火中でソフトクリームを喰らう男
記事:福永千景(ライティング・ゼミ)
平成16年6月20日発売。
AERA No.28
表紙は、今をときめく俳優・綾野剛。
事前情報を基に雑誌「AERA」を手に入れる。
390円也。
表紙を飾る綾野剛氏、1頁。
出演映画の情報などが紹介されていた。
そして、この雑誌を購入する目的となった記事を読むため48頁を開く。
枚数にして5頁の特集。
この男、綾野剛を抜いたのか。
はたまた、最初から上をいっていたのか。
まず、1頁を占める写真に慄いた!
彼の頭上。
青白く光る炎。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し」
遠い過去の教えが蘇る。
その教えは、座禅を組むが如し。
決して、フルスロットルで動き回る男には似ても似つかない言葉「涼し」。
それなのに、浮かんでしまった。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し」
写真の隣、49頁の2行目。
「狂うくらいの思いがないと伝わらない」
の文章が目に飛び込む。
微かに何かが聴こえてくる。
遠くから小さく、そして徐々にボリュームをあげて。
これはワルキューレの騎行。
リヒャルト・ワーグナー作曲の「ワルキューレの騎行」だ。
あ!
「狂うくらいの……」
そうか! やはり!
ぼんやりしていたものが、確信となりつつある。
「狂う」
と聞いて連想するのは、
映画「地獄の黙示録」の登場人物であるビル・キルゴア中佐。
フランシス・フォード・コッポラ監督の地獄の黙示録には、
狂ったとしか思えない人物が多く描かれている。
その中でもキルゴア中佐は格別な存在。
被弾の中、弾を避けることもなく
堂々と、颯爽と立ち
遠くを見つめる。
視線の先は、海。
波の状態を見ているのだ。
サーフィンをする為に。
戦う相手への攻撃の指示を出しながら、己の楽しみであるサーフィンのことを考えているのだ。
狂っている。
その狂い方が潔すぎて、罪悪感さえも湧き起らない。
映画たる所以での認められる狂いではあるのだけれど。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し」
というところであろうか。
規模が絶大過ぎるけれど。
話を写真の男に戻そう。
男の頭上には、青い炎が出ている。
青い炎に守られているように、彼の頭、頭脳がある。
ろうそくの火の中心に青い火が灯るのは、ご存じだろうか。
理科の実験かなんかで習ったことがあるかもしれない。
その中心の青い炎の部分が守るようにして炎心がある。
その炎心は、熱くないと聞いたとこがある。
イヤ、私の記憶違いかもしれないのだけれど。
もしもその青い炎に守られた部分が熱くないとしたら、
やはり、この男
只モノではないかも知れない。
狂っている?
いや、正気だからこそ?
フルスロットルで働くこの男の頭の中は、
決して熱く煮えたぎっているわけではなく
それどころか、常に冷えて、冴えわたり、
爽やかな冷風を吹かせているのかもしれない。
キルゴア中佐のように。
面白いではないか!
常人では考えられないような状況の中で
いかに、楽しむか!
に集中して、そして実際楽しんでいるのだ。
皆が被弾の中を逃げ惑うなか
「サーフィンしようぜ」
って、サーフボードを抱えて海へ向かうなんて。
願わくば、戦争なんてこの世から消えてなくなれば良いと思っているけれど。
困難を困難と見ず、そこでいかに楽しむか!
飄々として。
この男の強さを見た気がした。
そこに、社員のチカラを際限なく引き出し、天狼院に人が集まり続ける理由があるのではないだろうか。
いや、それができるのには
やはり熱く燃えたぎる情熱、「熱さ」のある熱量も必要ではないだろうか。
人を惹きつけるのは、そういう熱さでもあるだろうし。
いやいや、厚ぐるしい熱量だけでは
ビジネスは成り立たないはず。
ビジネスには、冷静な判断と冴えた知性、そして時には冷淡すぎる割り切りも必要と聞いたことがある。
冷と熱。
狂いと冷静。
果たしてどちらが、この男の頭の中を占めているのだろう。
答えの出ない問いが、駆け巡る。
終わり、また始まる。
曲目がドアーズのジ・エンドに変わる。
重い。
いやいや。
私が悩むことでもない。
答えを探すことでもない。
絶望がこっちに来いよと手招きしても尚、
絶望の淵を覗きこんだとしても尚、
また、始まるのだ。
スタートは、いつでもきれる。
こうしている間にも
彼は、
「いやぁ、ダイエットは辛いな~」
とか言いながら、ソフトクリームを舐めているに違いないのだろうから。
どんなに燃え盛る火中にいたとしても。
たぶん、火にさえも禍にさえも気づかずに。
サーフボードの代わりに、パソコンを抱えて。
果して、彼の視線の先に何が見えているのか。
何があるのだろうか。
その先にあるものが何かを求めて、
皆足繁く天狼院へ通うのかもしれない。
さてさて、AERA「現代の肖像」の特集
「三浦崇典」
読んでみようっと。
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