永久凍土を溶かしたのは、心の小さい炎だった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:後藤 修 (ライティング・ゼミNEO)
僕の体は以前、永久凍土だった。
20年前の僕の体を例えるなら、こんな表現がしっくりくる。
「どういうこと、それ? 」
誰もがこんな表現には目をパチクリさせてしまうだろう。
けど、それが僕の体を形容するならば、最もふさわしい言葉だなと50年近い人生を生きて感じている。
29歳の12月だった。
ピューピューと風の音が聞こえる寒い朝、目が覚めた。出社の準備をしようと体に力を入れた
その時だった。
体が動かない。まるで、ベッドで縄を縛り付けられているようだった。
(え? まじか?)
顔が青ざめ始めてきた。冷や汗が流れる感覚があった。
不安を感じ何度も何度も力を入れた。でも、動けない。
30分ほど続けても体がわずかに動くだけだった。
それから、会社を数日休んでしまった。
突然、体から「あんたは体が凍ったからな」と告げられてしまったようだった。
そんな凍った体になった僕。そうなってしまうと、ほとんど仕事は集中できなかった。
日中、働いていると、次第に頭と体が重くなってくる。
頭の回転が鈍くなり、仕事に向かう気持ちが失せてくる。
健康体だった時からすると、別世界にいるようだった。
重力に引っ張られて下に落ちそうな時があった。
そんな時は僕をイスがかろうじて支えてくれていた。
イスが守り神のように思えた時もある。
この状況ではこれから生きていくのが相当辛い……。
藁をもつかむような思いだった僕は母に誘われ整体院に通い始めた。
母親は僕と同様‘永久凍土歴’が長い体だった。母親も懸命に治療を受け続けていた最中であり
僕もそれに便乗する形となった。
通い始めてから僕の体は軽くなり始めた。が、働きながら治すのは至難だった。
だから、整体院に通っても効果は限定的だった。
氷の体はわずか溶ける程度で、なかなか体の重さや硬さが改善されなかった。
だからといって、そう簡単にあきらめるわけにいかない。
僕は策を打った。
温灸器を使い、体をほぐし始めることだった。
この治療方法も母親からの受け売りだった。
キセルをひと回り大きくした温灸器を毎夜毎夜、体に2時間ほど当て続けるようになった。
仕事をする傍ら、毎日温灸器で体をほぐし、週末は整体院に通い体をほぐすという
‘ボディメンテナンス’生活を送り始めた。
これで体の重みや苦しみから抜け出してやる……そんな思いを強く持ち、過ごし続けた。
だが、劇的な効果があまりなかった。
それどころか、凍土化は進んでしまった。
やがて、両肩から両肘にかけて冷たくなってきたのである。
(血が流れていないぞ)
直感で思うほど、体が冷えてきていた。体温も35度前半が続く低空飛行状態だった。
今にも墜落してしまいそうだと恐怖に感じた僕は地元の病院へ行って、診察を受けた。
(ここなら、改善するアドバイスが聴けるはずだ)
一縷の望みを持って、診察結果を待った。
しかし、こう告げられた。
「あなたに悪い病気の症状はありません」
そんな……。ウソだろ? 体が氷みたいになっている。しかも、両腕が冷えているんだぞ。
そんなバカなことがあるか―――――!!
病院を出た後、僕はやけくそだった。大声で怒鳴り散らしたくなった。
自分がこんな目に遭うなんて。そんな悪行をしてきたか、俺は? 普通に生きてきたのに。
いつのまにか涙を流していた。
もう健康体には戻れないかもしれない。旅行に行ってもしんどくて楽しめないかもしれない。
悪ければ、働けなくなるかもしれない。生きることができなくなるかもしれない。
そんな絶望感で胸を焦がしながら、天を見上げながら僕は家へ帰った。
この時は本当に万事休すかと思った。
しかし、天は僕を見放さなかった。
しんどさと苦しさと向き合いながら過ごしていたある日。僕はある情報を携帯で見た。
それは心理カウンセラーの講座の案内情報だった。
昔、カウンセラーを目指したことがあったな……。
僕は目にグッと力を入れて改めて見た。
(これを受けたい)
直感的に思った。
それと同時に‘これを受ける、絶対受ける! 死んでも受ける!!’
もう体の不調なんか忘れて、めちゃくちゃテンションが上がるぐらい気持ちが湧いていた。
心で小さい炎がボウボウ燃えていたように。その勢いで受講の手続きをした。
しかし、壁が来た。
通い始めて3か月目。講座を受けていると、体がズシリと重くなった。
その後、顔が赤くなり始めて、体も痒さを感じ始めた。
体がSOSを出し始めていたのだ。
毎日の治療と週末の整体通いも継続し、仕事もこなしながら講座通いも、もう限界。
やめようか? と思ったその時だ。ある考えが頭に閃いた。
(他の整体院を探してみるか?)
そう思った僕は携帯で検索をし始めた。検索ワードに‘首痛’と入力してボタンをポチ。
表示された整体院の情報でいちばん上にある整体院にグイっと引き留められた。
(ここが呼んでいる気がする。ここに行こう)
10日後にそこへ行った。そこには優しい笑顔が素敵な女性の先生がいた。
早速、凍土な体を診てもらった。
「相当、あなたの体は酷いね……」
やっぱり。そうですか。なんせ、永久凍土ですから。
治療を受けてから1時間が経った。予想しないことが起こった。
立ち上がった僕は信じられなかった。体が軽い! フワッとしている!
背中に羽が生えたような感じだった。永久凍土も1㎝溶けたような感じがした。
これで助かる……。これで生きていける。
本当に一命を取り留めた心持ちだった。
あれから13年ほど経った。
僕の体はまだ硬い。でも、永久凍土を卒業した。凍土の割合は初めに凍土化した時よりも
減った。今は座り続けることがほとんど苦でなくなっている。
しかも楽しく働くことができている。そして、家族とも楽しく暮らしている。
さらに、今年の秋にはカウンセラーとして会社を辞めて独立する決断をした。
家族も本当に喜んでくれている。
本当にここまで回復することは想像していかなった。長嶋監督じゃないけど、
まさにメークドラマ。今でも夢じゃない? とさえ思う。
本当に奇跡はこの世に存在すると思っている。
誰もが生きていれば苦境を味わうことがある。だが、そんな時でも心には小さい炎が間違いなくある。その炎を見つけて、燃やし続けるための行動をしよう。
最初のうちは何も変わらないかもしれない。
苦境から抜け出せないと思うかもしれない。
けど、粘り続ければ奇跡が起きる。さらに暗闇から抜け出し、希望という明るい道に出ることが出来る。
さあ、決して諦めずに奇跡を信じて進んでいこう。
***
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