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税関で、ホンダは乗ってないと肩をすくめてやればよかった


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記事:ナギハネ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
人生で一度だけ、税関につかまったことがある。20年以上前、スマホもまだない時代のことだ。
 
大学の4回生、私はチビで童顔で英語が話せず、犯罪者からはほど遠い見かけの、どこにでもいる普通の女子大生だった。
 
春休みに卒業旅行で3か国を旅した。高校の友人と香港へ、語学専攻のクラスメイトとドイツへ、最後はゼミ仲間とニュージーランドだった。
香港旅行の翌週にドイツへ行き、ドイツから帰ってきた3日後にニュージーランドへ出発した。男1人、女2人の旅である。
 
香港もドイツもパッケージツアーだったが、ニュージーランドだけは航空券だけ買って、いわゆるバックパッカーでの旅行だった。
 
というのも、ゼミの教授が研究のためにニュージーランドへ引っ越したので、「本田先生に会いに行こう!」「先生のところに泊めてもらおう」となったからである。当時スマホなどなく、手紙(!)を書いた。今思えば本当に迷惑な話だが、先生は快諾のお返事をくれた。
いや、記憶は都合よく改変されてる。「泊まってもいいけど、水の出が悪いのでお風呂に入れないかもしれない」とやんわり断られていた。普通の女子大生の”素直な”私は「シャワーでも大丈夫です」と返事した。そういうことじゃないねん、とあの頃の私にツッコミを入れてやりたい。
 
とりあえず、関空~オークランド空港(NZ最大の国際空港)でチケットを探した。めちゃくちゃ安いチケットを取り、先生に日程を伝えると「僕が住んでいるのはウェリントンだよ」と返ってきた。調べてみると、オークランドとの距離は約480km、東京と大阪くらい離れてる。お金がなかったから、オークランド空港から深夜列車で一晩かけてウェリントンに行くことにした。今思えば、オークランド経由でウェリントン空港までのチケットを買えばよかったのだ。
 
ちなみに格安チケットを取った先は、半年ほど前にエンジントラブルで事故があった航空会社だった。関空を離陸するとき、窓から見えた右翼に縫い目のような修理跡があったのを覚えている。「落ちないかなあ」とのんびり思ってた私に、やめとけと言ってやりたい。とはいえ、とにかく無事に、飛行機はオークランド空港に着陸した。
 
タラップを出てスーツケースを受け取り、3人で税関に並んだ。友人2人は出口に向かう。が、私のパスポートを眺めていた税関の人が床を指さし、友人たちとは反対方向、「ブルーラインに行け」と言ってきた。床を見下ろすと、なるほど青い線が伸びている。身振り手振りで、「なんで私だけ?」と訴えたら、「あなただけじゃないよ」と返ってきた。
ブルーラインに進む人たちを目で追った。スーパーの袋に、みっちり”何か”を詰め込んだアジア系の中年夫婦、”何か”ひょろながいモノを背負ったぼさぼさ頭の白人男性。何度か「ブルーライン?」「Yes」のやりとりをした後、私は観念してブルーラインへと進んだ。
 
ブルーラインの先には、理科の実験室にあるようなアルミ製の長テーブルが何個か並び、みんなそこに荷物の中身をぶちまけていた。という表現がふさわしい乱雑ぶりだった。私の担当者になった税関の人が「スーツケースを広げて、中身を全部見せろ」と言ってきた。どこにでもいる女子大生だった私は、頭がショートしていたのだと思う。「行きでよかった、汚れた下着がなくてよかった」と、なぜかほっとしながら着替えや歯ブラシやらをテーブルに出していった。
 
「これは?」と税関の人がとりあげたのは、アルミホイルに包まれた錠剤だった。荷物が重くなるからと、胃腸薬を瓶から出してそのままアルミホイルに包み、ポーチに入れていたのだ。
“薬”って英語でなんていったっけ? ショートしていた私の脳に”ドラッグ”という単語が浮かんだ。が、その単語だけは言ってはならないと本能で感じた。なので必死にお腹を押さえて「ストマック、ストマック」と繰り返した。
 
次に税関の人は、私が書いた出入国カードを見ながら「滞在先は?」と聞いてきた。記入した滞在先は、ウェリントンの山奥の住所。私は自分の脳にある英語をフル稼働させ、先生に会いにきた経緯を説明した。すると「何か証拠になるものは?」と詰めてくる。
何か……。そうだ、本田先生からの手紙がある! 手紙を渡すと、税関の人は手紙を持ってどこかに行ってしまった。日本語が分かる人に確認を取りに行っていたようだが、あの待っている時間は、すごく、すごく長かった。
 
戻ってきた税関の人は、ふふふと笑いながら「プロフェッサーホンダはホンダに乗ってる?」といいながら、行っていいと私を促した。どこにでもいる女子大生だった私は、アメリカンジョークに何も返せず、ヘラヘラ愛想笑いしながら、その場を後にした。
 
帰国してから考えた。なぜ税関につかまったのか? あとから思えば、の理由は3つ、①3か国それぞれ同行者が異なる、②3か国の渡航間隔が短い、③滞在先はホテルではなく先生の自宅住所。それくらいしか理由が見当たらない。
 
20年後の今、立派なおばさんになった私なら、「ホンダは乗ってない」っておおげさに肩をすくめてみせるのに。
と強気なことを思いつつ、あれ以来、常備薬をアルミホイルに包んで旅行に持っていくことはない。
 
 
 
 
***
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2024-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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