富士山、見る山?登る山?
世界文化遺産にも登録された日本の誇るべく最高峰、富士山。
特別、何の信仰も持っていない私だけれど、富士山には山ノ神というような、特別な何かが宿っているように思えてならない。
昨今の登山ブームに加え、外国からの登山者も多いと聞く。
富士山は、海外の山に比べると、決して高くはない。
あまり知られていないことだけれど、お隣の国台湾には、九州と同じくらいの国土の中に、3000mを超える高山は280座以上もあるという。山国と言われる日本には、たったの21座。さらに台湾の最高峰は、私たちの富士山よりも高いのだ。
富士山がこれほどまでに人気なのは、他の山に連なっていない独立峰、そしてあの美しい円錐形の姿に引き寄せられてしまうからではないかと思う。こんなきれいな山は、世界中を探しても数少ないらしい。
その富士山、私にとっての楽しみ方を紹介してみようと思う。
小さな頃から富士山が好きだった。
川崎北部にある我が家のマンションからは、富士山が見える。
ただし、富士山の手前に丹沢が広がり、さらに多摩丘陵に続く小高い丘が多いために、見えているのは山頂のみ。おまけに岡の上に立つ鉄塔が富士山の真ん前にそびえたち、串刺しされたような可哀想な姿だ。それでも、空気が透き通る朝、富士山が見えると、何か良いことが起こりそうな晴れやかな気分になり、手を合わせたくなる。
富士山から離れた地域から見えるその姿が、我が家から見える姿よりも大きく見えると、なんだか負けたようで悔しい。
富士山を見るためには、労力は惜しまない。
ドライブするルートを選ぶのも、いかに富士山がきれいに見える場所を通るかが重要。
東海道新幹線の座席を指定する際、下りは進行方向右側、上りではもちろん左側をおさえるのは当然だ。飛行機に乗るときには、予め航路を確認し、富士山が見える側の座席を取る。
窓側の席が取れなかった場合などは、雨降ってしまえ、曇ってしまえ!と、心の中で悪態をつきながら、寝たふりをして過ごす。それほど富士山が好きでたまらない。
ダイヤモンド富士をご存知だろうか。富士山の山頂から太陽が昇る、反対に太陽が沈むその瞬間、ダイヤモンドのように光り輝く。あちこちで見ることが出来るが、冬至近辺に高尾山山頂から見えるダイヤモンド富士は有名だ。その姿を見るために、何度となく仕事をサボり、高尾山に向かった。ほんの一瞬だけれど、それはそれはステキなショーだ。
登山ブームの昨今だけれど、日本人のどれだけの人が富士山に登ったことがあるのだろうか。
登りたいと思っている人は、どのくらいいるのだろうか?
私も富士山が好きすぎて、小さい頃から登りたいと思い続けていた。でも、誰も連れて行ってくれなかった。大人になってからも、誰もその思いを共有できる人とはなかなか出会うことがなかった。どう登れば良いのか分からない。自分の体力に自信がないので、一人で行くのは不安だ・・・・・。
海外には自分でチケットもホテルも取って出かけていくのだけれど、車で2時間程度で着くはずの富士山には、なかなか踏み込むことが出来ない憧れの場所だった。
そんなとき、体力づくりのために始めたランニングがきっかけで、仲間たちと富士山に登るチャンスが訪れた。富士山への登山のピークは過ぎた9月中旬、富士登山の玄関口として一番メジャーな富士宮口五合目よりスタート。眼下に見える山中湖や富士宮の町を見下ろして歓声を上げていたのは最初だけだった。火山岩で出来た富士山は歩きにくく、草花はほとんど生えていない。単調でつまらない道のりだ。登山道から見上げる富士山は、あまりにも雄大すぎて、どこが山頂なのかわからない。ただただ広くて茶色一色の急な坂道だった。あまりの苦しさと辛さから、何度もあきらめようと思いながらも、なんとか登りきった山頂。雲に阻まれ、眼下の景色は真っ白。あの憧れの富士山のてっぺんにいるという感動や達成感は、高山病、疲れ、空腹、それに真冬のような寒さにかき消された。
「こんな山、二度と登るまい」
そう思ったのにも関わらず、なぜか翌年には、「富士登山競争」という大会にエントリーしていた。
富士宮市役所から五合目までかけ登る五合目コース。このコースに設定された時間をクリアしたものは、翌年以降、山頂コースまでの出場権がもらえる。まさしくキチガイというか、ドMが集まるような大会だ。うっかりそんな大会に出場したものの、下りどころか平坦な場所が少しもないコースに、コースの大半を歩き、なんとか完走ならぬ完歩。リベンジとエントリーした2年目は途中で足が攣り、這うように五合目のゴールにたどりついた。という苦い思い出のみ。
「もう富士山はこりごり・・・・・・」
そこで出した答えは、「富士山は、眺める山」
あるとき、富士山の次に高い北岳へ登った。テント一式を含め16キロにもなる大きなザックを担いでいたこともあり、正直なところ、富士山よりも厳しく辛い。でも途中から見える景色、、高山植物が咲き乱れるお花畑、何よりも稜線のテント場から見たその景色は、それまでの辛さも疲れも吹き飛ばすほどの絶景だった。
満点の星空に浮かびあがる富士山。
山の朝は早い。
3時ごろから少しずつ東の空が明るくなり、富士山のシルエットがだんだんと濃くなる。
そしてご来光。
朝日を浴びて赤く染まる富士山。
これまでの人生で一番感動した朝だった。
その後も、山に登ると富士山を探す。
どんなに疲れていても、富士山が励ましてくれる。
私だけではない、富士山を見つけると、みんな笑顔になる。
「富士山は眺めて感動する山」
富士山から見るご来光は素晴らしいものだと思う。
でも、ご来光と富士山を一度に見る感動を味わってもらいたい。
いつか部屋の中から富士山の姿が見える家に住みたい。
私にとっての富士山は眺める山だ。
この先、またうっかり登ってしまうかもしれないけれど・・・・・・。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
【天狼院書店へのお問い合わせ】
TEL:03-6914-3618
天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021
福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL 092-518-7435 FAX 092-518-4941
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】