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なぜ宮崎県の田舎町で行う演劇祭は、毎年満席なのか


記事:西山明宏(ライティング・ゼミ)

この町の演劇祭は、都市部が行っている演劇祭とは、一味も二味も違いすぎていた。
僕がそこで初めて見たものは、田んぼが広がり、トラクターが走っている横に
場違いな程に違和感を放ち続ける、大きな公民館のような建物だった。

毎年、福岡でも行われているのが、福岡演劇フェスティバルである。
これは、全国から様々な劇団が集まり、フェスティバルの期間中に
各劇団が作った作品をただ公演していく、というシンプルな形だ。
いろんな劇団の作品が観れるというのが、このフェスティバルのウリである。

しかし、宮崎県の三股町で行われる演劇祭、通称、
「まちドラ!」(まちなかでドラマに会える3日間)は、脚本作りから違った。
脚本を書くのは、なんと三股町民なのである。
その脚本を、各地で活躍する劇団員の演出家が演出を付け、その作品を
三股町民と、九州から集まった劇団員が演じるのである。
そう、この演劇祭は、町民参加型の、否、町民が主体となって作品を作り上げる
都市部ではありえない演劇祭なのである。

まちドラ! には、4つの楽しみ方がある。
まず1つが「プレドラ!」である。まちドラ! が開催される1週間前に
実力派劇団が公演を行い、まずは演劇を観て楽しんでもらう。

2つ目が、まちドラの目玉企画、「ヨムドラ!」(読むドラマ)である。
三股町に特設する3つの劇場で、公募で集まった町民チームが、
九州の実力派演出家とともにつくる3作品と、
九州屈指の劇団が演じる3作品の、計6作品を上演する。
この6作品の脚本は、前述したように、三股町民が、三股文化会館で行われている
戯曲講座で半年間学んだことをもとに、実際に脚本に起こした作品が使われている。
まさに、町民が一からつくる、魂の演劇作品なのである。

続いて3つ目が、「カクドラ!」(書くドラマ)というものもある。
これはヨムドラ!とは少し違い、「まちドラ!」期間中に公募で集まった方が
90分で脚本を書いてみるという、こちらも参加型の企画である。
出来あがった作品は、九州から集まった劇団員が実際に演じることになっており、
自分で書いた作品が目の前で上演されると言う、なんともぜいたくで嬉しい企画である。

そして、最後のシメとして行われるのが、4つ目の「ミルドラ!」(観るドラマ)である。
その名の通り、全国で活躍する劇団が、演劇祭を締めるのにふさわしい作品を上演する。
まちドラ! に参加した町民を始め、たくさんの観客が
このミルドラ! を楽しみに観に来る。
まちドラ! が開催される期間、宮崎の田舎町は、どこの都市部にも負けないほどの
演劇熱に包まれるのだ。

では、なぜ宮崎県の三股町という田舎町で、このような試みを行う事になったのか。
そして、なぜここまで盛り上がることになったのか。

2011年に、三股町で始まった三股町立文化会館の
10周年記念事業「おはよう、わが町」がすべての始まりだった。
この事業は、アメリカの劇作家ソーントン・ワイルダーの名作「わが町」を原作に、
キャストからスタッフ、脚本にいたるまで
三股町の町民で創り上げるもので、これが現在のまちドラ! の先駆けである。

それから5年が経った今、なぜ盛り上がり続けているのか。
まちドラ! のディレクターである、“劇団こふく劇場”の代表、永山智行は「のんびり、いきましょう」と語っている。
「改革や刷新など、スピード感を持って変化する現代で、この“じっくり”や、“のんびり”こそが、まちドラ! の、そして、三股町の温かさである」と話している。
せわしなく走り回るバスや電車からちょっと降りて、立ち止まり、
いつもより深く呼吸をしたあと、ゆっくりと歩いてみる。
よそ見をしたり、隣のだれかとおしゃべりしたり、
風や陽の光を浴びながら食べたり、飲んだり・・・・・・。
喧噪のなかではなかなか見つけ難い「ぜいたく」はそんなところにあるのではないか、と考えている自分がいる。

何かの目的のためではなく、いま生きていることを、ただ存分に味わい尽くす、
そんな時間があってもいいと思わせてくれるのが、三股町の温かさなのだ。
笑顔が、自然とこぼれていた。
いや、さっきまで観ていた作品はコメディではなかった。
しかし、五月の三股町に吹くさわやかな風を浴びながら、
食べたり、飲んだり、観たりしていると、
なんだか自然と周りにいる知らない人たちと笑いあっていたのだ。
それはなんだか、とても人間らしい時間のように感じた。

三日間のうち2日目には、まちドラ! 関係者だけで飲み会が開かれ、そして、
最終日である3日目には三股町の町民たちも交えての大飲み会が開かれるのだ。
三日間のうち、二日は飲み会が開かれるという、なんとも飲み会が大好きな町である。
しかし、それは他の土地では感じる事の出来ない、
温かい繋がりを感じる事が出来る、貴重な場所だった。

実際に演じた役者、その脚本を書いた人、演出を付けた人、スタッフや、
まちドラ! のカメラマン、三股町の役所の方々、そして三股町の町民の人たち。
こんな多種多様の人々が同じ場所で酒を交わす場を、僕は他に知らない。

子供からお年寄りの方が、みんな笑顔なのだ。そして例外なく、優しく、
フレンドリーに接してくれる。まるで、僕は生まれたときから、
この三股で育ってきたのではないか、という錯覚さえ起こしてしまいそうになる。

三股に来ていた福岡の劇団員の方は、「今回で三股に3回来ましたが、ただいまって言うと、おかえりって返ってくる、この町が大好きです!」と語っていた。

来年もまた、この三股町で「まちドラ!」が始まる。
僕は、来年も都会の喧騒から少し離れたこの町で
温かい人たちと一緒に演劇を作っていきたい。

「ただいま!」っというと、「おかえり!」と返ってくるその日を、楽しみにしてる。

 

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2016-06-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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