体験型「道の駅」で揚げパンが導いてくれた時間旅行
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記事:萩原りえこ(ライティングゼミ・4月コース)
1194駅。
全国総数の駅の数である。駅と言っても公共交通機関のそれではなく、この数は毎年増え続けている。30年前のその数は115。10倍以上の数に増加した。
テレビの旅番組では特集が組まれ、お昼の番組でもグルメコーナーで度々取り上げられているのを目にする。1194駅とは、日本国中に点在する「道の駅」の総数である。
群馬の北部、山の中にあるわずか人口3000人余りの村、川場村。スキー場のある山々に囲まれた冬は一面銀世界になる村だ。ここにあるのが、「川場田園プラザ」という道の駅。
人口は3000人だが、こちらの道の駅の来場者数は、年間200万人を超えると言う。
年間200万人というと、首都圏のテーマパークで言えば、東京都と神奈川県に跨る“よみうりランド”以上の来場者数なのである。
休日にもなると、広大な駐車場は常に満車状態。そこに並ぶのは、駅長によると、山の中にもかかわらず都内のナンバーをはじめとする各地域からの来場者で高級車も多いのだという。それぞれの道の駅では、代表責任者のことを『駅長』と呼んでいる。
そしてかつては、旅の休憩所の役割であった道の駅であるが、トイレ休憩だけで立ち寄る場所だというのは、30年も昔の認識になりつつある。現在の道の駅は、旅の人気目的地になっていた。
千葉の房総半島の先端、館山にあるのが、「保田(ほた)小学校」と言う名の道の駅。
ここはその名前の通り、この地域の小学校をリノベーションして開業した道の駅である。
2014年に廃校となりその役目を終えた校舎は、翌年、教室の雰囲気をそのまま残し、宿泊のできるホテルとなり再利用されている。
『4年1組』と名前のついた部屋に泊まってみた。
ガラガラっと懐かしい見覚えのあるような引き戸を開けるとその右手壁にはどーんと黒板が備わっている。備わっているというか、以前からそこにあったのだろう。その黒板の右端には、丁寧な文字で『〇月〇日〇曜日』その下には日直とまで書かれていた。ベッドは、木製の畳ベッドであったが、一般的に客室に備わっているソファーやテーブルといったものは、かつてここの生徒たちの多くが使用してきた机と椅子をそのまま再利用していた。徹底的に小学校の面影を残した造りになっているのだ。それが見事に郷愁を誘う。懐かしくもあり、他に類を見ない施設だけに面白くもあり、どんな高級ホテルに泊まった時よりもインパクトのある思い出として私の記憶に残っている。
校舎だった建物の宿泊施設の1階には、宿泊者以外でも利用できる食堂やレストランも入っていた。そのうちの1軒、里山食堂では、懐かしい給食メニューが食べられる体験ができることもこちらが人気の理由かもしれない。私自身も、こちらのメニューで『揚げパン』を見たときは、迷わずこれを注文した。『揚げパン』とは、コッペパンをまるごと1個油で揚げ、全体にきな粉や砂糖をまんべんなくまぶしてある当時大好きだった給食のメニューなのである。
『パクっ』とそれを子供のように頬張った瞬間、きな粉と砂糖の香ばしくもあり甘い味が何十年も前の忘れていた時を思い出させてくれた。とっくに忘れてしまっていたのだが、愛おしい大切な記憶だ。元小学校という空間にいたせいもあるかもしれない。揚げパンがその場所で私に思いがけない楽しいタイムスリップをもたらしてくれた。
さて、道の駅と言うと、単に特産品や農家の野菜の販売所というイメージが強いかもしれないが、コンビニエンスストアのように全国どこでも同じという画一的なものはなく、中にはこの「保田小学校」のように特色のある魅力を上手に前面に押し出しPRするスポットも増えて来ている。
群馬の道の駅「川場田園プラザ」に話題は戻る。
旅の目的地というと、そのリピート率も大切な要素になる。この「川場田園プラザ」のリピート率は、なんと7割だという。山奥にあるにも関わらず、年に4、5回も訪れているリピーターがいると言うから驚く。一度行ったら、またすぐに行きたくなってしまう場所になっているのだ。多くの人の心を掴んでいるスポットなのである。
「道の駅」には、そこへ行かなければ、買えないもの、食べられないもの、体験できないものがたくさんある。
もしまだ行ったことがなかったとしたら、体験したことがなかったならば、是非一度足を運んで確かめてみて欲しい。
地方の特産品には、地球環境や人、社会に対して配慮したもの、エシカルな商品がたくさんあると思う。自分だけが楽しむ、ただそれだけを目的とする旅ではなく、地方へ行きそこで消費をする体験を選択すること。そのことで旅行を通してずっと持続できる社会を作るという循環ができる。こんなサスティナブルな旅がセレクトされるようになる時代になることを期待したい。
旅の1つの選択肢になる「道の駅」は、より注目されるスポットに、そして更に進化して行くことを私はこれからも願ってずっと応援し続けるであろう。
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