【親子学習】という山道には、深い溝があるらしい……《リーディング・ハイ》
記事:中村 美香(リーディング&ライティング講座)
「……だから、そうじゃなくて、これが!」
あ、また、声を大きくしてしまった。
わかっている。大きな声で言ったって、伝わらないことは。
だけど、つい、声が大きくなってしまう。
「大きな声」を息子が苦手なことだって、わかっているんだ。
どうして、この問題がわからないの?
どうにかこの言葉だけは、飲み込んだ。
ふと、問題集から、息子の顔に目を移すと、目はどんよりと曇り、明らかにやる気を失っていた。
何度も声をかけて、さっきようやく、問題集に向かい合わせることに成功したばかりなのに、私の「大きな声」で、その努力は水の泡になってしまったことを確認した瞬間だった。
そのことをブログに書くと、子育て中の先輩ママからコメントをいただいた。
「気持ちわかるよ」
と、共感してくれた上で、
「昔、勉強を教えたこともあったけれど、“お母さん”は、先生役をやらないようにしたのよ。どうしても怖い顔になってしまうからね。甘えられる存在でいようと思って!」
と書いてくれた。
そっか……
親子学習は、実は、とても難しいのかもしれない。
どうしても感情的になってしまう。
「お母さんの教え方はよくわからない」
と言われて
「勝手にしろ!」
と思ってしまったこともある。
はて、どうにかならないものだろうか?
そんな中、遅ればせながら『ビリギャル』のDVDを見た。
これは、有名なのでご存知の方は多いと思うけれど、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話』坪田信貴 著という実話を映画化したのものだ。
主人公のさやかちゃんと塾の坪田先生とのサクセスストーリーを追うと同時に、いや、それ以上に、私は、さやかちゃんのお母さんの振る舞いに釘付けになってしまった。
さやかちゃんのお母さんは、それこそ文字通り「どんなことがあっても、我が子の味方」だった。
どんなに、学校に呼び出されても、頭を下げながらも、娘を庇っていた。
私にも同じことができるだろうか? 不安になった。
子どもの可能性を信じて、見守る大人たち。
そして、困難を乗り越え夢を叶えたさやかちゃん。
感動し、何度も涙を流しながらも、心のどこかで「これは、特別なことなのではないか」と思っている自分に気がついた。
本当に、こんなことができたらいいけれど、あんなにうまく、やる気を出させることなんてできるのだろうか?
きっと、そう簡単に、うまくは行かないはずだ。
第一、息子とさやかちゃんの性格は全然違うし……。
その私のモヤモヤに答えるように、ある日、本屋で、出会ったこの本の題名は『人間は9タイプ~子どもとあなたの伸ばし方説明書~』だった。
この本の著者は、先の『ビリギャル』の作者の坪田信貴さんだった。
表紙をめくると
「ビリギャルの奇跡をわが子にも起こす方法!」
「子どもを悪くしているのは親の心配や不安心理です。本書でタイプ別の声がけを!」
と、書いてあった。
タイプ別の声がけ?
同じ言葉をかけたり、同じ態度で接しても、子どもの性格によって、やる気が出たり、逆に悪影響だったりするというのだ。
例えば、母親が
「算数のお勉強、お母さんと一緒にがんばろうか!」
と言ったとする。
あるタイプの子どもは
「えっ、一緒に? じゃあ、がんばる!」
と言い、別のタイプの子どもは
「うぜー。一人でやるからほっといてよ」
と言う。
また、父親が
「お前は高2だけど、小4の教材からやり直すといいんだって!」
と言った時に、あるタイプの子どもは
「へぇー、やる、やる! それなら、かんたんだし!」
と言い、別のタイプの子どもは
「そんな低レベルな教材から? バカにするな、絶対やらね!」
と言う。
なるほど、そうかもしれない!
人間は9タイプに分けられ、そのタイプに合わせた対応をすることによって、伸びて、やる気になるそうだ!
巻頭に9タイプの診断テストが載っていた。
面白そうだと思ったけれど、90問に答えて集計しないといけないのか……と、躊躇した。
よく見ると、本を買った人は、QRコードを読み取り、インターネット上で集計してくれる便利な機能がついていることに気がついた!
さすが、考えてるわ! ありがたい!
早速やってみると、私は、堅実家タイプだった。
“コツコツとした作業を積み重ねるのが得意な、穏やかな性格の人です。
心理状態が比較的安定していて、慎重です。
予定通り物事が進むのを好みますが、逆に、予定になかった突発的な出来事が起こったり、新規の仕事を一人きりで任されたりすると、ひどく不安に感じることもあります”
うん、確かにそんなところある!
その後、息子のタイプを調べると、私と同じ、堅実家タイプだった。
なんだ、一緒か!
じゃあ、自分がされたいことをすればいいのかな? と単純に思ってみたけれど、そういうわけでもなかった。
私の小さい時を思い出してみると、母がほめ上手だったから、私はいい気になって、早いうちから勉強することが好きだった気がする。
それは、本当にラッキーだった!
ああ、でも、なかなか一人で留守番や買い物はできなかったと聞いたことはあるな。
やはり、ロボットではないから、同じタイプだからといって全く同じではないのは当然だ。
読み進むうちに、嬉しい発見もあった。
私が、息子の母として、今まで、もどかしいほどやってきた“一緒に”何かをやるというプロセスは、間違いではなかったようだった。
そしてまた、過保護ではないかと気にしていた、事前に「見通しの説明」をすることも、ぴったり合っているようだった。
子どものタイプを知る前に、まずは、自分自身のタイプを知り、モヤモヤした不満を取り除くことから始めた方がいいらしい。
自分自身のタイプと対処法を知ることで、自分のご機嫌の取り方がうまくなり、いい流れが作れるようだ。
実は、お正月に、私の実家で、この診断テストをやってみた。
家族の診断結果は、見事なほど、バラバラだった。
血が繋がっていたって、別の人間。
そんな当たり前のことを改めて感じた。
息子との【親子学習】の時に、少しだけ、対応を変えてみた。
堅実家タイプは、「大きな目標よりも、小さな目先の目標を“一緒に”立てるのが、効果的」と知り、とりあえず、今日の取り組む予定の教材を、ふたりで確認し、まず一問目を“一緒に”やることにした。
そして、徐々に、私は、問題集からはフェイドアウトし、その代わりに、側に座って、本を読むことにした。
いい感じ! と思ったら、また、息子に、わからない問題を聞かれて
「だから!」
と大きな声で言ってしまった。
まずい! と思って
「あ、つい、伝えたいと思うと大きな声になっちゃうんだよね」
と言って、笑ってみた。
すると、息子も笑いだし、雰囲気は壊れなかった。
これからも、まだ、困難はあるようだ!
【親子学習】を避けるもよし、難しいと知りながら、続けるもよし。
だけど、そこには、深い溝があって、よほど注意しないと落ちてしまうかもしれない。
しっかりと自分と相手を知った上で、乗り越えることができればいいなと思う!
『人間は9タイプ~子どもとあなたの伸ばし方説明書~』坪田信貴 著
KADOKAWA
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