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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まつもとみう(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
誰しも、「かわいそう」を生み出す加害者にはなりたくない。
電車に座っていて、歩くのが大変そうな老人がよたよたと乗り込んできたときに、とっさに席を譲る。かわいそうを、打ち消すために。
目の前の瞬間的なかわいそうは、自分の行動ひとつで無くすことが出来る。
でも、世の中には自分だけではどうにもならないことがたくさんあって、私はずっと、そのことが気になっている。
 
朝起きて、顔を洗って歯を磨く。
朝食は、紅茶を入れ、食パンをトーストして、マーガリンを塗って食べた。
日焼け止めを塗ったら、ファンデーションと口紅だけ軽く引いて、家を出る。
いつもの朝のルーティーンの中で、私はすでに、かわいそうに加担している。
 
先日、旭山動物園の園長の、坂東元さんの講演を聴く機会があった。
坂東さんは旭山動物園の活動だけではなく、ボルネオで絶滅に瀕しているゾウを保護する活動も行なっている。
ボルネオでは、パーム油の原料になるアブラヤシの農園がある。
パーム油とは、ポテトチップスやチョコレート、マーガリンなどの食品や、石鹸・洗剤、化粧品にも含まれる油だ。
年中実をつけて生産効率が高く、安価で汎用性も高いため、エコだと言われていた。
しかし、アブラヤシを生産するために、もともとあった熱帯雨林が切り開かれ、住んでいた動物たちは住処を失った。
農園を荒らされることを防ぐため、住処を追いやられて農園に迷い込んだ動物たちは殺されてしまうことがある。
 
知らなかった。
知らなかったけど、ずっと知らなくて良いわけじゃなかった。
日本で売られているものを買って、普通に生活しているだけで、実は世界のどこかの誰かを、何かを、傷つけてしまっていることがある。
「悪意」は「構造」で見えなくなる。
 
他にも、構造的に知らないまま加害者になっていることは、私たちの身の回りにたくさんある。
 
ふだん私たちが来ているファストファッションのブランドの服に使われている布は、悪質な労働状況で作られているかもしれない。
おやつにコンビニで買ったチョコレート菓子は、児童労働によって収穫されたカカオが使われているかもしれない。
 
消費者には見えないからといって、かわいそうが黙認されてしまう現状は、私ひとりの行動では、私ひとりが席を譲っただけでは何も変わらない。
 
でも、一方で、知ったからといって席を譲れない人もいる。
なんとか座っているけど、席を立つ元気は残っていない人たち。
子供を幸せに育てたいけど、物価も上がっていく中で子供全員の学費を払うことが難しい家がある。
高い服は買えないし、たまに買ってあげたいおやつにも、高いお金は払えない。
学校で必要なものは、なんとか100円均一で揃えるしかない。
 
こんなとき、「知らぬ間に加害者になってるんだから、生産の背景を考えて買ったほうがいい」なんて、言えないだろう。
 
そもそも、「かわいそう」なんて、思わないという人もいる。
持っていた手札で、今の社会のルールに従って、上手く生きられるように努力すればいい。
資本主義ゲームを勝ち抜けばいい。できなかった人は、努力が足りないのだ。
自己責任。苦しくなって当たり前だ。
 
本当に?
 
「自己責任」という言葉の刃は、他の人だけではなく、自分にも向いている。
生きてきて、最初から最後までずっと努力が報われていて、上手くいく人なんていないだろう。
大変だったとき、「自己責任」と切り捨てずに支えてくれた人がいたから、立ち直れた。
 
それに、人にはそれぞれ得意不得意があって、ある分野で生きていけないくらい失敗をしてしまった人でも、違う分野では誰かを救うほど、輝ける得意があるかもしれない。
いくつかの失敗、それだけでその人が切り捨てられていいとは思えない。
お金を稼ぐことが得意では無い人たちの、別の部分を、私は見たいと思う。
 
ひとりでは変えることのできない、構造的にかわいそうを生み出す加害者になっていることについて、昔から心の片隅で考えてきた。
母に言ってみても、友達に言ってみても、理解されなかった。
でも、最近は同じようなこと考えている人が、特に同世代の中で増えている気がする。
 
考えるばかりで行動しないなんて、何もしないのと一緒だという人がいる。
でも、ひとりの行動だけでは何も変わらない時もある。
そんな時、考えて、思いを言葉にして語ることは、大きな意味を持つ。
自分が知ったことは、自信がなくても、ぽつぽつとでもいいから、語ろうと思うのだ。
そして、他の人の声も、聞きたいと思う。
考えて、話し合って、その小さな積み重ねがより良い社会を作ると信じている。
 
私たちは、考えることができる。
想像することができる。
その力が、どうにもならない構造の加害に絶望している私の、一筋の希望だ。
 
 
 
 
***
 
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