ふるさとの扉《ふるさとグランプリ》
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記事:鍋倉大輝(ライティング・ゼミ日曜コース)
待ちに待ったゴールデンウィーク。
残念ながら有給を使って9連休にすることは出来なかったが、
それでも水曜日から日曜日までの5連休。
充分ゆっくりくつろぐことの出来る日数だ。
物心ついた時から、大学を卒業するまで福岡で暮らした私は、
就職を機に東京に移り住んだ。
大学までずっと実家暮らしだったため、上京と初めての一人暮らしのタイミングが重なることになってしまい、しばらくは大変だったものだ。
今まで経験したことのない大都会ということで、漠然と不安を抱いていた東京暮らしだったが、
いざ始めてみると大体のモノは手に入るし、遊び尽くせないほどの娯楽が溢れており、
なんら不便することなく、むしろ快適な暮らしを送ることが出来た。
すっかり東京に慣れてきた私。
そんな私は今年のゴールデンウィークは福岡に帰省することにした。
直前まで迷っていたのだが、せっかくの5連休ということもあり、
都会の喧騒から離れてゆっくりしようと、東京を飛び立つことにしたのだった。
東京から福岡に帰るときは基本的に飛行機を利用しているのだが、
今回もいつも通り飛行機で、12時30分に羽田空港発、14時30分に福岡空港着の便に乗り込み、
到着まで少し休もうと、目を閉じた。
飛行機に乗り込みある程度時間が経っただろうか。
腕時計を見てみると、14時15分。
ああ、そろそろ到着だ。
ここからもう一眠りするのもキリが悪いと感じた私は、
残った時間を消化すべく、リュックからおもむろに本を取り出した。
14時30分。
到着予定の時刻だが、まだ着陸の気配はない。
到着の時刻が遅れること自体はよくあることなので、
気にすることもなく本を読み進めた。
飛行機の機体の揺れにどこか心地よさを感じながら読書に耽っていると、
一本のアナウンスが入った。
「ただいま、福岡空港上空で雷雲が発生している模様です。
この天候では、着陸が出来ないため空港上空を旋回し、ひとまず様子を見たいと思います」
なるほど、遅れている原因はこれだったのか。
確かにそれはどうしようもない。
読みかけの本を読み進めることにした。
数分後、入った次のアナウンスで、機内はどよめくことになった。
「大変申し訳ありません。
先ほどアナウンスさせていただいた雷雲に関してなのですが、
管制塔との話し合いの結果、天候の改善が見込めないということで、
ここから、急遽長崎空港へ進路を変更したいと思います」
思わず隣の席の人と顔を見合わせた。
本来なら14時30分には福岡に到着していたはずが、
まだ到着していないばかりか、今から長崎に向かうという。
福岡への到着は何時になるのだろうか。
18時30分から約束している食事には間に合うだろうか。
いろいろな想いが湧いてきたが、今は空の上。
為す術などなく、打ちひしがれるほかなかった。
ゴールデンウィーク、幸先の悪いスタートになってしまった。
私が何か悪いことをしたのだろうか。
せっかく思い切って帰省しようと思ったのに、福岡に足を踏み入れることさえ許されない。
まるで、RPGでありがちなレベルを上げないと進めない扉のように、
私の目の前の福岡への扉は閉ざされていた。
一体どのレベルが足りないのだろうか。
学力?
人間力?
筋力?
人間には様々なパラメータがあると思うが、どのレベルを上げれば福岡への扉は開くのだろうか。
そんなアホみたいな妄想をしながら、空の上を漂っていた。
到着はまだまだ先。
ああ、早く福岡に帰ってラーメン食べたいなあ。
と思っている時にふと気付いた。
待てよ。
福岡への扉を開くために足りないのは、
私の福岡に対する愛なのではないか?
福岡にいた頃は、暇さえあれば博多ラーメンを食べていた私も、
東京に移り住み、ラーメンには目もくれず今ではつけ麺ばかり。
福岡にいた頃は、天神、博多には散々お世話になったのに、
東京に移り住み、大都会を経験することで、天神、博多は東京には劣ると心のそこでは思っていた。
ああ、そうだ。
東京に移り住んで、福岡と東京とを比較することで、無意識のうちに福岡への感謝を、愛を見失ってしまっていたのだ。
どちらが良い、どちらが悪いというわけではないのに、
今自分が置かれている環境を正当化するように、無意識に比較してしまっていた。
良し悪しを比べるものではないところに勝手に序列を付けた私の傲慢さが、
福岡の神様を怒らせてしまい、その結果、扉が閉ざされてしまったのだ。
これがいわゆる東京かぶれ、ということなのかもしれない。
地元と東京を比較して、さも地元の方が劣っているかのように思ってしまう。
目先の華やかさ、便利さに囚われるあまり、ふるさとへの感謝、愛を見失ってしまうのだ。
はるか上空でそのことに気付いた私は、深く反省した。
今まで育ててくれた福岡。
いくら東京に移り住もうとも、その事実は変わらない。
私が博多ラーメンを大好きなことも、天神、博多で散々遊んだことも変わらない。
そんな分かりきったことを私は見失ってしまっていたのだ。
福岡様、申し訳ありませんでした。
私は心の中で詫びた。
ちょうどその時、再度アナウンスが入った。
「一度だけ福岡空港への着陸を試みようと思います。
これで着陸が出来ないようであれば、そのまま長崎空港へ進路を変更します」
さあ、ラストチャンス。
次こそは扉を開くことが出来るか。
私は福岡への感謝を、愛を取り戻すことが出来たのだろうか。
数分後、私は無事に福岡の地に立っていた。
お許しをいただくことが出来たのだ。
ふるさとはいつまでも自分の味方だと思っていたが、
ふるさとへの感謝を忘れた瞬間、受け入れてくれなくなる。
そんなこともあるのだと思い知った今年のゴールデンウィーク初日だった。
いきなり波乱のスタートだったが、今回のゴールデンウィーク、
目一杯福岡へ愛を注ぎ尽くそうと思う。
そう決意した私は、颯爽といきつけのラーメン屋へ向けて歩き出した。
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