争いが絶えない「多様性」は、なぜ重要なのだろうか
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:佐倉咲良(リーディング・ライティング講座)
「多様性」。私の大好きな言葉だ。私のアメリカ留学を含めた5年間の大学生活を、そしてこれからの人生のテーマを述べるならば、絶対に「多様性」を真っ先に挙げるだろう。そんな「多様性」という言葉だが、一時期大嫌いになった瞬間があった。それは大学生の時、留学から帰ってきたころのことである。
高校生まで関西の田舎の公立校に通っていた私は、都会の私立大学に進学し、今まで出会ったことのなかった子たちに出会うことになった。たまに英単語が出てくる帰国子女や、濃い味を好む東海地方の人、関西地方では知らない人はいない「ちちんぷいぷい」という番組の話が通じない人。多様性という波に飲み込まれ、最初は戸惑いを隠せなかった。話す方言も、食べ物の味付けも、見るテレビ番組も全て違った。同じ日本なのにこんなにも文化が違うのかと、私は今までどんなに狭いコミュニティで生きてきたのかと痛感させられた。
大学内の多様性に慣れてきたころ、私はアメリカ留学に行くことになる。留学に行ってからというもの、より広くて深い多様性の中に足を突っ込んだ。人種がちがうのは当たり前。むしろ色々な人種のハーフやクォーターがたくさんいて、人種という定義すら曖昧になってくる。英語にしても地方によって訛りがあり、人によっては英語ではなくスペイン語などの違う言語が母国語の人がいる。放送されているテレビ番組なんて、もちろん私の知らない番組ばかり。もはや自分との共通項を見つけることのほうが難しかった。私の人生の中では感じられなかった、日本の大学で感じた以上の多様性がそこにはあった。
楽しかった。今までスタンダードだと思っていた自分の生活が、実はスタンダードではなかったこと。自分と違うコミュニティについて学ぶこと。自分の違う考え方の人の話を聞いて「そんな考え方もあるんだ!」と思うこと。その人がその意見を持つまでに至ったライフヒストリーを聞くこと。そのライフヒストリーはその地域や国の政治や歴史や文化に少なからず結びついていること。好奇心が強かったのかもしれない。知識欲に飢えていたのかもしれない。自分と違う人やものに触れることが、この上なく楽しかった。
留学から帰ってきて、私は日本の大学のコミュニティに戻った。戻った時、「あれ?」と思ったのだ。圧倒的に「楽」だったのである。
思えばアメリカにいたころは楽しくはあったし、自分の世界は広がったものの、多様性に苦しめられたり、人種間同士の争いも良く見た。日本人の女性は簡単にイケると思われがちなので、怖い目にもたくさんあった。私の留学していた地域は治安が悪く、その原因を白人の友達は「メキシコ人が麻薬を持ち込むから」と言っていた。対してメキシコ人は「黒人が多いから」と言った。私の中国出身のホストファミリーは「カースト制度の影響でインド人が嫌い」だと言った。
日本の大学でも当初は多様性を感じていたものの、アメリカのそれと比べると乏しかった。アメリカの多様性がすごすぎて、日本の大学が今度は均一的に思えた。そしてその均一的なコミュニティが、自分と同じような人と一緒にいるほうが、楽だったのだ。人種間の争いなんて起きないし、気を使わなくていい。わざわざ自分と違う人たちの中に足を踏み入れて苦しまなくても、均一的なコミュニティの中で、争いのない世界で一生を終えればいい。そう思ったのだ。
じゃあどうして、最近多様性という言葉がこんなにホットになっているのだろう。こんなにも争いが絶えないのに。こんなにもしんどいものなのに。みんな一緒の方が楽でいいじゃないか。どうしてみんな、多様性が重要だと言うのだろう。
もしあの頃の自分に出会えたとしたら、お勧めしたい本がある。ブレイディみかこさんの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」だ。この本はイギリス人と結婚してイギリスに住む日本人の著者と、そのハーフの息子が感じた多様性を記したノンフィクションだ。イギリスでの人種問題についてやセクシュアリティ、特筆すべき教育方法、アイデンティティの悩み、帰国時の日本での差別など様々な実体験が記してある。私が特に心打たれたのは、国籍や民族性に多様性があっても家庭環境が似通った小学校から、家庭環境もバラバラな中学校に進学した息子が、なぜ多様性があるほうがいいとされているのか著者に聞くシーンだ。
「多様性って、いいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」
「うん」
「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの?」
「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」
「楽じゃないものが、どうしていいの?」
「楽ばっかりしていると、無知になるから」
この文をみた瞬間、この文から目が離せなくなった。目を見開いてこの文を見続け、コンタクトが乾いて初めて瞬きをしていたことを忘れる。それくらい、度肝を抜かれた文であった。
そうか、楽ばっかりしていると、無知になるのだ。
思い出せば、無知であったばかりにやらかしたことはいっぱいあったし、他人のやらかしもいっぱい見てきた。渡米したてのころ、まだアメリカの多様性についてそこまで関心がなかった私は、黒人の人に「アフリカ出身ですか?」と言って嫌な気持ちにさせてしまった。メキシコ人にメキシコの話をたくさんしたのだが、その子は自分がアメリカではメキシコ出身だということを隠したかったらしく、「メキシコのことをこれ以上私に話さないで!」と怒ってきた。帰国して、とある日本のアイドルが黒塗りでパフォーマンスをしたことが黒人差別に当たるとして、謝罪する事態に陥っていた。とある日本のテレビ局が黒人差別の実態をアニメ化して、内容が不適切だと炎上していた。全て、無知からくる行為だったのだ。
多様性を知らないと、自分が属しているコミュニティ以外の人々を無意識に傷つけてしまう恐れがある。「無意識に」傷つけるほどやっかいなことはない。たとえしんどくても辛くても、多様性の中に身を置いて、自分と違うコミュニティに属している人々についての知識を蓄えて、包括的な社会を作っていくことが大切なのだ。ヒトやモノやカネの国を超えた移動が激しくなり、世界が混ざり合い、争いが絶えないこの世の中において、世界を良くする最初の一歩は「多様性を知る」ことではないだろうか。そう思わせてくれた本だった。
日本には多様性がないと主張する人がいるが、それは大いなる誤解である。約300万人の外国人が日本に住んでいて、帰国子女は1万人以上いて、性的マイノリティの人も全人口の10%いると言われている。そのような一般的にはマイノリティとされる人達にとって生きやすい社会にするために、私はこの本は社会において意思決定をする人達に読んでほしいと思っている。この社会が全ての人々にとって生きやすい社会になり、世界から争いが無くなりますように。
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