メディアグランプリ

一番切り取られたくなかった話をテレビ放映されて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉村 香織(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「なかなか他の人がしたことのないような体験自体、コンテンツになりえます」
 
ライティング・ゼミの第五講を配信視聴しながら30数年の人生を振り返る。わたしにもいくつか「そういえばあれって」と、話題になりそうなエピソードがあったことを思い出す。
 
そのうちの一つが、某番組で取材を受けた様子がテレビ放映されたことだった。
2018年。4年前のことだ。
 
取材を受けた。テレビに出た。
 
ここだけ聞くと、自慢のようにも聞こえてしまうのかもしれない。確かに、取材を受けたこと自体とても奇特で、ありがたい経験だった。さらにその様子がテレビで放映されるなんて、きっとこれからの人生でもなかなか無いことだろうとは思う。
 
ただ、放映された番組を見ながら、血の気が引いていく自分がいたというのが当時の本音だった。
 
テレビ画面に映るわたしはせきららにこう話していた。
 
「実は子どもを一度叩いてしまったことがあって……」
 
まさか。
まさかこの一部分が使われることになろうとは。
そんな想像全くといっていいほどしていなかった。
私はひどく動揺した。
 
「あんなにたくさんお話したのに、一部分だけが切り取られて放映されてしまった」
 
「この放送を見たひとには、わたしはどんな風に映ってしまうんだろう」
 
非難されるのではないか。
白い目で見られてしまうのではないか。
子どもを叩いたことがあるだなんて、ひどい母親だと思われてしまうのではないか。
ついでにわたしの人間性も否定されてしまうのではないだろうか。
 
そんな不安が一気に押し寄せてきたのを覚えている。
 
自意識過剰と言われればその通りだろう。
 
が、しかし、まさかこの発言が切り取って使われるとは。
 
前職を退職した時のこと。育児に専念するなかでアイデンティティを失った自分が陥った状態のこと。そして、再就職に向けて動き出してからの自分と家族の変化など、1時間ほどかけてインタビューしていただいた。あんなに掘り下げてもらったインタビューのやりとりはどこに行ったのか。
 
芸能人が、自分の意図とは違うかたちで編集されたワイドショーや雑誌に対して「全体を聞いてもらえれば受け手の感じ方も変わるはず。あれは一部分だけを切り取られた」と主張するのを目にしたことがある。まさかわたしも、そんな主張を世の中に対してしたくなるような場面に出くわすとは思いもしなかった。
 
当時わたしは、ママ達の再就職を支援するスピーチコンテストにファイナリストとして参加していた。そのコンテスト準備期間中から当日を迎えるまでの様子を取材していただいた。
 
人生初めて取材を受けることに、やはり少なからず緊張していた。インタビューの様子を終始カメラに映されている。受け答えを周りで聴いているスタッフも何人かいらっしゃる。
 
「変なことは言えない。正しい発言をしないと」
 
たまに顔を出す無意識の優等生ぶりが発揮されていたんだろう。多少ひきつりながらも終始笑顔でインタビューは進んでいった。
 
ただ、「本音を喋っていないかも。表面的なことしか答えられていないかも」そんな気持ちがどこかにあったのも事実だ。
 
放映された番組を見て思った。
本音を喋った一部分がしっかり切り取られている。
取り繕っていないわたしが映っていた。
 
ひどく狼狽した反面、さすがプロだなと唸りもした。
表面的な受け答えをしたであろう部分は、プロのインタビュアー(ディレクター)にはバレバレだったのかもしれない。複雑な心境だった。
 
番組終了後呆然とし、しばらく立ち上がれなかった。
ただ、予想とは違い、応援メッセージがいくつか届いた。心底救われた。
 
「育児にもワンオペ生活にも追い詰められて、子どもにあたってしまう自分に罪悪感を感じる母親は実は少なくないはず。あなたの発信で勇気をもらえたお母さんもいたんじゃないかしら」
 
狼狽していたわたしのベクトルは、自分だけに向けられていた。
 
でも、言いづらいことを(思いがけずだけれど)共有したことで、同様に罪悪感を感じている世のお母さん方と一瞬でも繋がれたのかもしれない。
 
子どもや家族のことを優先することは素晴らしいこと。だけれど、それと同じくらい自分のことも大切にしてあげていい。それが、まわりまわって家族を大事にすることに繋がる。
そんなメッセージを受け取ってくれたお母さん方も実はいらっしゃったかもしれない。
 
ベクトルを外に向けて視点を広げると、自分にもひとにも優しい世界が広がっている。
そんなことに初めて気づかされた。
 
あれから数年が経ち、長男の成長とともにわたしも心について学び、コーチングをライフワークとするようになった。
 
もし今「子どもを叩いてしまったことがある」と打ち明けてくれるお母さんがいたら、まず何よりも「言いづらいことを打ち明けてくれてありがとう。打ち明けること、とてもとても勇気が必要でしたよね」と伝えたい。
 
それに「人に話せたという事実が、きっとあなたの力になります」とも。
 
本当は誰かに聞いてもらいたいのに言葉にすることができないでいることって、誰しもひとつやふたつあるのだろうと思う。
 
内のなかに留め続けると、言葉にならない思いはどんどん腐っていく。
 
わたしの場合は痛みを伴ったけれど、ある意味そんな体験は稀だろうと思う。
自分の中で腐っていく前に、言葉にして人に伝える(聴いてもらう)。
それが必ず状況を変える力になるはずだ。
 
 
 
……と格好よくここまで語ってきたけれど、もし万が一、今後の人生で二度目の取材を受けることになったら。その時は、しっかり編集方針を確認してから取材をお受けするかどうか決めたい、というのが本音だけれど。
 
 
 
 
***

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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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