中学生の時に叱られた理由が、33年後に分かった。
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記事:新野佐月(ライティング・ゼミ5月コース)
33年後、あの時叱られた意味に、やっと気づいた。
中学校の恩師の加藤先生を思い出す。
私は、ずっと加藤先生を、怖い先生だと思っていた。
あの叱られた、中2の初夏から。
ある日、私は、職員室に呼び出された。
職員室の窓から、野球部と陸上部の練習が見えた。
先生は当時30代で、学年主任だった。
中2の中間テストで、私は成績が落ち、順位が下がった。
本人は、あまり気にしてなくて、軟式テニスに夢中だった。
私の出身中学校は、東日本大震災の影響で今は、もうない。
夕方のニュースで、自分の出身校が閉校になる、と知った。
何とも言えない、言葉で表現できない寂しさを感じた。
野球部が練習してた校庭は、友達と歩いた桜並木は、もう、ないんだ。
ある時、同級生が呼びに来た。加藤先生が、職員室で呼んでいる、と。
先生は学年主任だったから、職員室では上席で窓際の席。
そういえば、あの時代、先生たちは、職員室でタバコを吸っても良かった。
灰皿が山盛りだった。
嫌な予感がする。
学年主任の先生、というのは、遠い存在だった。
なぜ、担任の先生ではなく、学年主任の先生に呼び出されるのか。
何を言われるんだろうか。いい話のはずがない。
足が重い。
なぜ、私が呼び出されるんだろう。
窓を背にしながら、脚を組みながら静かに言った。煙草の煙をフーっと吐きながら。
「何で、今日あなたを呼びだしたか分かるか?」
加藤先生は言った。首をかしげた私。
成績が落ちた事だろうか。
「この前の中間テスト、本気出したか?」
うーん、あんまり考えてなかったような……
私は、真っ黒に日焼けして、軟式テニスに夢中だった。
成績が下がった事に、悔しさも感じていない、おっとりした子だった。
「お前な、本気出したか。
力があるのに本気を出さないって、卑怯なんだ。
本気を出しても、ダメな奴はいるんだぞ。全力を出せ」
卑怯、という言葉は、中学生の私でも知っていて、ショックだった。
どうも私は、卑怯だったらしい。
テニスに夢中だっただけ、なんだけどな。
叱られたから、ヤバイと思ってまたマジメに勉強をした。
よく分からない。でも、大人に叱られるから、親に叱られるから、私はマジメに勉強をした。
私が、この言葉の意味、本当の意味が分かったのは、ずっと後になってから。
加藤先生のお葬式が行われたのは、その1年後だった。
先生は、胃ガンだった。
若い時はガンの進行が早い、と分かったのは、私が大人になってから。
胃がんがどれだけ苦しいか、も知らなかった。
学級委員だった私と数名は、先生のお葬式に行く。
中学の制服を着た教え子を見て、先生のお母さんは泣いていた。
先生の息子さんは、6歳位だったか。
顔が加藤先生、そっくりだった。
小さな男の子の顔を見て、胸が締め付けられる。制服の私たちは泣いていた。
こんなに小さな、お子さんがいたんだ。
先生のお母さんは、泣きながら、先生の思い出を語った。
自慢の息子だった。
教師になりたくてなった息子。これからだったのに、悔しい。
制服を着た私たちと、先生のお母さんはお寺の冷たい床の上で、しばし泣いた。
中学校の同窓会の案内が届く。
みんな、子育てが一段落し、同窓会をしたくなったのだろう。
今年の秋、ふと、私は加藤先生を思い出していた。
なぜ、私はあの時叱られたんだろうか。
ある日、突然気づいたことがあった。
「私、何も分かってなかった」
なぜ、加藤先生は、中学生の私を叱ったのだろうか。
わざわざ、職員室に呼び出して。
担任でもなく、学年主任の先生が生徒を呼び出すって、異例だったはず。
「先生は、歯がゆかったんだ」
30代で、夢だった仕事に就いて、やりたい事があった。
小さなこどもがいた先生は、まだまだ生きたかった。
それなのに、やればできるはずなのに、
テキトーに勉強し、本気を出さない生徒に、歯がゆかったのではないか。
時の大切さも、挑戦できることが貴重なことも、分かっていない私に。
銀杏並木を見ながら、歩きながら、私は泣いていた。
鼻水も止まらず、途中で公園のベンチに座って泣いた。
「先生は、もっと生きたかったんだ」
一対一で、叱ってくれた。
命のリミットを知りながら、体の不調を抱えながら、
教え子に絞り出した先生の言葉。
それが、時空を超え、33年後の私に刺さった。
「先生、やっと意味が分かりました」
加藤先生の授業は、33年後、授業終わりのチャイムが鳴った。
「先生、私の人生など、まだまだ、道半です。
せっかくやろう決めた事が、ダメになったり、夫が倒れたり、
なんだか、上手くいかない事ばかり、です。
自分の道が出来ているかも、さっぱり分かりません。
何やってんのかな、何て私は、小さいんだろう、と思う時もあります。
でも、1個だけ決めている事があります。
『全力を出しきる』
それだけは、先生の教えを守っています」
私は未熟で、あの時は先生の言葉の意味が分からなかった。
今、私は理解をした。
ちゃんと、受け取りました。
「全力を、出し切るんだ」
先生は、命の期限を知りながら、真剣に中学生の私に向き合ってくれた。
一人の人間として向き合い、貴重なエネルギーと時間を使ってくれたことに、
今感謝している。
しばらくぶりで、先生のお墓参り行こうか。
***
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