運命の名前。あなたは名前を変えてみたいと思ったことはありませんか?
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記事:小城朝子(ライティング・ゼミ6月コース)
私は昨年「姓」が変わった。
離婚して2回目の小城朝子になった。
1回目の小城朝子は宿命の名前。そして、今回の小城朝子は運命の名前だ。
宿命は自分では決められない、いわば定められたもの。
運命は自ら運ぶもの、自分の力で掴み取るもの。
そんな話を聞いたことのある人もいるだろう。
「姓」は、まさに宿命。自分ではもちろんのこと、親もご先祖様さえも決めらない。この世に誕生した時から決まっている。
どうしても、ということで「姓」を変えるには、結婚や養子縁組、もしくは裁判所の許可をもらうという、とほうもない手続きを経ることが必要で、めったやたらに変えられない。
これを「宿命」と呼ばずしてなんと呼ぼう。
そんな、宿命である「姓」に翻弄されるとは、生まれた時には思いもしなかった。まあ、生まれた時だから、思わなくて当たり前だが……。
小城(こじょう)という、宝塚バリの「姓」のため、恥ずかしい思いの日々だった。
まず、名前と顔が違うと、周囲から、からかわれる。
「コジョウ アサコ」という響きからして、周囲は勝手に美人を想像するようだ。
しかし、その実態は……。
美人とは程遠い、どちらかといえば人間ではなく、宇宙人に近い個性的な顔だ。
ゆえに、子供のころは「顔と名前が全然違うね」とか、「名前負けしてるね」と、容赦のないストレートパンチをくらう。
大人になったらなったで「あっ、あなたがコジョウさんだったんですね……」と、先に名前だけ聞いていた人は、私の顔を凝視する。
そして、残念そうな、バツの悪そうな苦笑いという、後からジワジワ効いてくるジャブを放つ。
「美人でなくて悪かったわね!」と、すかさず心の中でカウンターパンチを返してみるものの、それは相手に届かない。
親は親で「何か問題を起こして、ニュースで『神奈川県〇〇市の小城が…』と報道されたら一発で特定されるから、いい子にしていなさい」と、訳の分からない教育方針を押し付ける。
「悪いことをして特定されたことがあるの?」と、ひねくれている私は聞いてみるも、「そんなこと、あるわけないだろう!」と一喝して黙らせる。
わが親ながら見事な躾だ。
学校では、クラス替えの後の初授業で、正しく読んでくれた先生は誰もいない。
さすがにクラスメイトは私の名前を憶えているので、先生が私の名前を間違えるたびにクラスに笑いが起こる。
たいていがコシロさん、オギさん、オシロさん、時にはオジョウさん(これは嘘)。
そうか、今、気が付いた。
私の名前はクラスのムードメーカーでもあったのだ!
なんなら、もっと笑いをとれるよう頑張ればよかったと、意味のない後悔をしてみたり……。
そんな、逸話はイロイロあれど、なんだかんだで気に入っていた姓が、結婚をして〇〇という、ある県の名前になった時、正直かなり戸惑った。
結婚前は、皆、小城朝子として見てくれていたのが、結婚後は「○○家の人」という見られ方になった。姓が変わっても私は私と思っていたが、なかなかどうして、周囲はそうは見てくれない。
嫁ぎ先は、小さいながら会社を経営しており、必然的に私もその会社に入ったため「○○家」という枠で判断される。
特に従業員からは「朝子さんは〇〇家の人だからね~」と、個人の私ではなく、〇〇家の嫁として見られることが悲しかった。
なぜ、名前は自由に決められないのだろう。
「名は体を表す」という言葉があるように、正に、名前は「その人」の象徴であり、その人そのものである。
仏教でも「名体不二」(みょうたいふに)というように、名前と体は一緒である。
芸能人が芸名を変えたり、芸人がコンビ名を変えて、とたんに売れ出すこともある。
自分がどう名乗るかで、まさに運命が変わる。
それなのに、現実は「姓」は宿命、「名」は親や周囲のセンスで決められる。
生まれる前に「今度生まれてきたら、私の名前は○○にしてね」とは言えない。
こんなに大切な氏名を人任せにしていいのか。
一生に一回だけ、「姓」と「名」を自分で決めるチャンスがあってもいいではないか。
自分にふさわしいと思う名前、はたまた、こんな自分になりたいからと、夢や目標を名前に託すことができたらステキだと思うのは、私だけだろうか。
名前を決める自由があれば、そもそも夫婦別姓の問題も生じない。
家族の絆を大切にしたければ、夫婦や親子で同じ姓を名乗ればいいし、個を尊重し、自由にしたければ、子供も含め姓が違ってもいい。
名前を決める自由があれば、残念な両親に残念な名を付けられ、裁判沙汰になることもない。
キラキラネームが恥ずかしければ、自由に名前を変えたっていい。
このさい、マイナンバー制度の導入と共に「姓名を決める自由」を認めてもいいのではないかと、声を上げたい衝動にかられる。
マイナンバーで健康保険や税金の管理に取組んでいるのだから、当然、戸籍の管理ぐらいできるだろう。であれば、1回ぐらい名前を変更しても、行政上もそんなに混乱は生じないと思われる。
ならば、誰もが自分の名前を決める権利があってもいいと思う。
改憲論争の際に、自由権の一つとして「姓名を決める自由」も議論してほしいと思うぐらいである。
と、今の日本ではとうてい受け入れられることのない妄想を、この文を書きながら描いている。
とにもかくにも、このたび、私は自分の意志で、晴れて小城朝子と名乗ることができている。
自分の意志で、「姓」を変えられた。
正に、運命の名前である。
そして、現在55歳。絶賛、独身中。
もう一度、「姓」を変え、運命を変えたいと密かに企んでいる私である。
イイ人がいたら、是非ご紹介あれ。
***
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