寝坊の朝を、希望の朝に変えるコツ
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記事:大森ちはる(ライティング・ゼミ)
新しい朝がきた。寝坊の朝だ。
お腹の上で、ブィーンブィーンと延々震えるスマートフォンのアラーム。
夜寝る前に、スマホは充電コードにつないで足元側の床に置いた。
3時50分に一発目のアラームが作動したときに、隣で眠る娘が起きてしまわないよう、取り急ぎ充電コードを引っこ抜いて、自分のお腹と掛布団でサンドイッチしたのだろう。
わたしのスマホはAndroidで、本体右側面に電源ボタンが付いている。
電源ボタンをぽちっと押すと、アラームは一旦止まり、スヌーズ機能で5分後に再び作動する。
画面上に表示される「スライドして停止」部分を指でスライドして初めて、アラームが完全に止まる仕組みだ。
わたしは、お腹の上で震えるスマホを、目をつむったまま右手で握った。
そして、「スライドして停止」にあたるはずの場所を、親指の位置感覚でしゅっと左から右にやった。
ビンゴ。
アラームが止んだ静寂の中、そのままスマホを布団から引き出す。
目を開けて、画面に表示される時刻を捉えた。
6時25分。
やらかした。
たった今震えていたのは、3時50分でも4時半でも5時でもなく、「これで起きなかったら寝坊確定!」の5時55分のアラームの、しかもスヌーズだったのだ。
わたしは、毎日21時半に寝て4時に起きる生活をおくっている。
よほどのことがない限り、幼い娘を寝かしつけるついでに寝落ちしてしまうからだ。
明け方4時から6時までは、自由時間。
6時を過ぎたら、いわゆるワーキングマザーと化す。
6時25分はいつもなら、お弁当用のごはんを炊くべく鍋を火にかけ、夜のうちに食洗機が洗って乾かしてくれた食器類を片づけ、今日の分の麦茶をつくり、夕飯用のお米を研いでざるに上げ、ごはんが炊けたらコンロの火を止めて台所を離れ、これまた夜のうちに洗濯機が洗って乾かしてくれた衣類を取り出し、洗面所に置くタオルはその場で畳み、お風呂を洗い、LDKを軽く床掃除し終えた頃である。
一刻の猶予もない。
エンジンを温める間もなく、すぐさまフルスロットルでこの遅れを取り戻さなければならない。
直ちに起き上がるのだ。
そして、やることを洗い出して、段取りを組み直すのだ。
順番ミスがもたらす時間のロスは命取り。
そんなふうに考え、鬼の形相でキャッチアップにしゃかりきになっていた。
2年ほど前までは。
ある日、知人のお父様のお通夜に参列した折に伺った説法をきっかけに、気の持ち方を改めた。
お寺さんは、こうおっしゃった。
「仏教の経典の1つである般若心経の末尾には、『陀羅尼(だらに)』といって、原文のサンスクリット語の音のまま、漢字に翻訳されていない部分があります。
般若心経の陀羅尼は、『悟りを成就できますように』ではなく『悟りを成就した』と言っています。
文法的に、未来形でも現在進行形でもなく、現在完了形で祈っているのです」
「現在完了形で祈る」という、古代インドで編み出されたテクニックにはっと息を呑んだ。
当時、わたしは育児休業から職場復帰したばかりで、家事・育児・仕事の慣れない三つ巴に「アレしなきゃ」「コレしなきゃ」と常に気がせっていた。
「アレしなきゃ」「コレしなきゃ」は、「このままでは間に合わない」の裏返し。
無意識に、「間に合わなかったら……」と焦ることで「間に合わない」未来を願っていたのではあるまいか。
あれから2年。
今、わたしが寝坊の朝にまずすること。
それは、「どうしよう、どうしよう」と慌ててキャッチアップ策を練ることではない。
「まぁ、どうにかなるよね」と布団にくるまってぬくぬく現実逃避することでもない。
「いつも通り、8時に娘と家を出た」未来を設定することである。
少々オーバーな言い方だが、そうやって未来に手綱をかけるのだ。
ますますオーバーな言い方だが、この手綱を「希望」と呼ぶのだと思う。
手綱をとる――希望の朝をつくる――コツも、現在完了形にあった。
今やっている作業に集中すること。
一手だけ、「次」を決めること。
そうして、「やる」と「できた」を積み重ねていく。
設定した未来に向かって着実に前に進んでいる実感を持つ。
「次はアレやって、そのあいだにソレとコレをして……」とがちがちに段取りを組むのは、やめた。
ソレとコレを覚えておこうと執着するあまり、否が応でもその「次」にも考えが及んで、気がついたときには「で、次は何をするんだったっけ?」となるから。
逆に、毎朝のルーティンで頭の中に全体図を描けているとはいえ、「次」を決めないのもダメだった。
何かを思って勢いで冷蔵庫の扉を開けるものの、開けてから、「はて、何を出すのだっけ?」と我に返るのだ。
考えながら、動かない。
考えずにも、動かない。
一手だけ「先」を決めて、動く。
今朝はまず、寝室のドアを開けながら、お弁当をつくらないことを決めた。
夜寝る前に研いで鍋にセットしていたお米は、夕飯に回そう。
台所に行き、ごはん鍋のお米をボウルに移し、冷蔵庫に入れる。
冷蔵庫の扉を開けながら、次は麦茶を作ろうと決める。
ボウルを入れて空いた手でドアポケットからポット型浄水器を取り、水切り籠に干していたボトルに水を注ぐ。
浄水器はそのまま水を入れ替えて再びドアポケットへ。
冷蔵庫の扉を閉めると、振り返って、コンロ下の引き出しから麦茶パックを1つ取り出し、ボトルに入れる。
麦茶パックのケースの横には、紅茶の茶筒がある。
次は朝ごはんの紅茶を淹れようと決める。
そうやって、「やる」と「できた」を積み重ねた結果、なんとか「いつも通り、8時に家を出た」を成就できた。
お弁当箱が入っていない分だけ、かばんが軽い。
しかし、「『すべてのコトがうまく運ぶ』という可能性に賭けてお弁当をつくる」ではなく「お弁当づくりをあきらめて確実に8時に家を出る」を選択したのは自分なので、折り合いがつく。
お昼ごはんは、駅ナカのスーパーでカツサンドを買おう。
新しい朝がきた。午前8時時点、希望の朝だ。
***
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