失恋が開いたパンドラの箱に残ったもの
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記事:まい(ライティング・ゼミ)
「話があるんだけど」
「話って……?」
「別れてほしい」
「……うん」
2年前の春、私は大学時代から1年数か月付き合った彼氏にふられた。
出会いは京都市が主催する就活セミナー。偶然隣の席に座り、お互いに一目ぼれした。閃光を放つようにして始まった恋は、とどまるところを知らなかった。付き合い始めて2週間後には彼の実家を訪れ、さらにその2週間後に東京に泊まりで旅行に行った。というのも、私たちには急いで関係を深めなくてはならない理由があったのだ。私は1年間の交換留学の予定で京都に来ており、2か月もすれば大分に帰らなければならなかった。あれほど1日1日が濃密だった2か月は、それまで20年以上生きてきて初めてのことだった。
3月。ついに留学期間が終わり、私は大分に戻った。ここから1年に渡る遠距離恋愛が始まった。私たちには性格のうえで共通点が多かった。二人とも塾でアルバイトをしており、アルバイトとはいえ、生徒と仕事が大好きだった。彼のそういうところも好きだったが、これでは会いに行く日程が合わない。だから、やっと会えた時にはすべてをいい思い出にしたくて、私は彼の前でネガティブな感情を封印した。湧いてくる不安も不満も、見なければいつか消えてくれると信じているかのように。もちろん、嫌なものを見なければなくなるほど、世の中は都合よくなかった。
遠距離恋愛が始まって1年、私たちはそれぞれ無事に大学を卒業した。彼は就職で大阪に引っ越し、私は専門学校に進学するため東京に引っ越した。二人は場所を変えて、再び500kmの遠距離恋愛をスタートさせた。縮まらない距離は私たちの関係を象徴していたのに、私は「それでも大丈夫。いつか二人一緒になれる日が来る」と無邪気に信じていた。
そしてかかってきたあの電話。
本当はどこかでわかっていた。お互いにやりたいことがあって、どちらもそれを諦めるつもりはなかった。そういう共通点が今度は二人を遠ざけた。彼にふられてから、私は明らかに我をうしなった。初めての東京暮らしと専門学校での勉強で、すでに神経は十分に過敏だった。そこへ訪れた失恋はダブルパンチ以上のしろものだ。
ふられてからというもの、私の脳は彼に関する情報を集め続けた。街中のあらゆるものが彼を思い出すきっかけとなった。彼と観た映画の音楽、一緒に東京旅行したときに乗った電車、行った場所、食べたもの。彼が好きだった車、俳優、色。もはや何でもよかったのかもしれない。そういうきっかけに触れるたびに、私は苦しくて、電車に乗っていようが、授業を受けていようが、洗い物をしていようが、涙を止めることはできなかった。いちど自分の一部に取り込んだ彼の存在が薄れていくことを、私の脳は決して許さなかった。
失恋によって開いてしまった私のパンドラの箱は、これでもかとネガティブを吐き出し続ける。「あの時こうしていたら……」「もうこんな人には出会えないかもしれない」「どうしたら戻ってきてくれるだろう」「寂しい……」「なんでこんなことになったのだろう」
後悔、不安、寂しさ、怒り……。二人でいる時に必死に封じてきたのものが、今になって溢れ出してしまった。
結局その後1年間、彼を忘れることはできなかった。東京の街は何度も彼を思い出すようけしかけ、私は笑えるくらい毎回その罠にかかった。雑踏の中、もし私に注目してくれた人がいたとしたら、私は急に泣き出す変な女だっただろう。それでも、時間とともに彼を思い出す時間は確実に減っていった。そして専門学校での勉強が終わり、就職のために生まれ育った福岡に戻った。
私にとって、彼との恋愛と失恋を味わった2年半は激動の時期だった。いま振り返ると、喜びも悲しみも含めて、自分のどこにそんなエネルギーがあったのだろうかと不思議に思うほどだ。福岡に戻り、就職をして、懐かしい友達に会って、趣味も見つけて、やっと落ち着いたいま感じることは、失恋しても私は私だということ。一時は自分を見失い、おかしくなったかとさえ思ったけど、一回りしてみて、私はどこにも行ってなくて、ちゃんとここにいた。
また誰かを好きなれば、パンドラの箱が開いて、見たくない自分と向き合わざるを得ないかもしれない。思いがけないものが出てくるのがパンドラの箱だから、次はどんなものが出てくるかわかったもんじゃない。それはすごく恐いけど、嫌なものがいろいろ出てきた後に残るのは、「それでも私は私だから、きれいじゃない部分があったって、また進んでいける」という希望だ。私は2年前に比べて、多様な自分を認められるようになった気がする。絶望しか入っていないように見えるパンドラの箱にも、いつもかすかな希望が含まれている。だから、恐れずに会いに行こうと思う。絶望と希望の先のもっと豊かな自分へ。
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