久留米は新宿駅よりずっとダンジョンだ。《ふるさとグランプリ》
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記事:バタバタ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
あと25分歩け。
Google Map先生は、無情にもそう告げた。
もう散々歩いて、足全体が痛くて、お腹もすいて、おまけに雨まで降っているというのに。
それもこれも、私が久留米を舐めていたから、いけないのだ。
日ごろは福岡市周辺ばかりをウロウロしている私が、この日は電車とバスで90分かけて久留米まで出てきたのは、とあるイベントの告知を見たからだった。
行きはヨイヨイ。無事に会場までたどり着き、気の済むまで見て回り、さあ帰ろうとした時。その時はまだ、その後数時間に及ぶ過酷な試練を知る由もなかった。
「帰りは、来た時のルートを逆にたどろう。久留米駅までは、帰りもバスで5分くらいだろう。駅のまわりにレストランが沢山あったから、お腹もすいたし、そこでお昼を済ませてから、帰りの電車に乗ろう」
そんなプランで、午後からも、のんびりとした休日を過ごすはずだった。
だが、早々に問題が発生した。
帰りのバス停が見つからない。
来た時に降りたバス停から見て、道路を挟んだお向かいにあるはずなのだが、行けども行けども、それらしきものが見当たらない。
反対方向にあるかと思い、振り返ってまた200メートルほど探してみるが、やはり見当たらない。
周囲に、バス停の位置を示す案内板のようなものも見当たらない。
人に訊こうにも、歩いている人がいない。まさか、ビュンビュン走っている車を止めて尋ねるわけにもいかないだろう。
にっちもさっちも行かなくなったが、ここで立ち尽くしていても、どうにもならない。
とりあえず、記憶をたよりに、来たときのバスのルートをたどりつつ、バス停を探すことにした。
「ひとりでルートを探して、長い道のりを行ったり来たり。まるでダンジョンだ」
ゲームの中でたびたび登場するダンジョンは、分かりにくい道を行ったり来たりして、出口または最深部までのルートを探っていく。一度入ると、なかなか出られず、モンスターまで襲ってくるから、体力が徐々に削られていく。
よくダンジョンに例えられるのは新宿駅だが、この久留米に比べれば、よっぽど親切だと思う。
新宿駅は、いくつもの路線が交わったり、出口が沢山あったり、フロアが何層にも分かれていたりして、構造は極めて複雑だ。その上、大量の人の波が常に押し寄せるから、気を抜くとパニックになりそうだ。
だが、人の波の隙間から、足元の表示や、天井から吊るされた案内板を見つけることができれば、攻略できる。案内をたどれば目的地に着くように、親切にサービスが施されているのだ。
それに、周りには人が沢山いる。駅を利用するお客さんに、駅員さん、周辺のお店の人も。いつでも彼らに訪ねて、ヒントを得ることができる。
それにひきかえ、久留米では、誰に訪ねることもできない。人がいないのだ。親切な表示もない。
脳みそと体力を総動員して、自力でルートを見つけていかなければならない。
来た時のバスのルートを思い出して辿っていくが、10分歩いてもバス停は見つからない。
やっと道案内の標識を見つけたが、バス停の情報は表示されていなかった。
「最悪の場合、このまま駅まで歩くか」
来るときのバスは、あちこちの施設に寄り道するルートだった。歩いて帰るなら、せめて近道がしたい。
ふと遠くを見やると、視線の先を電車が走っていった。
「電車が通ってる! やった! あの高架をたどっていけば、駅まで近道ができるはず」
高架までは距離があるようだが、しかし見えているのだ。
砂漠でオアシスを見つけたときに思わず走り出すように、眼を高架にくぎ付けにして、小走りで駆け出した。
頭の中で地図を思い描く。
この位置からなら、高架から左手に曲がって久留米駅まで戻るよりも、右手に進んで、宮の陣駅のほうが近そうだ。
久留米の駅ビルを冷やかせないのは残念だけど、もう疲れたし、お腹もすいたし、宮の陣駅にも食べる処くらいはあろう。
だが、高架下まで到着してみると、そこから右手へは曲がれなかった。
切り立った土手とフェンスが、曲がるのを遮っていた。
高架下には必ずお店があり、高架に沿って細い道が走っているものという思い込みは、久留米では通用しなかったのだ。
「ちょっと離れるけれど、このブロックが終わるまで歩いて、そこから右手に曲がろう」
さっきよりずっと重たい足を引きずって、やっと見つけた角をまがると、その先も土手だった。
雑草に覆われて階段があったので、登ってみると、雄大な筑後川が広がっていた。
広すぎて対岸が見えない。
歩いて渡れる橋がないか見渡したが、鉄道用の鉄橋しかなかった。
宮の陣駅へは、どう頑張っても行けないようだ。
絶望した。
自力でルートを探そうとしても、久留米には手も足も出なかった。
スマホを取り出し、最後の切り札、Google Mapを起動する。
Google Map先生は、ここから更に25分歩くようにと告げた。
冒険の途中で、ダンジョンから無事に脱出できず、その中で力尽きてしまうことがある。
それだけ、ダンジョンには沢山の危険が潜んでいる。
だが、ダンジョンは何も、損をするだけの場ではない。珍しいアイテムが入った宝箱も隠されているのだ。
疲れすぎて、もはや「おなかすいた」以外のことが考えられなくなった頭に飛び込んできたのは、「葛ようかん」の看板だった。
「えっ、何それ! 葛もちと羊羹の合体かな? 美味しそう!」
看板が示す店舗の場所は、Google Mapが示すルートの途上だ。
散々な目にあったと思ったが、この久留米ダンジョンにも、宝箱はちゃんとあったのだ。
初めて足を踏み入れる者にとって、ある意味で新宿駅よりも難易度の高いダンジョンに思える久留米。
一度で攻略できなくても、体力を回復させて、対策を練り、何度でも再チャレンジできるのがダンジョンだ。
今回はクリアできなかったが、何度も足を運んで探索していけば、徐々に把握できるだろう。
葛ようかんの発見という、宝箱のような、うまみもあった。
また近々、再チャレンジしてみよう。
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