舞妓さん、待っててね!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:後藤 修(ライティング・ゼミ 超通信コース)
「お兄さん、背ェ、高いなあ」
僕はドキッとした。そして、答えた。
「ありがとうございます」
僕の声は上ずってしまった。そして僕は知り合いと一緒に彼女とともに写真に映った。
彼女とは舞妓さんだ。僕は4年前に舞妓さんに会った。そして、話した。
僕はそれまで、舞妓さんは「小さくてかわいらしい女の子」という印象だった。
しかし、それだけではなかった。舞妓さんはとても強い人だった。
4年前の3月上旬。僕は仲の良い知り合いと日帰り旅行について話し合っていた。
行く先は京都。僕らは京都のどこへ行こうかとワクワクしながら計画を立てていた。
その時、彼はこんなことを言った。
「なあ、たまには趣向を変えて、舞妓さんを観に行かへんか?舞妓さんを間近に見られる場所があるんや。ぜひ行こうや」彼の独特の関西弁に乗せられて、僕は快諾した。
僕は舞妓さんを観たことがなかった。また、特に興味を持つことがなかった。だが、この時はなぜか自然に行こうと思えた。持前の好奇心が湧いたのだ。
そして、旅行の当日。僕は名古屋駅から新幹線に乗り、京都駅に降りた。
‘古都’である京都に着いた僕は胸を弾ませながら、彼との待ち合わせ場所である京都観光案内所へ向かった。僕は彼に会うやいなや、「舞妓さんってどんな雰囲気なんですか?」と興味津々に聞いた。彼は「行ったら、わかるで」と僕が話したことをはぐらかして、笑いながら言った。
京都駅からタクシーに乗り、‘舞妓さんの活動場所’である宮川町に向かった。そして、10分後に
小屋のようなところの前で降りた。(ここで会えるのか)関心が高まっていた僕は、その小屋のような建物の入り口をくぐった。店の中は新築の蕎麦屋さんのように整っていた。さらに、きれいに磨かれ15人ぐらいが座れるほどのテーブルが4つ並んでいた。そして、木目の美しい椅子が40席ほど並べられていた。そんな光景を目にしながら、僕らは席に着いた。周りを見ると数人の男女が静かに座っていた。
経つこと、数分。小屋の入り口から、かんざしを挿した白化粧の舞妓さん1人が現れた。
隣には舞妓さんのガイドさんが付き添っていた。
(いやあ、可愛い!)
舞妓さんは小さくて笑い顔が素敵で僕は見とれてしまった。(おお!)僕はふわふわした気分で知り合いともに彼女と写真に映った。
その後、僕らは椅子に座ると、舞妓さんのガイドさんが話をし始めた。
ガイドさんが舞妓さんにインタビュー形式で質問をした。
「舞妓さんはどんなスケージュールで過ごしていますか?」
舞妓さんは答えた。「朝早くに起きてから、おねえさん(芸妓さん)の身の回りの世話をします。そして、ずっと稽古をし1日を終えます。そして、一週間に2回ほど花街へ行って、お店に
入り、お客さんに芸を披露します。こんな感じで過ごすのどす」
そして、ガイドさんは次の質問をした。
「これをいつから続けていますか?」
彼女は答えた。「学校を中退してこの世界へ入った2年前からずっとどすえ」
僕はびっくりした。自分と引き比べてみてしまった。
僕の17歳の時なんて、両親と一緒に過ごす‘甘ちゃん’の時だ。受験勉強はしていたものの
家族の支えを受けながら生活が出来ていた立場だった。それが、こんな可愛らしくて
太陽のような笑顔をする少女が親元を離れて、芸妓さんのお世話をしながら、芸の練習をし続けているのだ。彼女は健気なのに強靭な精神力を持っていることに驚愕した。
さらに、ガイドさんの質問は続いた。
「厳しくてやめようとは思わないのですか?」
彼女は「お仲間のうち、何人かはやめはりました。けど、私はこれが好きだから」
いくら、好きだからと言ってもこの年齢にしてこんな心持になれるか?気持ちの強さと芯の強さ、僕は舌を巻くばかりだった。
僕は呆気にとられながらも、舞妓さんにお茶とお菓子でもてなされた。
僕は舞妓さんが目の前で、お茶を作る様子を見た。整った手つきで、美しい所作でお菓子を振るまってくれた。僕は心から満喫出来た!
最後に、彼女は舞台へ立って、京都の踊りを披露。本当に、可憐で花が舞っているようだった。
僕はこの旅で、舞妓さんを知った。それは可愛らしいだけでなく、その可愛らしさの裏に
人としての強い信念があることを知ることとなった。
その数か月後、僕は新聞を見て釘付けになった。
それは名古屋で開催されている京都物産展を宣伝しに、名古屋の百貨店へ来たという記事だった。
僕はとても嬉しかった。
京都の宣伝のために、わざわざ名古屋へ訪れるなんて。彼女は可愛くて、強くて、とても‘粋な’な存在だと改めて思ったのだ。
この2週間前に、コロナが収束せず、京都の花街も存続が危ぶまれていると報道されていた。
舞妓さんや芸妓さんも仕事が減ってしまい、不安に思う日々を過ごしているようだ。
しかしそれでも、彼女たちはコロナが早く収束することを願い、出来る範囲で芸を磨いているとも報道された。
僕は舞妓さんの強さを知っている。このような状況でも持前の心の強さと明るさで絶対にこの逆境を乗り越えてくれるに違いない。そして、いつかあの花街で満面な笑顔をして
たくさんのお客さんを出迎えて楽しませてくれるに違いない。その時、僕も必ず行こう。
舞妓さん、それまで、頑張って。そして、待っててね。
***
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