メディアグランプリ

急襲!加齢臭!!復讐の消臭、そして……

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:細井岳(ライティング・ゼミ東京会場)
 
 
”この枕 なんか臭うと 君らが言ったから 今日は私の 加齢記念日”
(細井岳 第一歌集『加齢記念日』より)
 
 
1日の始まりの朝。私は現実に打ちのめされていた。ふぅぅーと細く長い溜息をついてから、目の前にいる妻と娘の顔をもう一度みる。
彼女たちの顔には、哀しみと嘲りと憐れみが同居していた。
 
 
「えーと……今なんとおっしゃいましたか?」と私は聞いた。
 
 
「んー……だから、その……枕が臭いんだよね」と妻。
 
 
「変なニオイがします」と娘。
 
「えーと……つまり、アレか。加齢臭、オヤジ臭ってことでしょうか」と私は絶望的な気持ちでさらに聞いてみた。
 
 
「オヤジ……じゃなくて、んーと……ヤギ?」と小首をかしげながら娘が答えてくれた。
 
 
「そうそうそう、ヤギ。お父さんは男だから……雄ヤギ(オヤギ)臭ってことになるんじゃない?だからオヤジ臭ではないよ、良かったじゃん」と妻が励ましを偽装したとどめを刺してきた。
 
 
皆、パジャマ姿だった。
 
 
ついに来るべきものが来てしまった。20代の頃より、いつ来るのかと恐れおののいていた加齢臭がついに来てしまった。しかも、その臭いはあろうことか人ではなくヤギ。二重にショックだった。悲しかった。苦しかった。
 
思わず、目の前にいた愛猫のりす(←名前)を引き寄せて、そのモッフモフに顔をうずめた。
 
 
「りすぅ~」
うずめたや否や、英語で言うとアズスーンアズポッシボー、
「止めて!!りすが雄ヤギ臭くなるから」と妻。
 
 
「臭くなるから!!」、と続けざまに娘。
見事なまでの母と娘による輪唱を聴かされた。
 
猫による慰めまでも取り上げるのか……もはや加齢臭者には人権もないのか。昨日まで、あんなに皆、仲良しだったのに。
 
かようにして、加齢臭は一夜にして私から家族を奪い去ったのである。ならばと、この窮状をSNSで訴えてみた。捨てる神あれば拾う神あり。友人から早速こんなメッセージが寄せられた。
 
”加齢臭には、わざと異臭を放つことで娘を遠ざけさせて、近親交配を避けるという生物学的意義があるらしいよ”
 
おぉー生物学的にそんなに意義ある臭いだったのかー、勉強になるわー
けど、なんだろう、全然心が軽くならないや。うくくく。
 
ダメだ、他人に頼っていては埒が明かねー。最後に頼れるのは、やはり自分。結局は自らで突破していかねばならんのだ。おのれ、加齢臭、おのれ、オヤギ臭。私は断固として貴様らには屈しない。
とりあえず、私は「加齢臭 対策 40代男性」とスマートフォンで検索した。反撃の狼煙を上げるのだ。すると、とあるボディソープが加齢臭世代のおっさん達の支持を集めているという事がわかった。
 
なにやらそのボディソープには「ラクトン」なる若い女性に特有の香り成分が配合されているらしい。使えば、たちまち誰でも「若い女性の香り」をまとえるという。そして「ラクトン」は加齢臭をマスキングする効果が実証されており、それが為におっさん達の支持を集めている理由のようだ。
 
これだ、これしかない、と思った。
 
 
今、私は臭い的にマイナス2の状態にある。つまり、普通ならばおっさん臭というマイナス1ポイントで済むところを、私はオヤギ臭という更なるマイナスを負うており、臭いにおいて人ならざる者なのだ。
それをば、この「若い女性の香り」ボディソープを使えば、おっさんではなく女性になり、しかもそれが若いと来ているのだからプラス2ポイント獲得となる。プラスマイナスゼロで晴れて人間に戻れるというわけ。
 
しかし、それは対症療法にしかならない。目指すべきは根治である。
 
私は更にこう考えた。おっさん臭が臭くて、若い女性がいい匂いという、その価値観のヒエラルキーがそもそもの問題の根源なのではないか、と。であれば、それをひっくり返してやればいい。つまり「若い女性の香り」の価値を相対的に下げるのだ。
 
どうするか?
むさ苦しいおっさん達がこのボディソープを使いまくればいいのだ。当然ながら若い女性は「若い女性の香り」を発している。そこにおっさん達の発する「若い女性の香り」が加わるわけだ。すると香り世界に「若い女性の香り」インフレーションが起こり、価値が下落する。もしかしたら、稀少になった「おっさん臭」の価値が上がるかもしれない。そうなれば、私のように虐げられる者もいなくなるだろう。世界が平和になる。
 
という訳で、我が家の風呂場に私用の「若い女性の香りのするボディソープ」が配備された。上記の壮大な野望を胸に、私は日々せっせと「若い女性の香り」を発するのに精を出していたのだった。世界平和に向けて。
 
そんなある日、事件は起こった。
娘とお風呂に入った時だった。
 
「今日はお父さんのボディソープで洗ってあげるぞ」と言って、例のボディソープを泡立てて娘を洗おうとするや否や、英語で言うとアズスーンアズポッシボー、
 
「お父さんの臭いがうつるー--、嫌ぁぁぁぁー--!!!」
 
娘ギャン泣き。風呂場はたちまち修羅場と化したのだった。
世界平和への道は長く、そして険しい。
が、私はあきらめない。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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