わたし、気になります
記事:かたPさま(ライティング・ゼミ)
「非常に多い」
この季節、天気とは裏腹に、心は晴れ渡らない。
そう、「スギ花粉症」である。
発症したのは中学2年生だったから、すでに人生の半分以上を、卒業入学など別れと出会いの時期を、憂鬱に過ごしている。私は、ヒノキ花粉にも反応するので、ゴールデンウイークまでの約2ヶ月間である。
基本的な症状は、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみである。また、飛散し始めは、頭痛や頭重感、微熱やだるさがあり、さらに、目の周りや首筋などが皮膚炎で痒くなる。そして、睡眠不足、集中力欠如、イライラ感、食欲不振なども生じてくる。
漢方薬を飲んでみたり、民間療法として広まったこともあるハーブやヨーグルトなどを試したり、最近保険適用にもなった「舌下免疫療法」や鼻内部の粘膜を焼灼する「レーザー手術」を検討したこともあったが、今は、抗アレルギー薬を飲み、マスクをし、室内に花粉を持ち込まないように心がけ、加湿をし、過ぎ去るのを待ち耐えている。
とても人前には出られないが、自宅では、ティッシュを丸め、両方の鼻の穴に突っ込んでいる。たまに、何かの拍子で、鼻がスッと通る時がある。あのひっかかりが取れた感じは気持ちがよいものだ。
きれいな例えではないが、便秘が解消されたような、喉まで出かかっているのに思い出せなかったことが思い出せた時のような、すっきり感である。
他にも、不思議なもので、何かにとても集中したりしていると、花粉症のことなんてすっかり忘れていることもある。
好きなことをしている時には、あっという間に時間が過ぎてしまうが、こうした楽しい時間が長く続き、辛い時間が一瞬で過ぎ去ってしまうとしたら、これほど素晴らしいことはないだろう。
「好きなことをやり続けること」
言うは易く行うは難し ではあるが、私は、追い求めていきたいと思う。
好きなことをやるためには、まずは、好きなことに出会わなければならない。そのために、好奇心を持ち続けること、心にひっかかるものを大切にすることを私は心がけている。
学校を卒業してしまうと、明確な区切りがなくなり、日常に流されるままになることも多い。
「したい」と思ったことを後回しにしてしまい、いつの間にか、「いつかしよう」という想いだけが心のどこかに残る。そして、心が晴れ渡らない、どこか心にひっかかりがある、そんなことになりがちである。
私の手元には、使用額が残る、福岡市地下鉄・西鉄電車バス共通の磁気カード乗車券「よかネットカード」がある。私は、過去2回だけ、福岡を訪れたことがある。このカードはその時に購入したものだが、裏面の履歴を見ると、購入したのは、平成20年7月とある。
もう8年も前のことになるのか。
当時、私は、大学を卒業し、夢や希望を抱いて、就職で上京したが、いくばくかの借金と少しばかり心のバランスを欠いて、途方に暮れ、田舎に舞い戻ってきていた。
これからどうするか。
そんな時、「劇場・ホールなどの文化施設の音響、照明、舞台機構をはじめとする工学的側面の基礎知識を有し、その施設で催される文化芸術コンテンツに精通し、それら催しのプロデュース能力およびその施設の管理運営能力を有する人材を育成するコース」が、開講されるとのニュースを目にした。
簡単に言えば、高度な知識を持った劇場支配人を育成しようというもので、前職の経験も活かせ、キャリアアップにも繋がりそうな、しかも、日本初の芸術工学を本格的に研究教育した九州芸術工科大学を前身とした、九州大学大学院芸術工学府で始まるとのことで進学を検討していた。
ともあれ、私は生まれて初めて、福岡に降り立った。
7月に入試説明会が開催され、それに出席をした。
私は、1年間、大学受験浪人をしたにもかかわらず、入試で選択した数学の問題がたまたまヒットして、唯一合格できた大学に通った。狭い敷地に低中層の建物が並ぶだけの都市型キャンパスであった。
だが、ここは違った。広い敷地に、緑も多く、心地良い空間で、これぞ憧れたキャンパスという趣があった。合格したわけでもないのに、周辺を散策し、住むならこんな部屋かなとアパートを見て周った。すでに、夢のキャンパスライフが、頭の中では始まっていた。
そして8月。入試本番。2度目の福岡である。
社会人入試だったので、事前に論文を提出し、当日は、面接だけであった。
時間になり、順番が回ってきて、名前が呼ばれた。
面接会場に入ると、そこには、大きな円卓があり、それをぐるりと取り囲むように、教授陣が10人以上はいただろうか。
雰囲気にすっかり飲まれた。
1ヶ月前の現実逃避したかのような浮かれようから、一気に現実を突きつけられた気がした。そもそも、大学院で研究するとはどういうことかよく分かっていなかった。
合格発表を見るまでもなく、結果は明らかであった。
帰りに7月に来た時は、タイミングが合わず寄れなかった、福岡天神の南西にある警固エリアにあった、現在は閉店してしまったがcafe Teco(カフェテコ)でハンバーグランチを食べ、その美味さと温かさ、そして不甲斐ない自分に、涙を流したのを覚えている。
それ以来、福岡には降り立っていない。
しかし、何だか、また縁があるような、不思議な感覚がどこか心に残っている。
何かは分からないが、福岡の街が、心のひっかかりになっているのは確かである。
ずっと「したい」と想い続けていることがあるなら、できるようにするための段取りを今すぐして、実行するとよいと私は思う。行けばすっきりするのかは分からないが、行かなければ、ひっかかりはそのまま存在し続ける。
福岡には天狼院がある。
「よかネットカード」の払い戻し期限は、今年の10月らしい。
メジャー契約を打ち切られ、メンバーの脱退があり、バンド名を変更しても、インディーズで活動を続けている好きなバンドが、改名後、初のワンマンライブを、彼らの地元である福岡で行なうというニュースも入ってきた。
重い腰をあげるための要素は十二分にある。
福岡に行こうと思う。
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