メディアグランプリ

三日月がキレイな夜、おじさんが道端でプリンを食べていた


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記事:おはな(ライティング・ゼミ)

ライティングゼミが終わると、いつも人通りの少ない東通りを歩いて帰る。
真っ直ぐな道を歩き切ったその先には、いつものあの店が見えてくる。
薄暗くて看板のよく見えない行列のできるラーメン屋さん。
昼間に来ても、夜22時頃に通ってもいつも長い列ができている。

「ラーメン食べたいなー」

天狼院書店の行き帰り、わたしの頭の中はいつも、
食べたことのない美味しいであろうラーメンのことでいっぱいになる。

ぼんやり遠くのラーメン屋さんを見ていたら、
その延長線上の向こう側に、今夜はキレイな三日月が見えた。
いつもは細くて頼りないはずの三日月が、オレンジと金色の力強い光を放っていた。

三日月に惹きつけられるように歩いていたら、ふと、大きなバイクの上で寄りかかるように休んでいるおじさんの姿が目に入った。
40代後半くらいかな。
アイボリーと言えばオシャレだが、白が濁ったような汚れた作業服を見にまとい、「だりぃなー」という声が聞こえてきそうな体勢で、休んでいる。

「おつかれさまでーす」と心の中でつぶやいて通り過ぎようとした時、
おじさんの腕が上下に動くのが目に入った。
ん? 何かを口に入れた? なんか食べてるのかな。

え、スプーンを使ってない? こんな道端で? 

あ。

プリンだ! 

しかも今流行りのお口の中でとろける系のタイプではなくて、
容器も中身もしっかりしてる、ツルツルの、
プッチンとするタイプの、あのプリンだ!

なんで池袋の街中で、東通りの道端で、
作業服を着たまま、しかもバイクの上で、
ちゃんとプラスチックのスプーンまで使って、
おじさんはプリンを食べているんだろう。

バイクの後ろには、大きくガバッと開きそうな、
カバの口みたいなタイプの荷物入れがついていた。
恐らくおじさんは、バイクで何かを配達する仕事をしているのだろう。

今の時点で22時近い。
仕事はこのあと深夜まで、もしかすると朝まで続くかもしれない。
ちょっとこの辺で一息つくかと、車通りの少ない小道にバイクを止めた。
それにしても今日は疲れた。
ずっと奥歯を噛み締めていたからか、頭も痛い。
酒を飲んで寝てしまえば、こんな痛みも忘れられるはずだけど、
仕事中に酒を飲むわけにはいかない。
仕方ない。コンビニでなんか買って食うか。
あー、腹も大して空いてないし、ちょっと甘いものでも食うか。

なんだか最近のコンビニは随分シャレてんな。
第一全部がとろけてて、食った気がしなそうだ。
ましてやクマのキャラクターだの、レースの模様だのがやたらついてて、
レジに持ってくのも恥ずかしい。
若い女だけが甘いものを食うと思ったら大間違いだ! 

あー、これだこれだ。
このでかいプリン。
安くて甘くて食った気がする。
よし、コイツをたいらげたら、また朝まで一踏ん張りすっか。

なんだ、若い姉ちゃんに見られちゃったよ。
おっさんが道端でプリン食ってらーとでも思ってんのか?
いいじゃないか。
働くおっさんこそ、疲れた体に甘いもんが欲しくなるんだよ。
姉ちゃんたちがオッさんを白い目で見るからこそ、
体に優しい甘いもんが食いたくなるの! 
それくらい見逃してくれよ。

んー、なんか違う。
確かにあのおじさんは疲れていそうだったけど、
もうちょっとあたたかい空気が流れていた。

今日は三日月か。
アイツは、今も元気にしているのかな。

まだ金もなくて、贅沢もさせてやれなかったけど、
誕生日とか記念日とか、特別な日にはいつも二人で夜中にコンビニに走った。

「あー、こうちゃんがいて、これさえあれば幸せ!」
アイツはいつもそう言って笑ってた。

でっかいプリンを二人で分けあって食べて、たまに手元が滑って床に落としたりもした。
「あはは。よかったね、今日はアリもパーティーだね!」
どんな時もアイツは笑っていた。

「ねーねー、こうやって光ってるとさ、なんか高級感が出ない?」
そう言って、ボロボロのアパートのシンクや蛇口を丁寧に磨いていた。

蛇口にお互いの顔を近づけたり話したりして、
「うわー、ブサイク! ゴリラみたい!」
「お前だってラクダだろ!」そう言いながら何時間でも笑っていられた。

寝苦しい夏の夜には、目覚ましみたいにうるさい扇風機がガタガタ鳴っていた。
かろうじて風を起こしてくれるその羽根は、いつも透明の青だった。

あいつが出て行った次の年の夏、
扇風機はすぐに埃が詰まって止まり、羽は灰色に変わっていった。

太陽を失った俺は、今もこうして夜中に働いている。

こんなおっさんになっても、未だにご褒美にプリンを選びたくなるなんて、ばかみたいだな。

あ、今の人、不思議な顔して通りすぎていった。
そりゃそうだよな、道端でこんなおじさんがプリンを食べてたら、誰でも不思議に思うよな。

ははは。感傷に浸るのはもう終わり。さて、もうひと踏ん張りするか!

そんなことを考えながら歩いていると、段々と若者と酔っ払いと観光客でごった返す、池袋の東口に近づいてくる。

「おじさん、今日もがんばれー!」

心の中で、そうつぶやいた。

「お前もな!」雑踏の中から、少し枯れた低い声が、聞こえてくる気がした。

電車を降りてからアパートまでの帰り道、自然と足はコンビニへと向いていた。
スイーツコーナーには、おじさんが食べていたプリンがある。
でも、プリンが苦手なわたしはまっすぐにアイスコーナーへと向かう。

「あ、これ」

父が好きな、バニラアイスにチョコレートがコーティングされた棒の付いたアイスクリーム。
一つ買って、すぐに開けて、歩きながら食べた。
明日は早く家に帰って、久しぶりに父に電話でもしようかな。

すれ違った大学生風のメガネをかけた男の子が、こっちを見ていた。
さて、彼は住宅街でチョコレートアイスを食べている三十路女を見て、
一体どんな物語を、想像するのだろうか。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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