なぜ中国語を学んだのか、ではなく、なぜ仕事を続けられるのか
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記事:John Ishii(ライティング・ゼミ6月コース)
「どうして中国語を学ぼうとしたのですか?」
私がよく聞かれる質問だ。
私は50歳代の普通のサラリーマンで、今はたまたま上海に駐在している。今年の3月から2ヶ月続いたロックダウンも上海の賃貸アパートで業務しながら過ごした。上海だけだと2回の駐在で計10年が過ぎた。
これといって得意な業務があるわけではない。ただ、大学時代に中国語を専攻したためある程度中国語を話したり書いたりできるから、重宝がってもらっているのが実情だ。
日本人からよく聞かれるのが、冒頭の質問である。中国語を学ぶきっかけを聞きたいらしい。
その気持ちは私にもよくわかる。私が何か高い理想や志を持っていて、中国語の習得を通じてそれらを実現したのではないかという期待感がそこにはある。
しかし現実はそんなにドラマチックではない。私が大学で中国語を学んだきっかけは単なる偶然だ。
私が高校時代に父が病気したこともあり、実家にお金があまりなかった。系列の大学なら無試験で入学できるため、受験の費用が浮く。私立大学だけれどバイトなどでなんとかやりくりできそうだ。その大学には外国語学部しかなく、学科は英語、ドイツ語、中国語の三つだけ。それで中国語を選んだ。
中国語を選んだ背景には、時代の雰囲気があった。私が高校三年生のころ、中国は文化大革命がようやく終了し、鄧小平が国のリーダーとなり、中国経済発展のため日本の資本や技術をとても必要としていた。
先の戦争で日本は中国に大きな災禍をもたらした反省から、当時の日本の経済リーダー達は利益を度外視しても中国の経済発展に貢献すべきだという風潮が強かった。今では考えられないだろうが、そういう時代の雰囲気があり、無知な私はなんとなく中国語を選んだ。
大学で中国語を勉強してみると、なんとなく肌に合った。適当に勉強していたらそこそこの成績で卒業できた。就職期は日本のバブル経済だった。希望する総合商社には入れなかったが、貿易に従事する会社に就職できた。
その後転職するなど紆余曲折はあり、現在勤務している会社で5社目だ。ありがたいことに5社全てでその企業の中国事業発展のための仕事に就いている。その間、中国の急速な経済発展がたまたま継続し私にもやれる仕事が幸いあった。
他の人はコトをはじめる「きっかけ」に関心がとても高いのだが、きっかけはあくまで始まりの石ころであり、その石が最初にどう転がったかはあまり関係ないのだ。
私が中国語を学んだ大学には、私より優秀な先輩や同級生がたくさんいた。私はそういう優秀な人にはかなわないなとずっと思っていた。ただ、卒業して30年ほど経ってみると、この年齢で中国事業に従事している先輩や同級生はほぼいなくなった。私以外にもう一人くらいしか駐在していない。
また、上海で駐在していると多くの友人が上海駐在を終えて日本の本社や世界の各地に旅立っていく。上海での3-4年の駐在で中国ビジネスの面白さを知り、離任するのはとても辛いという人が多い。駐在期間中、ダイナミックな中国市場だからやりがいもあったので上海を離れるのは後ろ髪を引かれる思いだろう。
しかし、そういう上海駐在経験者が数年あるいは10年くらい経ってもう一度中国に戻ってくる人はごく僅かだ。ここ10数年は日中関係があまり順調とは言えない時代が続いてきた。中国企業が独自でなんでもできるようになり、日本企業が持つノウハウや資本をあまり必要とはしなくなった。日本企業が高いコストの日本人を中国に駐在として送り込む機会も当然少なくなっている。中国事業をやりたくてもできない環境になりつつある。
機会が少なくなっても、時代が変化していく中で、中国という地域を中心として仕事の価値を出し続けていく必要がある。私も価値を出し続けているわけではない。日常に流されて仕事しているのを自覚するときもある。
時代の変化に合わせて価値を出すにはどうしたいいか。私が一つ実践しているのは、知らないことを学び続けることだ。例えば、私はここ数年D2C(Direct to Consumer)ビジネスを勉強していて、商品開発、ストーリー作り、ウェブデザイン、ウェブマーケティング、動画作成、イラストレーター、フォトショップ、雑誌づくり、ショップシステム運営などを少しずつ学んでいる。
最初はこういうことを学ぶことさえ考えていなかったが、やりたいことだから思い切ってやってみた。次第にウェブを中心としたさまざまな仕事が有機的につながっているのを理解でき、何を勉強してもつながっているから無駄なものはないと気づいた。勉強が少し面白くなると続けることがあまり苦にならなくなった。中国はウェブでの商売がアプリや供給企業のやり方がユニークで、Tiktokなどでライブコマースとして成功している日本企業も出始めている。
知らないことを学ぶには勇気、学習コスト、そして時間コストが必要だ。選んだ学び方が間違っているかもしれない。所定の時間内に期待値どおりのリターンを得られることのほうが少ない。忙しくて学べなくなることも多い。不確定だが、時間をかけてでも諦めずに継続して学ぶことを決意し、少しずつ学んでいけばいい。
学ぶにはまずはある程度体系的に、そして興味のある点を深掘りしていくと続けやすい。面白さが分かると、周辺のことと繋げて考えることができるようになる。つながりが増えるとまた学ぶべきことに気づく。そういう連鎖をちょっと続けてみると、1―2年たったら大きな差になる。他の人が驚くほど学びが進んでいることに気づく。
このような継続を通じた微差の積み重ねが、価値を作る元となる。
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