全国大会で準優勝したテニス部は、週に3回しか学校のコートで練習ができない
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6限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。その音の向こうに、ざーっという雨音が響いていた。降水確率100%。今日のテニス部の練習は中止と連絡が回っていた。野外の部活の生徒が「ラッキー」と声を上げながら、ぞろぞろ帰宅していく。そんな中、雨で水に浸かったテニスコートの脇にテニス部員が集まってきた。「雨、止まねーかな」「(水を吸い取るための)スポンジ持って来たよ」わずかな雨が止む可能性にかけて、部員は座って待ち始めた。これが香川第一中学校のテニス部の当たり前の風景だった。
2000年、全国中学生テニス選手権大会。香川第一中学校は準優勝を飾った。翌2001年も第3位という成績を収めている。決してテニスのエリート校ではない。2人を除いて全員が中学校からテニスを始めた、普通の田舎の公立中学校である。男女のテニス部、男女のソフトテニス部で折半するテニスコートは、平日は週に1~2回・土日も1日1.5時間程度しか使えない。香川県が著しいテニスの強豪県というわけでもない。その中学校が、都会のプロを目指すような生徒を抱える中学校を破り、全国大会の決勝まで上り詰めた。
練習環境も良くない初心者集団が、なぜ? その秘訣は、中学生ならではの“純な甘酸っぱい片想い”に通じている。
中学校で異性に片想いをしたときのことを思い出してほしい。学校で会ったときに何と話しかけようか、どのように気を惹こうか、初めてのデートを誘う場所はどこにしようか……甘酸っぱいその想いに、時間を忘れて夢中で妄想を膨らませた人も多いのではないだろうか。片想いのときの妄想は、なぜだか楽しい。
香川第一中学校のテニス部は、環境やスキルに恵まれていたわけではない。しかし、本当に皆「テニスが好き」だった。好きなことは、時間を費やすことそのものが楽しい。楽しいから、時間を費やしたくて仕方がない。中学生の頃の片想いを思い出せば想像に難くない。暇さえあれば片想いの子のことを考え、妄想に夢中になっていた。これがテニスに対して起きていた。テニスが楽しくて仕方ない。暇さえあればテニスのことを考えるし、いつでもテニスがやりたい。言うなれば、“テニスに片想い”したメンバーが集まっていたのである。
そして、この感覚は正のスパイラルを生んだ。時間を費やせば、当然スキルは向上し、結果にも繋がる。結果に繋がるとさらに楽しくなる。このスパイラルは、血の滲むような「努力」とは、少し違う。努力というより「夢中」である。「努力は夢中に勝てない」元陸上選手・為末大氏の言葉だ。やることそのものを愛している。この夢中が、香川第一中学校のテニス部には溢れていた。
冒頭、なぜ部員は雨が止むのを待ったのか。ただ純粋にテニスがやりたかったのだ。万が一雨が止めば、平日はめったに使えないテニスコートが、他の部員が帰っているので使い放題だ。他にも、他の部活がテニスコートを使わない隙間時間に狙いを定める。早朝7時、任意の練習にも関わらず、8割以上の部員が毎日学校に集まって朝練をした。30分しかない昼休みもほとんどの部員が着替えてテニスコートに駆け出した。一瞬でも、隙間時間でも、片想いの子と接点を持ちたくて仕方がない。純な中学生だからこその、異物無いストレートな感情。
そして、恋愛もテニスも、最終的にはただ接点を持つだけで満足はできなくなる。恋愛なら、もっと仲良くなりたいし、「付き合う」というゴールを目指し、趣向を凝らす時期が訪れる。テニスとのデートの時間が物理的にとても短い部員は、短時間で上達するための工夫を惜しまなかった。大学時代にインカレに出場していた先生が顧問だったことも幸いし、無駄のない練習メニューを組み立ててもらい、何より短い時間を無駄にしないため自然と集中して練習に打ち込んだ。
純粋な気持ちからの「夢中」と中学生のスポンジのような吸収力が掛け合わされると、信じられない成長が生まれる。これが練習環境の決して良くない初心者集団が、全国大会準優勝まで駆け上がることができた、唯一にして最大の秘訣だった。
「好きこそ物の上手なれ」
年を重ねるに連れて、「やらねばならないこと」に追われて「やりたいこと」を見失いがちになる。いろいろな経験を重ねるに連れて、また様々なしがらみにとらわれるに連れて、純粋に「やりたい」という気持ちだけで突き進むことも難しくなる。そんなとき、この香川第一中学校のテニス部に所属した経験をよく思い出す。夢中がもたらす信じられない成長を思い出す。
「今のお前は、本当に夢中になれるコトに向かっているのか」
航海中の闇夜にきらりと光る北極星のように、この経験が、迷った自分が進むべき方向性をいつも明るく照らしてくれている。
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