【6月12日(日)】道にeが落ちていた《今日の編集部日記》
おはようございます! WEB天狼院編集部川代です。
昨日、道にeが落ちていた。
は? どういうことだよ、と思う人もいるかもしれない。でも本当にeが落ちていたのだ。物理的に。
渋谷駅の人混みの中、私は池袋に向かうべくいつもの道をいつも通りに歩いていた。人が次から次へと改札口から排出され、コンコースの大群は途切れる気配がない。でもだからと言っていちいち人混みにうんざりしたりなんかしない。いつものことなのだ。私は機械的にスマホでメールをチェックしながら(本当はダメだけど)乗り換えの道を歩いていた。
と、そのときであった。ふっと私の頭に違和感がよぎった。見逃してはならないような気がした。スマホから目線をそらして下を見ると、eが落ちていた。
それは「e」と書かれたプラスチックの小さな板のようなものだった。おそらくストラップかキーホルダーか何かの先っぽにくっついていたやつだろうと私は仮定した。
なんだこれは、と私は思ったけれど、足はとめずにそのまま通り過ぎた。キーホルダーに見えただけでもしかしたらゴミかもしれない。落し物という感じでもなかった。それに次の乗り換えに乗り遅れたら大変。
非情にも私はeを置き去りにして通り過ぎた。
けれど昨日仕事している間じゅう、ちらちらとeのことが頭に浮かんだ。考えてしまうのだ、あのeのことを。eがどこから来たのかを、そしてeを失った誰かのことを。
たとえばあれがキーホルダーやストラップだったとしよう。イニシャルのグッズを使う人はよくいる。キーホルダーでもマグカップでも。普通に考えれば「エリコ」とか「エマ」とか、そういう名前の誰かが落としたという可能性が一番高い。
私はそこではたと気がついた。でもまずそこで疑問があるぞ、これは。イニシャルだったとしたら、変だ。だってあれはEではなくてeだったのだ。普通イニシャルのグッズなら大文字じゃないだろうか? 小文字のグッズなんか見たことがない。
だとすれば「Akane」とか、そういう名前全部が書かれているもののeだけが落ちたとか、そういうことだろうか。そうかもしれない。でもそれにしてはあのeは結構大きかったような気がする。もしあの大きさで「Akane」だったら結構自己主張が激しいやつと思われそうだけれど。
でも本当にあかねさんという人がeを落としたとしたら大変だろうな、と私は思った。だって渋谷駅にeがあるということは今あかねさんの鞄についているのは「Akan」だということになる。もしあかねさんが女子中学生なら、これは間違いなくクラスの意地悪な男子からイジられてしまう。「おい、三橋の鞄のヤツ、アカンになってんぞ! アカンってなんだよアカンって! 関西人ですかー? そりゃアカンなぁ」とかなんとか、うるさいクラスの中心的人物に大っぴらにイジられるかもしれない。そして徐々にそれが定着してあかねさんのニックネームがや「アカン」か「関西人」か「久本雅美」になってしまうかもしれない。中学生というのは残酷なのだ。そもそも中学生という生き物はいつも潜在的に「クラスメイトに変なニックネームをつけたい」と思っているものだから、たとえそれまであかねさんが「あかねちゃん」と呼ばれるお嬢様的ポジションだったとしても、その一瞬で「関西のオバちゃん」キャラクターを押し付けられてしまう。
あぁ、シビアだ。でもうら若き乙女のあかねさんは人に頼られると断れないタイプだから、きっとそのオバちゃんキャラになれるように頑張ってしまうんだろうな、と思った。「ほんまアカンでー」とか言ってクラスで笑いをとりつつも、心のどこかでは「こんなの本当の私じゃない」と思い続けるに違いない。でも結局はそれが定着してしまって、大学に入ってもそういう盛り上げ役に徹し続けるのだろう。
人生というのはちょっとしたことで劇的に変わってしまう。ほんの一瞬がその人の一生を左右する場合もある。たとえば名前にeがないだけでも。赤毛のアンも言っていた。アン・シャーリーのアンのスペルは必ずeをつけてねと。AnnじゃなくてAnneだからと。そうじゃないとなんだかみすぼらしい感じがする、と。
そうか、あれはもしかしたらアンが落としていったものなのかもしれないな、と私は思った。ついうっかりなくしてしまって、「私がAnneじゃないなんて絶望だわ」とか言って騒いでいるのかもしれない。アンが渋谷駅にいるかどうかは別として。
あーやっぱりあれは拾ってきちんと駅員に届けるべきだったな、と私は反省した。
「あの、私のe知りませんか」と、「eなくしたら人生だいぶ変わっちゃうんですよ」と、困った誰かが言ってくるかもしれない。
と、いうわけで、みなさんも自分の名前をなくさないように、お気をつけを。とくに、渋谷駅ではね。
暑いですが、今日も1日元気にがんばりましょう。
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