「学校に行きたくない」と言われたら
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記事:栗(ライティング・ライブ大阪会場)
「私、学校に行きたくない」
ある日、子どもがこう言ったら、どんな気持ちになるだろうか。親にとっては怖い言葉だ。できれば聞かずに過ごしたかったが、自分が経験することになるとは。あのときはしんどかった。
うちの家族は、夫の仕事のために何回か引っ越しした。名古屋に引っ越したとき、娘たちは小学1年と3年。もともと従順で明るい子たちで、それほど心配していなかった。
だから、引っ越して1週間後のある朝、次女のゆうかにいきなり言われて驚いた。
「学校に行きたくない」
「なんで?」
「行きたくない」
「行かなあかんよ」
「いやっ!!」
いきなり泣き出したゆうか。
いつも素直に言うことを聞くので大丈夫と思っていたのに、そこまでせっぱつまっていたとは。びっくりした。とても連れていけるような状態ではない。
その日、どうしても持っていかないといけない書類があって、私は仕方なく1人で学校に届けに行った。担任の先生にわけを話すうちに、言葉に詰まって涙がこみ上げてきた。
「大丈夫ですよ、大丈夫ですよ」
ぽんぽんと先生に肩をたたかれてよけい泣けてくる。親の私が泣いてどうするんだ。でも、それだけ自分も焦っていたのだろう。
家に戻ると、ゆうかは転校前に記念にもらったアルバムをずっと眺めていた。きっと楽しかった思い出なんだろうな……。それを見てまた悲しくなってきた。そもそも学期途中の引っ越しは失敗したな。せめて春休みとかにすればよかった。
こういうとき、どうしたらいいか尋ねるママ友もおらず、その日は娘と家に閉じこもっていた。翌朝も同じ会話。
「今日は行かなあかんよ」
「……」
「なんで行きたくないの?」
「……」
途方に暮れたまま、1週間が過ぎた。毎日家にとじこもったままの2人。今までこうしたら? と言えば、素直に従っていたのに。そのやり方が間違っていたのだろうか。
私はふと思いついた。
「ゆうか、外でランチでもしよっか」
「ランチ? いいの?」
みんなが勉強している時間に外に連れ出すのも気が引けていたが、もうこの際、いいかと思った。
家の近くのショッピングセンターに行き、ハンバーガーとフライドポテトを注文する。ふだん2人きりで食事に行くこともないので、ゆうかはうれしそうだ。外でゆったり食べるのは私も久しぶりで、解放された気分。学校をサボるという後ろめたさを忘れて味わうハンバーガーのおいしいこと!
その後、奮発してゆうかの大好物、ハーゲンダッツのチョコアイスも買った。2人で並んでアイスをなめていると、ゆうかがふと話し始めた。
「あの子、いじわるしてくる」
「あの子って?」
「あれ、取ってこいとか言ってくる」
なるほど。やっぱりそういう子がいたんだ。どうして気づいてあげれなかったんだろう。それからゆうかは、その子にされたことを一つ一つ教えてくれた。やめてと言えばよかったのに、と思わず言いかけた。でも、ゆうかには無理だったのだ。
転校生に対して親切な子ばかりではない、そんな簡単なことがわからなくて申し訳ない気持ちになった。それは行きたくなくなるよな。何で行かないの! なんて言ってごめん。
「そうやったんや……。それはその子が悪いわ。学校には行かなくていいよ」
「えっ、ほんとう?」
「ゆうかのせいじゃないんだから、いい、いい。しばらくゆっくりしよう」
ぱっとゆうかの顔が明るくなって、安心したようだった。行けなくて困っていたのは何より本人。その上、親まで困った顔をしていたら確かに不安だろう。親として、ずっと休むことになったらどうしようという気持ちが先走っていたのだ。もっと早く気持ちをじっくり聞いてあげていればよかった。
楽しい半日を過ごして、次の朝。ゆうかは起きると学校の準備をしている。
「えっ、学校、行くの?」
「うん」
「……大丈夫?」
「たぶん」
すごく意外だった。行けなくてもいいやというふうに気持ちをこちらが切り替えたら、ゆうかもふっきれたのか。あれだけ、行かなあかん! と言っていたときはかたくなだったのに、行かなくてもいいとなると気が楽になったらしい。
それからしばらくすると、その命令する子から守ってくれる友達ができたようだった。行きたくないとは二度と言わなくなった。本当にほっとした。
結局、この経験がゆうかを強くしたようだ。そして、親として私もつくづく思った。子供は思いどおりにはならないし、そもそもそれは親のメンツ。学校に行かない子供を持つ親はだめだというような。
それに、今振り返って、親としてあわてるのも無理はないと思った。だって、子供にとって学校以外の居場所はほかにそうそうなかった。親がもっと選択肢を知っていれば、あんなに焦らなくてもよかったかもしれない。
「学校に行きたくない」
今、そう言われて悩む人がいたら、とりあえず一緒においしいものでも食べに行ったら? とおすすめしたい。焦らなくても大丈夫だよと。
***
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