ねぶられ続けてはや5年
今日は誰に当たるのだろうか…・・・
憂鬱のランチタイムがやってきてしまった
僕は社員総勢500名おる、とある工場の社員食堂にやってきてかれこれ5年がたつ
箸よりも使われる回数が少ないし、僕は金属製なんで、耐久年数も相当あるしまだ全然くたびれてない。
社員食堂なんで、昼だけの出番なんだけど
車を組み立てる工場ということもあり、工員さんの大半が男だ。
ねぶられつづけてはや5年
だから正直うんざりしている…
ハヤシライスとかシチューが本日のB定食に決まってる日なんて前日から憂鬱やねん
また今日も男の舌にねぶられるんかと思うと…
ゾッとするわ~!!
てなことを考えたら
き~んこ~んか~んこ~ん
午前中の終業ベルが鳴る
食堂のドアが開けられ、堰を切ったようにくすんだエメラルドグリーンの
作業服を着た男たちが入ってくる
一斉にフードカウンターに並んでいるいつもの風景
今日はA定が焼き魚定食でB定がビビンバ丼だから僕の出番はカレーを頼んだ人がいれば、それにあてがわれるだけなんだけど。
カレーの列には10人ほどしか並んでないから出番ないかもしれないなあ
まあ、そっちのほうがいいけど。
「カレー」と書かれた表示板が下げられたカウンターに並んだ10名ほどが一人ひとりつぎつぎにカウンター内のパートのおばちゃんからカレーが盛られたトレーを受け取っていく。
僕たちはこのトレーの上におばちゃんから強制的に載せられていく。
今日はA定食が人気のようで、予想通り僕の出番はなさそうだった。
やれやれ
今日は誰にもねぶられないですむ
ゆっくり明日を待とうかな~と思っていたその時
食堂の外から伺うように
チャコルグレーのスカートスーツ姿の清楚な20代前半の女子が立っていた。
おそるおそる食堂に入ってくる清楚女子。
栗色のセミロングを後ろに一つで束ねている。
足元はプレーンなパンプス。
いやあ~…いいですなあ
たまには目の保養目の保養
取引先の女の子かなあ…
そんなことを考えてると清楚女子はなんとわれらがカレーのカウンターに近づいてくるではないかっっ
「あの~、ここって社員さんじゃなくても利用できるんですか?」
パートのおばちゃんに聞いている。
モチロンモチロン!!! あなたのような子なら三食でも大歓迎ですよ!!!!
僕は心の中で大歓迎していた。
清楚女子さん!! 是非是非!!
あ! カレーどうですか??
うまいですよ、ここのカレー!!
「あ、おねえちゃん、定食もう終わってるから、カレーとかどう?」
おばちゃんっっ、ナイスアシストっっ!!
「じゃあ、カレーおねがいします……」
や、やったー
あ、僕、この子の担当やるから!!
ちょっとおばちゃん、僕をこの子のトレーに置いて置いて!! お願いしますっ!!!!!
おばちゃんの手がフォークやスプーンを載せているバッドの上に伸びてきて
今我々スプーンのゾーンに…
来いっ!! 来いっ!! コイコイコイコイっ!!!
僕は目を閉じて待っていた。
必死に祈りながら。
自分の運命を信じて。
わずかにくびれている僕の首にかさついたおばちゃんの手が触れた。
おばちゃんに無造作につかまれた僕は、カレー皿が載せられたトレーの上に乱暴に置かれた。
やった! イエ~~ス!!!
僕が、僕があの子の担当になるんだっ!
数々の男の舌にねぶられ続けること5年
そんな僕を神は見捨てることがなかった
見てくれていたんだ!!
僕は、清楚女子が両手で持ったトレーに載ったまま運ばれながら
この清楚女子の小さな口に含まれて、これから僕は何を感じるんだろう…
と、もう訳も分からなくなって 完全に自分を見失っていた。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】
【有料メルマガのご登録はこちらから】