あなたの最初の記憶は何ですか?
記事:Ayami Matsushimaさま(ライティング・ゼミ)
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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「お母さんのおなかの中って、どんな所だった?」
私の友人が、小学生にもなっていない女の子に聞いたらしい。
「真っ暗で、あったかいよ。」
おなかの中の記憶があるということなの? 本当かしら?
彼女の記憶の真偽はさておき、自分が子供の頃の記憶を遡ってみる。例えば、幼稚園の頃の記憶がどれだけあるだろうか。
幼稚園のとき、一枚も音楽CDを買ったことがない今の私からは想像できないけれど、楽器が好きだった。そういえば、オルガン教室に通っていた。ある日、猫のお面を頭につけて、ピアニカをみんなで演奏した。曲目は「ねこふんじゃった」だった。結構、上手かったような気がする。こうして、オルガンは好きだった。けれども、音感が皆無だったから、音当てができなかった。オルガン教室で、先生が弾いた音を当てるために、周りのみんなが「ド」のカードを高々と上げていても、私は、全く分からなかった。それが嫌で、あっさり辞めてしまった。
そういえば、その幼稚園では、先生が引率して集団で歩いて家まで帰っていた。でも、雨の日は、お母さんのお迎えの日だった。ある雨の日、派手な虹色ストライプの縦縞のシャツを着たお母さんが、それまで長かった髪を切って、市松人形みたいなおかっぱ頭に変身して私の赤い傘を持って迎えにきてくれた日は、本当に誰だか分からなかった。
いつも、幼稚園でお昼を食べるときには、先生のオルガンの演奏に合わせて、みんなでお歌を歌った。「天のお父様今ここに〜、おいしいお弁当ありがとう〜」そんな感じだったような気がする。私が死んだら多分お坊さんがお経を唱えてくれるのだと思うのだけれども、多分、キリスト教の幼稚園だったのだろう。それにしても、このメロディーは、今でも頭から離れない。
こうしていくつか思い出せたのだけれど、もっと前の、幼稚園に入る前の記憶はないかしら。一生懸命考えるけれど、なかなか思い出せない。頭が悪いのか、それとも、単純に平凡な毎日だったのだろうか。
しかし、唯一、思い出せる風景がある。
私は、大草原の中にある小さな一軒家にいた。白いTシャツを着て、ピンクのショートパンツをはいて、一人で外に遊びに出かけた。手には、お気に入りのピンク色のプラスチックのコップを持っていた。外には草原が広がっていた。草は、細くて、長くて、所々ススキの穂が風に揺れていた。それらは、私の目の高さまで伸びていて、私は、人が通れるように踏み固められた砂利道を、ずんずん歩いて行った。
多分、夕方だったのだろう。太陽の光が赤かった。所々、草が途切れる所があって、遠くの道が見渡せた。ふと左を見ると、そこには子供の私の体の大きさくらいもある「オオトカゲ」の群れが日向ぼっこをしていた。怖い。追いかけられないように、そっとその場を離れて、再び、ずんずん歩いていった。そうしていると、右の足下にぐるぐると渦を巻いた「アンモナイト」の化石が大小合わせて10個ぐらいゴロゴロと転がっていた。なんだろう。ちょっとしゃがんで、見つめてみる。それにしても、面白い形だなあ。
「ご飯よ〜」
遠くでお母さんの声が聞こえた。晩ご飯だ。急におなかがすいているのを思い出した。急いで引き返す。茶色のドアの銀色のドアノブに手をかける。一生懸命ぐるっとをまわして、ドアを引っ張る。そして、中に入る。
記憶はここで終わり。一体、この記憶は何なんだろう。ずっと疑問に思っていた。
ある時、帰省した際に、子供の頃、住んでいた家に着いて母に聞いてみた。
「あなたが小さいときは、お父さんの転勤についていって、草原にある一軒家を借りて住んでいたのよ。あの時は、引っ越しであなたは初めて飛行機に乗って、子供用のコップをもらってご機嫌だったわ。」
「このコップって、何色だったの?」
「ピンク色の、プラスチックのコップで、あなたはとても気に入っていた。」
どこまでが事実で、どこからが夢見る女の子の空想なのか。今でもよくわからない。
記憶とは曖昧なものだ。この文章を書いている私は、こんなに「今」を鮮明に感じているけれども、きっと時間が経てば、「今」は色あせて、薄っぺらになって、水彩絵の具をパレットの上でぐるぐると混ぜ合わせるように、他の記憶と混ざり合っていくのだろう。そんな記憶を私は愛おしいと思うし、こうして人の思い出は、つくられていくのだと思う。
それでも最初の記憶を考える時、私には思うことがある。最初の記憶は、今の人生を象徴するようなものなのではないかしら。子供の私には、おそらくはテレビや絵本でみた「オオトカゲ」とか「アンモナイト」が強烈に印象に残っていたのだろう。そして私は、今、理科の教師になっている。
あなたの最初の記憶は、何ですか?
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*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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