恋を進展させたくないあなたへ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山口ななかまど(ライティング・ゼミ10月コース)
恋は面倒くさい。恋した相手の一挙一動に一喜一憂し、気分がアガったりサガったり、さながらジェットコースターである。かつてのアイドル歌手もそう歌っていた。
穏やかに、心をざわつかせることなく生きていくためには、恋などまったく無用の長物である。
しかし、平穏を求め、願い、よーく気をつけていたにもかかわらず、うかつにも私は度々恋に落ちてしまった。失われる平安。かき乱される心。気付いた時にはもう引き返せない日々。
あの頃、どうすれば恋を進展させずに済んだのだろうか。
早々に結論をいうと、「2人きりで夜の時間を共有しないこと」、これに尽きると思う。「そりゃそうだろうよ」とツッコミたくなったそこのあなた、もしセクシャルなことを連想されたのであれば早計である。性的な関係は必ずしも恋愛関係とイコールではない。
人同士が親密になる過程として、まずは「この人は自分のことをきっと脅かさない」という安心感が必要だ。以降は、「信用できるなぁ」とか「優しい人だなぁ」とか「面白い子だなぁ」とか、そういう様々な加点ポイントがあって、もしかしたらその頂点が性的同意なのかもしれないけれど、その手前が最も大きな分岐点になるのではないだろうか。それは「無防備になれること」である。
夜は人を無防備にする。私が初めてそれを体験し、実感したのは高校生の時だった。
私立高校への進学が決まってから父親が転勤することになり、私は学生寮に入った。思いがけない生活の変化がちょっと嬉しかったり、未知の世界に緊張したりしていたが、寮生活はとても楽しく、今振り返ってもキラキラとした日々だったなぁと思う。
寮の同期の中で、少しだけとっつきにくい子がいた。背が高くて、いつもハキハキと主張し、感情表現が豊かで、利発な子だった。何もかもが私とは真逆だった。特に共通点がなかったので、彼女と話す機会といえば、お互いに仲の良い友人を介した時だけだった。
入寮して2ヶ月ほど経った頃、数人で招かれ彼女の部屋へ遊びに行った。書棚には、国立大学の附属中に通っていたとかで難しそうな参考書が数冊と、『ゴーマニズム宣言』とか『東京大学物語』とか大人向けの漫画本があった。それまで『ジャンプ』と『なかよし』しか読んでいなかった私にとっては、まるで異次元のラインナップだった。彼女にめちゃくちゃ興味が湧いた。
しかし、相変わらずこれといった共通の話題もなく、またひと月ほどが経過した。
7月。夏休みに入ると寮は閉館し、皆それぞれの郷里へ長期帰省をする。その中で私だけが、故郷でもなんでもない、よくわからない場所へ向かうための荷造りを行っていた。
寮の個室にはクーラーがなく、一通り荷造りを終えた私は屋上でひとり涼んでいた。ひんやりとした夜だった。
そこへ偶然彼女がやってきた。
「あ」「どうも」とお互いぎこちなく挨拶し、でも彼女はそのまま私の隣にすっと立ったので、「夏休みだね」「そうだね」みたいな感じで会話が始まった。「夜になるとちょっと涼しいね」「故郷は茨城だっけ。帰ったら何するの?」「ねぇ『ノルウェイの森』読んだことある? 生理用ナプキンを燃やす焼却炉の話が出てきてさぁ……」
それから何の話をしたのかはあまり覚えていないが、ほんの少しだけ、「日頃感じていた自分の生きづらさ」について話したように記憶している。「ちょっと実家の居心地が悪かったから、入寮が決まって正直ほっとしたんだよねぇ」と。そのくらい自分の心を開いてしまいやすい、そんな夜だった。
そうこうしているうちに空が白んできた。「あっニワトリって本当に朝に鳴くんだねぇ」「もう朝かぁ、早かったねぇ」「あっという間だったねぇ」「もう戻らないとね」「少しは寝なきゃね」「寝れるかな」
そしてそれぞれの自室に戻ったのだが、別れ際に彼女から、「ハグしていい?」と抱き締められた。初めて感じる他人の体温と、彼女の華奢な触感をかみしめながら、あぁもの凄く距離が縮まってしまったなぁ、これは気を付けねばコロッと落ちてしまうなぁ、と、どこか冷静にその状況を観察していた。
案の定、その後彼女とは恋愛関係になり、初めての恋の取り扱い方と自分が同性愛者だった事実(のちにバイセクシャルであることが判明する)に存分に苦しめられることになるのだが、ともかく、その後のいくつかの恋との共通点は、「2人だけで夜の時間を共有し、お互い無防備になってしまうこと」があったと思う。
学園祭の打ち上げを抜け出し、先輩とアイスを食べながら、夜の住宅街をぶらぶら歩いたこと。
ひとり深夜残業をしていたとき、ふらっと車で戻ってきた上司と、そのままドライブをしたこと。
某テーマパークの裏側から花火が見える「特等席」に、元同僚が連れていってくれたこと。
「夜」は、ほとんどの人にとってはプライベートタイムなので、気になるあの人の普段の姿と「少しほどけている」姿とのギャップに、みな遺伝子レベルで惹かれてしまうのかもしれない。
あなたが心を乱されることを好まないのであれば、「夜の共有」は全くもってオススメできないのだけれど、でも、もしあなたに一線を越えたいお相手がいるのであれば、是非これまでの情報を活用し、その恋を成就していただければと思う。
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