これからの正義の話を……できるだろうか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:黒﨑良英(ライティング・ゼミNEO)
一度見てしまったが運の尽き、某世界的動画投稿サイトで、おすすめとして出てくる映像がある。
映像と言っても、文字とその音声化だ。
それは、SNSでのやりとりを動画にしたもの(もちろん実際の画面ではないが)で、内容は様々だが、共通点は「スカッとした話」ということである。
身近な人物……親、義父母、兄弟、ママ友や学校の教師、あるいは電話対応の人物など、相手が高圧的な態度で悪口を言ってきたり、実害をなしたりする、というものだ。
だが、実は言われた自分は地位のある人物であり、害してきた相手を社会的に制裁できる立場にあった。それが分かると、相手は手のひらを返したように弱気になり、卑屈になり、許しを請うが、大抵の場合はそんなこと聞くわけもなく、相手は相応の罰を受けることになった。
めでたしめでたし、という内容だ。
なるほど、悪役である相手の言動には目をみはるものがある。
社長だからといって下請け会社の人を害したり、母子家庭だということで貧乏扱いをしたり、実際本当にこんな人間が存在するのか、と疑ってしまうほどである。もっとも、こういうサイトでのことなので、真偽のほどは定かではないといえばないのだが。
そんないかにも人格が破綻した悪人に対して、「私」は我慢できず、ついに自分の優位性を明かし、相手に罰を与える。
なるほど、確かにタイトルにもたまにあるように、「スカッと」すること請け合いだ。
ある一つの動画の最期に、教訓とばかりに作者の声が入る。
「自分のことしか考えられず、相手を陥れようとする者には、相応の社会的罰がくだされるものですよね」
うむ、その通り、正しく生きている人間が損をして、相手を陥れようとする人間が何のおとがめも受けずにのうのうと生きているなんてことはおかしい。かならず制裁が降るはずだ!
私も心の中で静かに快哉を叫ぶ。
が、同時に一抹の違和感が残る。
一体この違和感は何なのだろう?
動画は、あくまで正しいことを言っている。
人を害する人間は、必ず罰を与えられるものだ。それが正しい。
それなのに、なぜだろう、首をかしげてしまうのである。
それはあなたが言うことだろうか? 確かに悪には罰を以て然るべきである。しかし、それは一個人が決めるようなことだろうか?
いや、その通りだといえばそうかもしれない。
何だ? 私は悪人に情けでもかけているのだろうか? 違う、そういうわけではない。
こういった動画を始め、ブログやSNSなどで、正義は声高々に叫ぶ。
悪は罰せよ。情けや手加減を加える必要はない。悪には徹底的な制裁を下すのだ。なぜなら、私たちは正義だから。正しい意見を言っているのだから。悪いのはあちらなのだから。
そう、この暴力的なまでの正義が、私には違和感となっているのである。
こんな悪い奴がいる。ならば、徹底的に攻撃すべきだ。現代司法では生ぬるい。下手をすれば情状酌量なんてこともある。そんなことは許すな。正しく、大人しく生きている自分たちが報われないなんておかしいじゃないか!
見えない大勢が、そのように叫んでいるのを感じてしまうのだ。
それは、時として「炎上」という形で現れ、最悪、人一人の命を奪う場合もある。
私たちは、毎日どうしようもない場面に出くわす。
それは大抵不条理な場面だ。
職場の上司、部下、客やもしかしたら親族にも、自分たちを害する人物がいる。
あんなことやこんなことを言われた。
おかしいじゃないか! 私は悪くないのに、上司だとか親だとか、そういった力関係だけで自分は反論ができない。
私たちは、そんなどうしようもない現実へのはけ口を、ああいった動画に求めているのかもしれない。
ある意味、それが動画を見て鬱憤を晴らせているうちはよい。
「正義とは何か、悪とは何か」
古今を問わず、ドラマやアニメ、哲学といった学問で、ずうっと考えられ、議論されてきたことである。
考えてみれば、昔から、正義の名の下に剣が振るわれてきた例はごまんとある。
戦争だって、一方からすれば正義のための行為だ。
正義は時に暴力の名でもある。
正義の名の下に振るわれる暴力に、果たして正当性があるのだろうか?
世の中は混迷をいよいよ極めてきた。
皆、自分の身を守ることで必死である。正義を名乗ることもそのうちの一つの方法であろう。
この悪を逃したら、自分の正当性が崩れてしまう、自分が危機に陥ってしまう。
悪は逃すな、徹底的に罰せよ。
私ははじめ感じた違和感を悲しく思ってしまう。
決して悪を擁護するわけではない。
皆余裕がないのだ。誰かを許す余裕が。
そうしないと、自分に火の粉が降ってくるのだから。
今、世界には怒りと恐怖と不安と、諸々の負の感情が席巻している。
その中で、それでも、正義とか悪とはではない、人間を慈しみ、許す心を、忘れないでいたいものである。
***
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