犬の君が教えてくれたメッセージ
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記事:前本 希(ライティングゼミ・平日コース)
6月7日は君の誕生日だから、大好きなバナナを置いとくね。
君の22回目の誕生日なんだけど、君がいなくなってからお祝いするのはもう6回目。
そうだね、もういないのにお祝いって変だよね。つまり、そうやって君を思い出す日ってことだよ。
シェットランド・シープドッグって言うんです。
名犬ラッシーよりも一回り小さい犬種で、毛の色がグレイなんです。
そうやって紹介をすると、たいてい君のことを正しく想像してくれる。
君の犬種は鼻から額へ白い筋がスッと通ると容姿端麗と言われるんだけど、君のは鼻の頭からスタートしたらすぐに曲がってコースアウト。明らかに西洋風な君の外見は田舎町には異質なものと映ったけど、そのちょっと間抜けなところが親しみやすさを生んでたよ。
そう。君は持ち前の人懐っこさで、出会う人とすぐに仲良くなっていた。
見知らぬ人でもしっぽを振り、頭を撫でられると耳をヘナっと後ろに倒して目を閉じ、隙あらばペロペロ顔を舐めようとする。犬はご主人様以外にはおなかを見せないなんて誰が言ったんだと、道路に仰向けになる君は見てわたしは何度呆れたことだろう。
わたしが高校生になったとき、クラスに仲良くなれない女子がいた。
中学生のように、気に入らないから仲間はずれにしようという子どもっぽさはない。悪口を言われるわけでもなく、無視をされるわけでもない。ただ、他の人よりもわたしは素っ気なくされたのだ。
多分、彼女にとってわたしは「生理的に仲良くなれない人」だったのだと思う。わたしよりも大人びていた彼女は、その関係から生じる傷つけ合い避けるために、わたしを遠ざけていたのだと今なら分かる。
でも、当時のわたしはそれが分からなかった。
嫌いな人はいたけど、それはお互いに「嫌いなやつ」と認識して嫌っていたのだから見解が一致している。しかし自分は仲良くしたいのに彼女からは距離を置かれる、という行き違いにわたしは戸惑っていた。
クラスには仲の良い友達はいたのだから、その子と仲良くなれなくても問題はなかった。トイレに行くのも、教室移動でも、体育でペアを作るときも独りになることはなかったのだから。
ただ、毎朝伏し目がちにおはようと返される度に、棘が刺さっていることに気づくのだった。
ある日。
わたしは君をうるさいと怒鳴りつけた。
わたしからおもちゃを持ち出して遊びに誘ったくせに、数回遊んだだけで面倒くさくなって一方的に切り上げた。当然君は続きをせがんで吠えるたのだが、それが鬱陶しくなったのだ。
君はくわえていたおもちゃをコトリと落とし、自分の寝床に戻っていった。
その静かな足音が聞こえたとき、ひどいことをしてしまったと気づいた。
慌ててわたしは君の名前を呼んだ。
自分の気分で遊び始めたのに、勝手に終わらせて、抗議の声をねじ伏せる。
人間の世界で、こんなことは許されない。
でも君は、当然のように戻ってきてくれた。
わたしの様子を窺いながらで、いつもの飛び跳ねるような勢いはなかったけれど。
ゆっくりしっぽを振って、次第に顔をこすりつけたと思ったら、すぐにおなかを見せて甘えてくれた。
ごめんねと謝りながらわたしはようやく気づいた。
君はこんなにも負の感情にさらされていたんだ、と。
犬が嫌いな人はいるから、君のことを見ただけで不快な表情を向けてくる人もいる。
そして飼い主のわたしからでさえ、犬にならばいいだろうと理不尽な怒りをぶつけられていたのだ。
シッシと追い払うその姿は、君を悲しませないの?
伸ばされるその手が、君を傷つけるものだとは疑わないの?
理にかなっていない怒りを向けられて、君は何で許してくれるの?
こんなにも人の嫌なところを見ているのに、なんで君は・・・・・・
こんなにも人を信じてるの?
君のように、あなたと仲良くしたいですって全身でアピールすれば、彼女と仲良くなれるのかな?
君のように、あなたを傷つけるつもりはありませんって両手を広げれば、振り向いてくれるかな?
あれから10年以上経つけど、わたしは今でも君が教えてくれた通りにやってる。
彼女とは、ちゃんと友達になれたよ。彼女が根負けした感じだったから、わたしに付き合ってくれただけかもしれないけど。それでも、休み時間に彼女の席に遊びに行って、授業の文句をうだうだ言えるくらいになったから、友達だよね。
正直に言うと、うまくいかないこともあるよ。
わたしもいい大人になったから、全ての人と仲良くできないことは分かってる。
「わたしのこと苦手なんだな」って空気を感じ取ったら、わたしから無邪気に駆け寄ることはできない。
ただ、わたしからは閉ざさないようにしてる。
1回拒絶された人と会うのは怖いけど、君の空を向いたしっぽを思い出して、わたしも背筋をピンと伸ばす。
拒絶されると人と出会うのが怖くなるけど、そんなの忘れてトコトコ歩み寄っていた君を思い出す。
君がわたしを信じてくれたように、わたしも人を信じてるよ。
わたしはあなたと仲良くしたいです。
わたしはあなたの敵ではありません。
それがわたしの送るメッセージ。
犬の君が教えてくれたこと。
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