今すべきは留学よりも本気の恋愛ではないか
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記事:吉田裕子(ライティング・ゼミ)
「意味不明!」
中高生の口癖のひとつだ。私は女子校に勤務しているのだが、女子高生はよくこの言葉を言う。
これを耳にする人、特に、男性の皆さんにお伝えしておきたいのが、「決して『意味が分からないなら、きちんと説明してあげなくては』と思ってはいけない」ということである。それは、大いなる勘違い。むしろ、逆効果である。
彼女たちが「意味不明」、意味が分からないと言うとき、それは頭ごなしの否定である。全面的拒否である。それはもはや生理的嫌悪に近く、論理的に説明したところで無駄である。
十何年前、女子高生だった私も「意味不明」が口癖だった。
先生のお説教、親の小言、気の合わない友人etc……。自分の価値観や感覚に合わないものは、意味不明と拒否してきた。
直感的に分からないものは、分かりたくなかった。意味不明の一言のもとに、距離を置いた。
そんな中、最初から、意味不明と思いつつも、距離を置かないでいる人がいる。今の夫である。
彼は、私とは対照的な人間である。することなすこと、意味不明だ。理屈で説明できない「好き」という感情のおかげで、拒否できずにいるだけで、今もよく、意味不明だと思う。
その意味不明が時々、私に新鮮な感覚をもたらすこともあるのだが……。
例えば、付き合って1年前の事である。
私は子どもの頃から、時間に関して、貧乏性だった。いつも焦っていて、何かしていないと落ち着かない。ごはんを食べながら何か読まずにはいられないし、旅行となれば、最大限スケジュールを詰めるタイプだった。
休みを寝て過ごすのなんてもったいない。むしろ「許せない」と言いたいくらい。先まで予定を見渡して、友達に連絡したり、講演会や劇・映画・展覧会のスケジュールを書き込んだりしていた。
そんなある日、ぽっかり空いた日ができた。
彼は仕事で空いていないという。
私はむくれた。
何も予定ない!
誰とも遊べない!
あなたも構ってくれない!
つまんない! 最悪!!
そしたら、彼が言ったのである。
「休みに一人でのんびりと過ごせるなんて、一番豊かなことじゃないか」
これは、私には新鮮な考え方だった。
休みに予定がないのは退屈なことのはずだった。誰にも遊んでもらえない寂しいヤツの、悲しい休日なのだと決めつけていた。
彼は、それを「一番豊かなこと」と言ったのである。好きな人がそう言ったことで、私の思い込みの岩盤に少しヒビが入った。長年の習性はそう簡単には覆らなくて、私は、今も予定を詰め込みがちだが、予定のない休日を「寂しくてつまらない」とネガティブに思うことはなくなった。そんな休日を心豊かに過ごすことができるようになりつつ、ある。
そんな風に、彼のふとした発言が、私の考え方に革命を起こしたことが、他にもある。
ある年、彼の年収よりも、私の年収が高かった。
男性はそういう格差を気にする人も多いと言うし、年齢も彼の方が2つ上だったので、あまり快く思っていないかもしれない。
そのことが頭の片隅に引っかかっていたとき、テレビを見ていたらちょうど、その話題が取り上げられていた。「やっぱ、悔しいですよね~」「引け目を感じちゃうと思います」というようなコメントが放送されている。
……恐る恐る、訊いてみた。
あなたは私の方が稼いでいることにどう思うの、と。
質問しながら、色んなことを考えた。「そんなの、全然気にしていないよ!」と、ぎこちない笑顔で言われたらどうしよう、とか。
そしたら……
「裕子さんはそれだけ働いているのだから、たくさんもらうのは当たり前じゃないか」
彼はけろっと言った。
実に、けろっと、からっと、言った。
私は拍子抜けした。そこには、私の予期していたような、じめじめした感情が何もなかった。
そもそも、自分と比較してどうこうという観点が、彼にはなかったのである。私がこれくらい働いている、だから、これくらい稼いでいる、ということを客観的に捉えているだけなのだ。そこに「うらやましい」「くやしい」「不甲斐ない」などの主観の要素が特になかったのだ。
これは、私のものの見方と対照的だった。
私は、他人の成績や仕事振りを見る際、ついつい自分と比べてしまうクセがある。その特性は、負けず嫌いな性格として、成長や踏ん張りに役立ってくれたことも多いけれど、あまり良くない影響もあった。
例えば、すごい人に出会ったとき。その人を素直に尊敬できずに、あら探しをして毒づいてしまいがちなのである。マンガ家になりたかった中高生時代には、おもしろいマンガを素直に読めないという現象さえあった。「おもしろい!」と感じるのと同じぐらい(かそれ以上に)、「悔しい!!」と感じてしまうため、純粋に楽しめなかったのである。
それほどまでに、自分と比較し、関わらせながら周囲を見てきた私にとって、自分を完全に脇に置いて、対象として客観的・中立的に捉えられる彼の態度は新鮮だった。自分の感情を微塵も揺らすこともなく、淡々とコメントをいう様子に衝撃を受けたのだ。
嫉妬や対抗心をまじえず、すごい人を素直にすごいと思い、そう表明できる有り様を目指したいと思った。
彼との日々は、いつもこんな感じだ。
お互いに、相手を好きで、相手のことを尊敬している。そこは共通しているものの、価値観や性格は対照的で、趣味嗜好はほとんど重ならない。だから、付き合い始めた5年前からずっと、日々、異文化コミュニケーションをしている感覚である。
違いに気づく。
「意味不明」と驚いたり、不思議に思ったりする。
でも、ちゃんと分かりたいから、訊いてみる。
納得したり、「これも相手らしさか」と受け入れたりする。
きっと、旅行や留学で異文化に触れる人たちと同じような心理プロセスではないだろうか。
この春、結婚して、同居生活をし始めることで、異文化コミュニケーションの密度は増した。これからも、この、面白い発見の旅は続くのだと思う。彼という、まだまだ分からないところの多い文化も、それによって自分がどのように影響を受けていくのかということも、興味深い。
さて、私は、一人旅の最中にこの原稿を書いている。連休を利用した、2泊3日の小旅行。2晩、家をあけた。
そしたら、「ひま! つまらないよ!」と電話がかかってきた。
向こうは向こうで、こちらの影響を受けている部分もあるのかもしれない。
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