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フラフラしないの! と妻は涙ながらに言った……


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西部直樹(ライティング・ゼミ)

「フラフラしないの!」と妻は言った。
彼女は目に涙を溜めていた。

わたしが、今日はちょっとハロウィンパーティがあるんだよね、天狼院で。
なので、いってくると言った時のことだった。

10月にわたしの誕生日があった。
今年で58回目だ。
アラウンド還暦。
映画を高齢者割引で、いつでも1,100円で観ることができるようになるまで、あと二年。
そんな歳になってしまった。

彼の国の孔子先生は、人生を振り返ってこう言っていた。
曰く、

十有五にして学に志す
三十にして立つ
四十にして惑わず
五十にして天命を知る
六十にして耳順う
七十にして心の欲する所に従いて矩を踰えず。

60歳は耳順である。
人の話を聴いて、その機微を知る歳なのである。
しかし、

我は、15歳の頃は、愚かなことを考え、
30歳を超えて独立を果たし
40で息子を授かり、子育てに迷い
50にして知命ならぬ致命的なことに気がつき
60を前にして、人の話を聴くより人前で話すことをはばからず
である。
このままいけば、心の欲する所に従いて、矩を踰えでばかりになりそうだ。
暴走老人まっしぐらである。
やれやれ。
大人になるのは、難しい。

このようなことをいつもの飲み仲間に語ってみた。
「それは、昔と今では違うのよ。戦前とかに比べたら、今は10歳くらい若いらしいよ。だから、60歳は、昔の50よ、まだまだなのよ」
と妖艶な人妻は、年齢不詳の微笑を浮かべて語るのだった。
神楽坂の小道に迷い込んだ末にある小綺麗な居酒屋で、飲んでいた。
神楽坂なのに居酒屋なのは、若い女性の財布を思いやってのことだ。
もちろん、わたしの今月の小遣いのこともある。居酒屋が安心できるのだ。

「そうだ、今の60は若い。
この間、石川達三の『四十八歳の抵抗』を読んだら、その48歳が今の48歳らしくないんだ。小説の中では、四十八歳は既に初老という感じなんだ。初老の男が、子どもも独り立ちして、定年まであと少しなので、思い切ってちょっと冒険するするんだ。
でも、今の48歳は、65歳定年なら、まだ20年近くあるし、60歳定年にしても10年以上もある。初老ではなく壮年だ、働き盛りだ。今書くなら、六十五歳の冒険くらいにしないとあわないな」
友人は、ハイボールで喉を潤しながら、長広舌を振るった。

「そんな、歳なんて気にしなくていいのに。それに58歳には、ゼンゼン見えませんよ」
と華奢で可憐な彼女は、カルアミルクを傾けながら、いうのだった。
気をよくしたわたしは、身を乗り出して聞いてみた。
「いやあ、そういわれると……、いくつくらいに見えるの?」
「パッと見た目、57歳?」
わたし以外のメンバーは爆笑した。
「1歳の違いはどこでわかるんだよ!」
わたしは少しふてくされたようにいう。
「でも、本当に、おじいちゃんとは見えないですよ。わたしの父より年上なのに、若いです」
と清楚な装いの女性がフォローをしてくる、まあ、あまりそうはなってはいないが。

「中学生の頃、「十九歳にとって人生とは」読んで、二十歳近くなると随分と大人になるものなのだ、憧れたけどなあ。
でも、自分が十九歳になってみると、なんのことはない、子どものまま、30歳以上も離れた作家の元にいってしまうほどの恋もすることなく、ただ、友達と浮かれ騒いでいたな」
華奢で可憐な彼女は、少ししみじみとした口調で話す。

「ずいぶん渋い本を読んでいたんだね。十代でサリンジャーと同棲しちゃった作家だったよね。
わたしは高野悦子さんの「二十歳の原点」かな。
高校生の頃に読んだ。京都の大学に行きたくなったな。
で、彼女の日記には、その年齢なりの、そして、学生運動が盛んだった時代を反映したものだったけど、やはり大人だと思った。
人生や社会を考えていた。
自分は二十歳の頃、考えていたのは、今日はどこのクラブに行くのか、服は何にするのか、そんなことばかり、バカだったわ」
妖艶な人妻は視線を落としながら、語り終え、剣菱のお代わりを頼む。

「佐藤愛子さんのエッセイを読んで、思ったの。彼女のようにいつも好奇心を忘れない人になりたいなって」清楚な装いの女性はレモンハイを飲みながら、言うのだった。
「好奇心がなくなったら、引退だよ」と妖艶な人妻は剣菱を飲み干す。
友人も華奢で可憐な彼女も清楚な装いの女性も、賛同のうなずきを返す。

好奇心を忘れない、
何事も学び、楽しむというのは、大事だな。

だから、というわけではないが、
50を超えた頃から、芝居とか映画に出るとか、
なにやらのパーティがあるといえば西に向かい、読書会だといっては東に行き、南にドラマのエキストラに出ませんかいわれたら、喜んで参加し、北に飲み会があるといわれたら、迷うことなく馳せ参じる。
そんな好奇心が赴くまま、フラフラと生きているのだ。

とかなんかといったら、妻は
息子が進級できるのかわからないのに、あなたは遊んでばかり、
娘は受かりそうにもない中学受験に邁進していて、私は毎日塾弁を届けているのに、
あなたは、ほんとうにもう、何をやっているの?
とせめる妻。
「いや、でも、ハロウィンは、楽しそうだよね」といい訳めいたことを言うわたし。

ばかばかしくなったのか、妻は笑い、目に涙を溜めながらいうのだった。

「もう、フラフラしないの!」

でも、フラフラしているから、なかなか楽しい人生なのですよ。

フラフラと生きていこう、
五十八歳の抵抗だ。

「そうだ、人生をフラフラと楽しもう」
5人はグラスをあわせ、笑うのだった。
フラフラ生きる大人に乾杯。

文中に出てきた本

「四十八歳の抵抗」 石川達三 新潮文庫
「19歳にとって人生とは」ジョイス・メイナード ハヤカワ文庫NF
「二十歳の原点」 高野悦子 新潮文庫

***
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2016-11-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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