引した。これらのケアーや手洗いうがいの徹底から、退院後も肺炎にも風邪にも無縁だった。
 
でも、実際に私を苦しめたのは、更年期症状だった。
退院直前は、自分を白血病患者と認識していたが、実際は、更年期症状に苦しむ女性というのが正確なところだった。
 
身体は、1つの病気だけを抱えているのではない。
過去に患った病気による後遺症やダメージ。さらに毎日の食生活や活動量などが重なりあって、今の身体を作っている。その状況を一番理解しているのは自分だ。だから、自分自身で身体の状態を観察して症状を把握し、適切な人に相談して対応策を見つけなければならないと学んだ。
 
私が、急性白血病を発症したのは43歳の時だった。40代は、職場で一番活躍する時期だ。小学生だった2人の子供も、まだ手がかかった。そんなタイミングだったので、多く人達は、このタイミングに私が大病を患ったことを、不運だと思っただろう。
 
でも、私自身は、自分の身体とどう付き合っていくべきかについて、40代前半で知ることが出来て、幸運であったと感じている。
 
大病になったから、理解できた大切なこと。
 
「年齢・性別・病歴・飲んでいる薬・食生活・活動量などを考慮し、自分の身体がどう反応しているか、身体と対話をすること」
 
そして、自分が責任を持って取り組むべきこと。
 
「どうやって自分の身体を健康的な状態に持っていけるのか、周りの助けを借りながら探って、その対策を実践すること」
 
こんな重要なことを早いタイミングで学べたのだから、40代で白血病を発症したのも、まんざら悪いことではなかったと思う。
 
大病を通じて学んだことを生かしながら、今後の人生を歩めるのなら、辛かった治療でさえ良き思い出に出来る気がする。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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