猫にこんばんは
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記事:あやっぺ(ライティング・ゼミ平日コース)
「こいつら連れて行っていいかな? 新家族3匹」
彼からのLINEメッセージが届いた。
そこには、眠そうな顔をした子猫3匹が写っていた。
年末、ひと月ぶりに京都に来てくれることになった彼。
私の知らない間に、新家族が増えていたとは……。
私は返事に困った。本当は無理だと言いたかった。
借りているマンションは、一応ペットOKの物件だった。
問題はマンションの規約ではなく、私自身。
そう。私は、「人間以外、全部ダメ」なのだ。猫に限らず、動物全般が苦手。
別に嫌いなのではない。アレルギーがあるわけでもない。
写真を見ている分には可愛いと思う。
でも、とにかく苦手としか言いようがないのだ。
困った。どうしよう……。
イヤとか、無理とか言えへんよなぁ。
悩みに悩んだ末、
「どうぞ。私は怖がりだから、抱っことかできないけど」
と返信した。
それにしても、神様は私の苦手なあれやこれやを、この彼との出会いを通じて克服させようとしているとしか思えない。
オートキャンプなどのアウトドアなこと、スポーツ、猫。
私は次々に試されている。彼は生きた教材だ。
いよいよ、デート当日。
19時過ぎに、彼は小さなナイロンボストンに3匹の子猫を入れて連れてきた。
生後2ヶ月だそうだ。彼に飼われてから、初めてのお出かけだったらしい。
砂を敷き詰めたトイレと餌もしっかり持参し、彼は手慣れた様子で室内にセッティングした。
初めてのお出かけが嬉しかったのか、室内で猫ちゃん達は思いっきり元気に走り回った。料理をしている私に、代わる代わる飛び掛かってくる。足をかじってくる。
そして、何が珍しいのか、カーテンに必死によじ登っては、ずるずる落ちてきてを繰り返している。
買って間のないカーテンは、猫ちゃん達に引っ掻かれて、しわしわのクシャクシャにされてしまった。
ここが自宅じゃなくて良かった。自宅とは別に借りている部屋でなければ、私は発狂していたかもしれない。
私と猫の思い出は2つある。
1つ目は、小学校低学年の頃に遡る。当時は、苦手意識はまだなかった。
学校帰りに講演で捨て猫を見つけて、友達と一緒に数日間、世話をしたことがあった。
私もその友達も両親が厳しくて動物嫌いで、家で飼うことは絶対に許されなかった。
段ボール箱に入れて、公園の隅っこに隠すようにしていたが、いくら子猫とはいえ、そういつまでも同じ場所でじっとしているはずもなかった。
3日目くらいだったと思う。子猫はいなくなっていた。
2つ目は、大学生の頃の話になる。
近鉄電車で奈良まで通っていた私は、通学定期を使って途中下車をして、寄り道をすることがよくあった。
近鉄電車と京都市営地下鉄が乗り入れしている竹田駅で降りた私は、駐輪場で猫の鳴き声を聞いた。声のする方へ近づくと、ぎゅうぎゅうに詰めて停められている自転車の後輪が猫のしっぽを踏みつけていた。
誰か急いで停めていった人がいたのだろう。痛々しくて可哀想な姿だった。
私は見過ごすことができず、自分が停めたわけでもない自転車を何台も動かして、どうにか少しのスペースを作り、踏みつけられていた猫をやっとの思いで助け出した。
助け出した猫は、私の方をじっと睨みつけるように数秒間見つめて、去って行った。
その目つきは、まるで私を犯人扱いしているように感じられた。
いや、誤解だ。あなたのしっぽを踏みつけたのは私じゃない。
私は目でそう訴えかけたが、通じなかったようだ。
時間にして15分くらい、私はこの猫のために頑張ったのに……。
別に、猫の恩返し的なものを期待したわけではなかった。
でも、「助けてくれてありがとう」とウルウルした目で見つめられるくらいのことは期待していた。
もしかしたら、猫なりにその表情をしていたつもりなのかもしれないが、私にはそう見えなかった。
私はこの一件以来、猫は恩知らずな生き物だと思うようになった。
彼の新家族である3匹の猫ちゃん達は、本当に自由奔放だ。
私が人間の子供を叱りつけるのと同じように、あれもこれもダメだと言葉で叱るのを見て、彼は、
「そんなこと言うて怒ってもわからへんって。こいつらは自由やから」
と笑っている。
確かに、猫ほど「自由」とか「わがまま」という言葉が似合う生き物は他にないだろう。
観察していてそう思った。
そして、年が明けて、今度は私が彼の家に泊まりに行った。
1ヶ月ぶりに再会する私のことを、猫ちゃん達は覚えているだろうか?
彼らは、ひとまわり大きく成長していた。
「久しぶり~。私のこと、覚えてる?」
と声をかけると、
「覚えてへん。こいつらは、3日経ったら忘れよる」
彼にあっさり言われてしまった。
そうか、覚えてないのか。
じゃあ、私はいったい何者だと思われているのだろう?
彼の恋人だとわかっているのだろうか?
「人間以外、全部ダメ」な私に懐くことは無いだろうと思っていたが、猫ちゃん達は当たり前のように、いつの間にか布団にもぐりこんできた。
まさか、自分が猫と一緒に一つの布団で眠る日が来るなんて思わなかった。
私の足元にじっとしていたかと思ったら、突然、胸元に飛び込んで来たり。
やきもちを焼いているのか、彼と私の間に割って入ってきたり。
彼に愛撫された快感に身を任せ、私が足を伸ばそうとしたその先に。
そうはさせまいとばかりに居座って動かない、もふもふの塊。
「もう、なんでそこに居るの? ほんまに邪魔やなー。どいて!」
私が迷惑気にそう言うと、
「こいつら、いつもここで寝とるんやから、しゃーない」
彼は私にそう言った。
「猫ちゃん達には、お前こそ邪魔じゃ! って思われてるんかな?」
「かもしれんな」
彼はそう言って笑っていた。
そして、いつの間にか私は、猫ちゃん達に左の太ももを引っ掻かれていた。
笑い事じゃないわ、ほんまに。
私に3つ目の猫の思い出を与えてくれた、彼にも猫ちゃん達にも敵わないなぁと思う。
彼は、奥さん以外に複数の恋人がいる。
そこへきて、今度はさらに猫ちゃんという新たなライバル登場だ。
猫に好かれる男は、エッチがうまくてモテる
と聞いたことがあるが、彼を見ているとその通りだと思う。
悔しいけれど、惚れた私の負けだ。
***
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