失恋とともに訪れた思いがけない再会
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記事:笹尾和代子(ライティング・ゼミ8月コース)
失恋は、ほろ苦いものだ。それまで大切に思っていた相手と離れなければならないのだから。よく「別れがあれば、出会いもある」と聞くように、一つのものを手放すと、その空いた心のスペースに新しいものが入ってくる。ただ、新しく出会う相手は必ずしも人間だけとは限らないということを、私は身をもって体験した。
昨年の9月中旬、私はある男性と出会った。
その頃の私は彼氏もおらず、出会いを求めて婚活を頑張っていたものの、なかなか良い出会いが得られず少し婚活疲れをおこしていた。「なかなかいい出会いにつながらないな。このままひとりでいるのも悪くないけど、あとで後悔したくないな……」などと考えながら、ふと、以前使っていた婚活アプリを再開してみることにした。「アプリだったら少し気楽に続けられるし、もしかしたら素敵な人が見つかるかもしれない」と、少しの期待をもちながら自己プロフィールを入れ、お気に入りの写真を登録する。登録を終えてすぐ、一人の男性とマッチングした。その男性は、5歳年上で年収は高く、何より煙草を吸わない! 煙草の煙とにおいが苦手な私にとって、煙草を吸わないということは、年齢よりも収入よりも譲れない条件だった。マッチングした後、何回かメッセージのやり取りをし、そのやり取りもスムーズに楽しく進む。「話しやすそうな人だな、どんな人なんだろう? 会ってみたいな」と思っていると、話の流れで当日に会うことになった。マッチングした当日に会うなど、今思えば思い切ったことをしたなと思うのだが、相手のプロフィール内容から真面目に婚活に取り組んでいそうな印象を受けており、会うことを決めたのだった。
待ち合わせ場所に現れたその人は、プロフィール通り高身長で、何となく親しみやすい雰囲気だった。近くのお店に入り、初めてマスクを外した顔を見たとき、「いとこのお兄ちゃんにそっくり!」と驚き、ますます親しみやすさを感じた。営業の仕事をしているからなのか、楽しく会話を広げ進めてくれる。初対面の人には少し人見知りをしてしまう私も、緊張せずに楽しく話せていることが嬉しく、「素敵な人に出会えてよかったな。思い切って会ってみてよかった!」とその時間を楽しんでいた。あっという間に2時間が過ぎた頃、「こんなに素敵な人と出会えるとは思っていなかった。知り合ったばかりだけど、よかったら、お付き合いしてください。お試しとかではなく本気のお付き合いで」と真面目な顔をして言ってくるではないか! 「本気なのかな? 今日会ったばかりだけど、この表情に嘘はなさそう……。こんなに話しやすい人も初めてだし、何より本気のお付き合いと言ってくれたことが嬉しい」と不安よりも喜びが上回り、申し出を受け入れることにした。
約一年ぶりの彼氏の存在に最初はウキウキしていた。多忙な中、LINEや電話をしてくれる彼だったが、少しずつ会える日の間隔が伸びていく。一週間ごとが二週間ごとになり、LINEの頻度も少し減ってきて、私の心は次第にウキウキからモヤモヤに変わっていった。それでも、「彼を信じよう、お仕事を頑張る彼を応援しよう」と思っていた。しかし、そう思えば思うほどなぜか状況は悪い方向に進んでいく。付き合い始めて2か月後、彼が東京の本社に呼び戻されることになり、しばらく福岡を離れることになった。彼は、「ちゃんと考えてるから。でも、しばらく忙しくなると思うから連絡は控えてほしい。4つの本を読み終えるまで連絡したらダメだよ」と、私に謎のミッションを課して福岡を離れていった。
子供のころ、私は読書が好きだった。小学校の図書室に行って、母親手作りのうさぎのアップリケが縫い付けられたブックカバーに借りた本を入れ、新しい物語の世界に入るのが何よりも楽しかった。ただ、中学生になり、高校生になるにつれて、勉強や友達付き合いに時間を使うことが多くなり、物語の世界を楽しむ時間は減っていった。社会人になると、ますます読書の時間はなくなり、どうせ読むのなら実用的な本がいいと年に2、3冊の実用書を読む程度になっていた。
そんな時に、彼から与えられたミッションは4つの小説を読むことだった。そのうちの1つは上下巻に分かれているから、実質は5冊の本である。私は、早速本屋さんで課題の5冊の本を購入した。ちょうど年末年始の休暇が重なり、恋愛以上に久しぶりの小説を読み始めた。今まで読んだことのない作家さんの小説だったが、とても読みやすい! どんどんとその世界に引き込まれ、一日で1冊を読み終えてしまった。次の話も早く読みたい! 物語を読むってやっぱり楽しい! 久しぶりの感覚に、それからの私は、ものすごい勢いで本を読み続けた。実用書にはない、読み進めながら広がる物語の世界にワクワクしながら、今では、気づけば月に2、3冊の小説を読む日々になっている。
その彼とは、課題の5冊を読み終えた後に連絡をとったが、お別れを告げられる結果になってしまった。しかし、もうその時の私には読書があった。お別れはとても悲しかったが、その悲しみのエネルギーを読書に費やした。本を読めばいろんな世界を楽しむことができる。お気に入りのブラックコーヒーをお供に、仕事の休憩時間や休日の空いた時間に物語の世界に入ることが何よりの楽しみになった。
失恋と引き換えに読書の楽しさと再会し、また新しい世界を広げることができた。失恋はほろ苦いが、その先に新しい出会いが待っていると考えると、その苦さをお供に人生を進んでいくのも悪くはないかなと思えるようになった。
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