まだ何者でもなかった21歳の私へ宛てた手紙
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:カキウチ サチコ(ライティング・ゼミ2月コース)
拝啓
春らしさが感じられる季節となりましたね。お久しぶりです。2024年4月を生きている私から、21歳の頃の私へ手紙を贈ります。
私の暮らす町ではいま、菜の花や桜がいたるところに咲いています。春の暖かい空気が記憶を呼び起こすのでしょうか。この時期になると懐かしく蘇る光景があります。21歳のあなたはよく覚えているでしょう。
東京ビッグサイトからの帰り道の、あの光景。ゆりかもめの車内を通過した夕日は、息を呑むほど鮮やかなオレンジ色でした。
スーツ姿のあなたもオレンジに染まっているのに、内面は濃いグレーをまとっていましたね。先ほど訪れた新卒者向けの就活イベントのせいです。
「若いあなたたちの力が必要です!」
「一緒に夢を叶えましょう!」
採用担当者が発するポジティブな謳い文句は、あなたをうんざりさせました。「その他大勢」のあなたに向けられた言葉は、どこにも届かず消えていきました。「ここは自分のいる場所ではないのだ」と、あなたは静かに気づきましたよね。
企業と学生、誰もが建前で話す企業説明会に参加して、就職できる気がしなかったあなた。自己分析、企業分析というけれど、本音のないコミュニケーションは雲をつかむようなものでした。目の前の人の話が、これほど空虚に感じることはいままでありませんでした。そう、就活は、企業と応募者の心理的な距離が恐ろしく遠いのです。
当時は就職氷河期ど真ん中ではなかったものの、新卒採用は買い手市場でした。数百人の学生が集まった企業のブースの中から、企業に選ばれるのはほんの数人いるかいないか。
周囲との差別化を図ってPRしないといけないのに、独自性を出し本音で喋ると浮いてしまう。「就活生」の仮面をつけきれない自分が入りこむ隙はありませんでした。「企業が想定するテンプレートの学生を演じないと就職できないのだ」と悟って絶望しましたね。
「一生懸命働く覚悟があるのは、自分自身がよくわかっている。企業は見る目がないな」という気持ちと、「この程度の社会の洗礼を拒否するような自分は、どこにも通用しない」という焦り。いまでも鮮明に思い出せます。
その後、どこの企業の面接を受けることなく、あなたは就職活動をドロップアウトしましたよね。抱いていた当時の違和感は正しかったのだと、いまの私は思います。
さて、私が21歳のあなたに手紙を書こうと思い立った理由は2つあります。ひとつはあなたに感謝を伝えたかったから。もうひとつは大事なメッセージを届けたかったからです。
社会人を20年ほど経験した結果、私はそれなりに社会とうまくやる能力を身につけられました。私はいま、ネット通販を営むインテリア会社で働いています。ネットショップ運営や商品企画、会社の広報の仕事をしています。
そして、びっくりしないでください。私は企業の採用担当でもあるのです。新卒の就職活動さえ満足にできなくてドロップアウトした私がですよ! 人生何が起こるかわかりませんね。
会社の採用を任された私は、あなたに何度も助けられてきました。
「就職活動を早々に諦め、何者でもなかった私がなぜ?」と疑問に思うでしょう。よく聞いてください。あなたが悩み、苦しんだ経験があるからこそ、20年後の私は応募者に寄り添った仕事ができているのです。
日本の採用を取り巻く環境は、残念ながら2024年もさほど変わっていません。就活のしくみにうまく乗れず、日本の企業や社会人に絶望するあなたのような若者は、いまでも一定数存在します。
採用担当の私は、あなたのような若者に振り向いてもらえるよう、日々努力しています。あなたに認められる社会人でありたい、あなたのような若者が働きたいと思える社会を作りたいという想いが、私の働く源泉です。私はいま、やりがいを持って仕事に取り組んでいます。
本当にありがとう。あなたの苦悩は無駄ではありませんでした。
おかげさまで、採用難といわれる時代でも、当社の採用は順調です。「就活」の型にハマらない応募者から、日々多くの連絡をもらえます。
出逢えた応募者とは本音で話し、縁あって入社してくれた若者が会社を支えてくれています。私が入社した頃10名しかいなかった社員は、現在50名を超えました。
最後に伝えたいメッセージがあります。
あなたはいま「自分が働きたいと思える会社がない、これからどうやって生きていこう?」と悩み苦しんでいますよね。しかし、21歳のあなたの時代には、私がいま働いている会社や仕事は存在していなかったのです。
あなたが27歳のとき、当社の仕事は誕生しました。正確には、代替わりした社長が「ネットショップ事業」をひとりで立ち上げたのです。事業が軌道に乗り出した3年後、私は初期メンバーとして採用されました。はじめての経験ばかりで苦労は多かったですが、自分やメンバーが働きやすい環境を作ってきました。
だから、大学を卒業する時点で「仕事が見つからない」と嘆かなくても大丈夫なのです。まだ見つけられていないだけかもしれないし、まだ世の中に存在しないのかもしれません。それに、自分で会社や仕事を作ることだってできるのですよ。自信がなければ、まずは実力を磨いてください。大学卒業時にタイミングよく、天職と出逢える方が奇跡です。人生は長いのだから、視野を広く持ってください。
「環境の不遇」を嘆くのは、若い頃のあなたの悪い癖です。そのようなマインドでは、たとえ天職と巡り会えたとしても満足はできないでしょう。あなたを取り巻く環境に対し、しなやかに適応する努力をしてください。自分の信念に忠実に行動し続けていたら、必ず道は開けますよ。
説教臭くなってしまい、ごめんなさい。私も21歳のあなたに絶望されないよう、これからも努力し続けます。あなたもどうか健康に留意し、精一杯人生を謳歌してくださいね。未来の私はずっと、21歳のあなたの味方です。
敬具
***
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