たくさん怒って、もっと抱き締めて
202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:伊藤ゆずは(ライティング・ゼミ2月コース)
「こら―――――!!
なに? このへやは! かたづけなさい!
なんで、まいにち おんなじこと いわれんの?
ぜーんぶ すてちゃうからね!!」
わわわ、この絵本のセリフ、まーんま私の口癖だ。どこの家も同じなんだ……。
我が家の本棚には、息子たちと私が一緒になって何度も何度も読み返している絵本がある。タイトルは『おかあさんはおこりんぼうせいじん』(PHP刊)。自身も2児の母である絵本作家のスギヤマカナヨさんの手によるものだ。
毎日毎日おかあさんに怒られてばかりの兄弟のお兄ちゃんが、ある日、弟に「本物のおかあさんは連れ去られていて、いま目の前にいるおかあさんは地球を征服しにきた“おこりんぼうせいじん”かもしれないよ」と言いだして……という物語。ついつい怒ってしまう親といつも怒られてばかりの子ども、双方の気持ちが驚くほどリアルに描かれている。
作中で一番心に刺さるのは、お兄ちゃんの「おこったあとは、ぼくたちのこと、きらいになっていると おもってた」という言葉だ。ドキッとして、うちの息子たちにも聞いてみると、二人も「ママは僕たちのことがきらいだから怒るんだ」と思っていたらしい。ともにこの絵本を読むことがなければ、恥ずかしながら彼らのそんな思いに気づけなかったと思う。手遅れになる前に子どもたちの心に絆創膏を貼ることができたのは、間違いないくこの本のおかげだ。
私は子どもを産んでから、とにかく“おこりんぼう”になった。勉強や仕事と違い、子育ては頑張ったからといって思い通りになるとは限らない。数時間おきの授乳で眠れないとか、自分の時間がまったく持てないとかそんな単純なことではなくて、とにかく時折説明のつかないイライラに襲われる。
こんなに怒ってばかりの性格ではなかったのにな……と果てしなく落ち込んだり、子どもに対してこんなにイライラしてしまうなんて、私ちょっとおかしいのかなと真剣に悩んだりもした。
何かに縋りつきたい一心で自治体の主催する「お母さんのためのアンガーマネージメント」なる講演会に駆け付けたこともある。するとどうだろう。いつも道ですれ違ったり学校行事であったりするたびにニコニコしていておだやかにみえる息子の同級生ママたちの顔が、その場にはたくさんあった。しかも、みんなおしゃべりひとつせずに講師の先生の方を向いて、受験生みたいに必死にメモをとる準備をしている。もしかして、みんな家では“おこりんぼうせいじん”なのだろうか?
講演会がはじまると、のっけから“怒りの正体”という話にくぎ付けになった。講師の先生いわく、“怒りの正体”は2つあるらしい。
1つ目は、自分の体や心を守る“防衛感情”というもの。私たちは本能的に、心身が脅かされると怒りをもって対応する術を備えているらしい。そして2つ目は、自分が持っている“べき”だということも教わった。人はそれぞれ「こうあるべき」とか「こういうときはこうするべき」という強いこだわりを持っていて、それに反する出来事が起こると怒りが生まれる……ということらしい。なるほど! 日々これほど怒りがわいてくるのは、そういうワケだったのか!!!!!
子育て中は、確かにいろいろな意味で心身の安全を脅かされる。それに、自分は“〇〇べき”といった理想が他の人よりもちょっと多いかもしれないことにも気づいた。例えば、私は元来時間にはきっちりしたいタイプで、自分自身に対して“子どもを理由に待ち合わせに遅れるなんて、恥ずべきことだ”くらいに思っていたし、息子たちにも「子どもは親のいうことをちゃんと聞くべき」とか「部屋は常にきれいにしておくべき」などの理想を一方的に押し付けていた。「ごめん! 息子1号・2号」と思うのと同時に、自分が子育てに向いてないから怒ってしまうワケではないと知ることができて、心底ホッとした。
講演の後半には、怒りとうまく付き合う方法として、違う視点や立場からものごとをとらえる“リフレーミング”や約6秒と言われる“感情のピーク(この場合は怒り)”をうまくやりすごす方法などのテクニックなども紹介されたが、そんなことはもうどうでもよかった。怒りの正体が分かったことで、自分自身に押していた“怒ってばかりの私は、親失格”の烙印から解放された。それだけで十分だった。
『おかあさんはおこりんぼうせいじん』という絵本とアンガーマネージメントに出会う前の母子の関係は最悪だった。いまでも子どもをおこってしまう場面は多々あるが、私にも子どもにもちょっとした余裕ができた。
「ママ最近よくおこるから、おこりんぼうせいじんなんじゃないの? 」と息子1号。「そうだそうだ! ママしかしらないオレたちの秘密を言ってみろ! 」と息子2号。
私は私で、「親に向かって言ってみろ! ってその言葉何!? 」の一言をグッと我慢して、
「何それ~」と怒り笑いをする。
感情は、近しい間柄になればなるほど、より強く作用するものだという。だからこそ、息子たちには伝えたい。怒った以上に「大好きだよ」と――。
***
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