メディアグランプリ

チョコレートの与える安らぎの中で


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記事:光村 六希(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
チョコレートは父の大好物だ。
会社に車で通っていた父は、よく朝寝坊をして大慌てで食べ物を持って車に乗り込んだ。
主に食べていたのはジャイアントポッキー。皆さん、ご存じだろうか。私の目視だが、1本あたり通常のポッキーの太さ3倍以上、長さ約1.5倍、という超巨大ポッキー。あれを車の中で2本ほどかじっていたらしい。
それ以外にも、生クリームが練り込まれたV.I.Pチョコレート。金や銀で彩られた高級感あふれるパッケージに包まれた板チョコを、1枚ぺろりと平らげていた。確かにチョコレートはカロリーや栄養分が優れていて、非常食として優秀と聞くが……。ほぼ毎日遅刻しそうなギリギリに出勤する父親は、毎日が非常事態だったのだろうか。
 
なぜ父はあんなにチョコレートが好きだったのだろう。
調べてみると、チョコレートには気持ちを落ち着かせてリラックスできる成分が入っているらしい。疲れた時やピンチの時にチョコレートが食べたくなるの「甘いから」以外に正当な理由があるのだ。
 
昭和の男で完全な関白亭主だった父は、家にいる時はほぼ何もやらなかった。家事はすべて母親任せ。お風呂の後の着替えも、出勤時のワイシャツやスーツも、出張時の持ち物も、すべて母親がやっていた。子どもは私と妹の2人、祖父母と同居していたため、母は6人分の食事の用意や買い物などの家事で忙しい中、自分のお茶を早く出せと要求したり、休日は好きなだけ寝ていて家族サービスもろくにせず、起きたら好きな食事を母親に要求して、ずっとテレビか新聞を見ている。口にはタバコか先ほどのチョコレートがほぼずっと入っていた。小さかった頃を除いて、子どもである私や妹の面倒もほとんど見なかった。
私と妹が騒いでいると「うるさい」と怒鳴ったり、勉強の進み具合を異常に気に掛けた。
短気で、すぐに怒る。特に私はよく怒られた。
 
「稼いでいるからそれでいい」それが父母の認識だった。確かに私がご飯を食べ、勉強や習いごとができ、いろんなことを経験させてもらえたのは父親がいてくれたからこそだ。
が、私はそんな身勝手な父親が嫌いだった。
父親の身勝手な振る舞いに、怒りを感じた。イヤだった。「家を出たい」と痛切に思った。他県の大学に進み、その願いを適えた。
 
 
会わなくなって、父親を思い出すことが減った。
たまに思い出すが本当に少ない気がする。
いなくなって本当のありがたみがわかるのが親だとよく言うのに、私にとっての父親は思い出す必要があまりないようだ。
「自分の子どもから思い出されない親って寂しいな」と思ってしまった。
身勝手な人だったからだ。
 
父は祖父と仲が悪かった。何度も手が出るような喧嘩をしていた。祖父と祖母も仲が悪かった。今思えば、父は子ども時代、かなりつらい思いをしたのかもしれない。
 
最近「機能不全家族」という言葉を知った。これは、家庭内で対立や虐待などの問題があって、家族として機能していない家族のことを指す。機能不全家族では、子どもが一番の被害者になる。生活力がなく、家庭から逃げることができないので、親がどんなに理不尽なことをしても、逆らわずに生きていかなければならないからだ。子どもは親の理不尽な要求に応えたり、親に厳しいことを言われたり理不尽なことを言われたり、愛情があるか疑わしくなるような意地悪な態度や冷淡な対応をされても、受け入れなければならない。
そうやって心の傷を負っていく中で、自分の気持ちを正直に受け取れなくなったり、過度に他人に気を遣ったりしてストレスを溜める。そして子どもの時期に触れるはずの社会ルールや愛情を知る機会を逃し、ゆがんだ価値観を身に着けていく場合も多い。
結果的に、大人になってからも、ゆだんだ価値観で社会適合が難しくなり、問題を起こす場合がある。
 
今となってはわからないが、父親が育ったのは、そういう環境だったのかもしれない。そんな中で育った父親は、本当にチョコレートにリラックスを求めていたのかもしれない。
そういえば、外食する時以外で、父親から「何がいい?」と好みを聞かれたことがあったか、思い出せないが、自分が好きなチョコレートや甘いものを食べている時に「食べるか?」と聞かれることはあった。それは自分の世界に入ってくるのであれば、歓迎するぞ、ということだったのだろう。
 
父は認知症を患い、もう長いこと入院している。感染症の関係があり、長いこと父親には会っていない。もうチョコレートは食べられないが、辛かった過去を忘れて、今はリラックスしているのだろうか。
そうあってほしい。かつては身勝手を恨んだものの、今は父の安らぎを願っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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