おうちはいつもバラの香り~部屋をバラの香りで満たしてみたら~
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森下暢子(ライティング・ゼミ特講)
それは同僚のほんの冗談から始まった。
「森下さんのお家は、きっとバラの香りでいっぱいですよね(笑)」
職場でふとした時に始まる、たわいもない私との会話だ。
何がきっかけになるかは忘れてしまったが、
同僚は肩透かしのようにさりげなく冗談を言う。
「いやいや、あなたには敵いませんよ(笑)」
「あなたほど美しい人はいませんよ(笑)」
「ぼくがお使いに行かせていただきます(笑)」
同僚と言っても、先輩だ。
自分より年が7つも8つも離れている、大人の男性だ。
今日は確か、家での過ごし方とか、身だしなみの話をしていたよな。
いつも行っている美容院や好きな洋服の話とかになって……
そうそう。それから少しプライベートな話になったんだった。
冗談をいう時の同僚の顔は、いつも含み笑いをしている。
目元はまるで、いたずらを仕掛ける少年のような雰囲気すらある。
「目が笑っていますよ。それに言葉が口元で浮いてます(笑)」
「え? そうかな? いやいや、きっとゴージャスな部屋に違いないって(笑)」
今日もそんなたわいもない冗談をさらりと言った。
もちろん。普段の私の家には、バラの花はない。
時折、白檀や沈香などの好きなお香を焚くくらいだ。
「バラ……か……」
ふと私は我に返った。
「バラの香りで部屋を満たしたら、一体どんな風になるんだろう」
思わず妄想に浸ってみた。
バラは女性の魅力を高める花って言ってたよな。
ハンドクリームは人に勧められて使っているけれど、部屋を香りで満たすことは考えてみなかったな。
そういえば、ローズティーとかもあったよな。
身体の内側もバラにできるはずだ。
何だか、高級な感じもするし。
それならこの際、バラの香りで自分も部屋も満たしてみるか!
同僚の言葉がきっかけで、私はバラの香りのするものを早速集めにかかることにした。
何がきっかけになるかは分からない。
同僚はこのことを知らないが、「ひょうたんから駒」ならぬ、「冗談からバラ」だ。
まず、手始めにボディーグッズを扱っているお店に出掛けてみた。
あるある。ボディークリームにハンドクリーム。
石鹸、シャンプー、トリートメント、そして香水まであるではないか!
バラ、バラ、バラ……
まずはお風呂はこれでよしっと。
身だしなみの話になった時、
同僚はさりげなく「自分はボディークリームを使っている」
と教えてくれた。
同僚を見ると、確かにいつもさりげなくお洒落を楽しんでいる。
靴、服、小物。全身ブランドで固めているわけではないが、
時々ロゴや風合いでさり気なく良いものだと分かるものをアクセントにしている。
そんな同僚が、ボディークリームを使っているという。
通っている美容院も教えてくれた。
同僚のお洒落の秘密は、その物もさることながら、お洒落にかける気持ちなのだということを知った。
そして、体のケアまでしていることにとても驚いた。
「女子力」という言葉は、興味があるが、
「女子力」の定義は男性と女性では若干異なるようだ。
同僚は言う。
「彼氏はいるの」
「いや、今は特に……」
「そうか……何でかな。もう少し、流行りのもの使ってみたらいいのに。あ、今がダメって言っているわけじゃないんだよ。でも男性がグッとくるような香りをつけてみるとかさ、カリスマのいるような美容院に思い切って出かけてみるとかさ」
ボディークリームを使っている冗談の大好きな同僚は、どうやら女子の「色気」という点にポイントを置いているようだった。
決して身だしなみをさぼっているつもりはなかったが、最後何か男性の本能をくすぐる「色気」というものが自分にはないといわれているように感じた。
「男性から見て魅力がないということか……」
同僚との雑談が終わった後も、しばらくその言葉を頭の中で繰り返した。
そして、今である。
私の部屋には、ボディーショップで買った香水が置いてある。
朝に一吹き、寝る前に一吹き。
いつの間にかバラの香りが日常の一部になった。
ハンドクリーム、ボディークリーム。
肌をケアすることで、全身が甘い香りに満たされていく。
何だか疲れも取れる気がする。
シャンプー、トリートメント。
風呂場も香りで満たされていく。
そして、寝る前のローズティー。
ティーカップに浮かぶバラの花が美しい。
職場でも一度試してみたが、たまたま通りがかった女性の同僚には
「お姫様みたい!」と言われた。
何だか自分が貴族にでもなった気分だ。
「女子力」はいつ身に付くのか分からない。
しかし、私の部屋は今、ひょんなことからバラの香りがいつも空間を満たすようになった。
今は、無い方がちょっぴり落ち着かない。
しばらくして、同僚に自分から声を掛けてみた。
「先日はありがとうございました。お陰様で部屋がバラの香りで一杯になりました(笑)」
「あれ? 線香の香りが好きなんじゃなかったの?(笑)」
同僚は今日も冗談を言う。
「女子力」が身に付くのは、まだまだ先かもしれない。
しかし、「女子力」がいつか自然に身に付くことを、心のどこかで期待している自分がいる。
同僚には感謝している。
しかし、いつか「本当にバラの香りがしますね」と言われたい気もする。
***
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