メディアグランプリ

「ふつう」というジャングル


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記事:岩井純子 (ライティング・ゼミ 4月コース)
 
 
「ふつう」に憧れた子供時代。
私の両親は小さな食堂を営んでいました。
朝から晩まで休みなく働く親の姿が今も目に焼き付いています。
 
幼稚園に通っていたころのこと、その園は親が送り迎えをするシステムだったのですが、わが家は、お昼時はランチが忙しくて、定時に迎えに来てもらえることはほとんどありませんでした。
いつも私は、お迎えに来てもらった友だちを見送り、しかたなく、ひとりで寂しく親を待っていました。そんな毎日だったことをなんとなく覚えています。
 
なかでも、わたしには忘れられない光景があります。それは今でも、私の胸をしめつけてくる。いつもはお迎えを園内で待たせてもらっていたのに、その日はなぜだか、幼稚園の玄関で一人、親が来るのを待っていました。
 
どれほどの時間がたっていたのか今となっては想像もできませんが、世界中に私一人が取り残されたような気もちになって不安で心細くて号泣している姿が、その時の臨場感のまま私の中に残っています。
 
食堂の娘の試練はそれだけではないのです。定休日以外、家族で食卓を囲むということはありません。昼ごはんや晩ごはんの時間帯は稼ぎ時で、めちゃくちゃ忙しい。手伝わされることはあっても、家族団らんはありません。
私は、店内に陳列してある売り物のおかずを手に取り、自分でご飯をよそって、店の隅っこで食事をとることが日常でした。お客さんや、働く親の姿をそばで感じながら食べていられるので寂しくはなかったですけどね。
 
そういえば、私が初めて店の手伝いをしたのは小学校低学年のころ、私に任された仕事は黄色いたくあんを切ることでした。1㎝ほどの厚さになるように大きなタッパーいっぱいに切らされていたことを思い出しました。
小学校6年生になるころには、菜箸ひとつでフライパンを振って炒め物をひっくり返せるようにはなっていましたね。当時のわたしは、職人の美しい身のこなしのひとつを習得できた満足感で満たされていました。
 
しらずしらずに細かなことを教わっていたのです。あとになってからしかわからないことでしたけど。
 
そうやって、忙しい中育ててくれた両親には心から感謝しています。
 
けれど、そんな私の当たり前の生活に水を差してきたのは、テレビから流れてくる家族団らんを映し出すドラマやCMの数々。時代はちょうど70年代、バブルの真っただ中。
 
CMからは、週末は家族でお出かけをしようと、車会社にあおられ、はたまた、家族で食卓を囲み、焼肉を楽しそうに食べる様子を流す「焼肉のたれ」会社の広告。
 
そこには私の知らない世界が繰り広げられていて、楽しそうな様子がガンガンに流れてくるではないですか。
なんだかちがう、私が知っている世界じゃない。何がどうなって、どういうことなのだろうと子供心にジワリと衝撃を受けました。
そこから、わが家は「ふつう」ではないのだと、感じるようになりコンプレックスのようなものに囚われてしまいました。今の時代ほど、人とちがうことが当たり前だという風潮はまだ生まれていなかったように思います。
 
今思うと、わたしが思っていた「ふつう」って、たぶんサラリーマンの家庭を思い描いていたのじゃないかな。
お父さんの帰りを待ち、家庭料理を囲む家族団らんの様子、週末には家族そろってお出かけするみたいなことに憧れていたのでしょうね。
 
そして私は「ふつう」というまぼろしに取りつかれていきました。
みんなと同じようにすることで寂しかった子供時代から抜け出せるような気がしていたからです。
 
ところが、20代は、雑誌を飾る流行りの服を買いたくて、アルバイトに明け暮れていました。
DCブランド全盛のころ、ニコルやBIGI、MOGAなど大人びた服を買うことに熱狂します。
高校時代に始めたアルバイトは、某有名お好み焼き店。連日、長蛇の列をつくるお客さまに対応し、忙しい店をこなすサービスの基礎を徹底的に叩き込まれました。高校時代のほとんど毎日出勤していたんじゃないかな。
それは刺激的で、大学に行くよりも魅力的で、早く社会に出たいという思いを募らせることになります。
 
そこからの人生は、おもしろいように自分が思ったこととはちがうふうに流れていきました。意思がないわけではなくて、思ったようには事が進まないことがあるということと、それは決して悪い事ではないことを受け入れていれれば人生はひらけます。
 
25年間スナックのママとして生きる人生が待ち構えることになるなんて思ってもみませんでしたが、楽しい人生でした。
 
わたしは、自分が感じたことを信じて人生を突き進んできたように思います。「ふつう」でありたいと思いながら、「ふつう」が見当たらず、たぶん異端だったかもしれない自分の人生が好きで、それでも何とかなるような気がして生きてきました。
だれの人生でもない、あなたの人生を思い込みや固定観念に縛られることなく生き抜いてほしい。
「ふつう」なんてないことに気づければ、これ以上強いことはないのです。
 
 
 
 
***
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2024-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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