メディアグランプリ

「欲望」の本棚から「好き」の本棚へ


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記事:一宮ルミ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「私の本棚には、『好き』がない」
 
本棚にぎゅうぎゅうに詰められた本を見て、思った。
 
本が好きだ。内容はもちろん、紙の匂い、手触り、工夫を凝らした装丁や、読者を惹きつけて手に取らせてしまう帯の文章。
それから、本がずらっと並んだ本棚を眺めるのも好きだ。以前、テレビの番組で、本棚を見て、どの有名人の本棚かを推理する番組があったが、すごく興味を持って見た。本棚にはその人の「好き」が詰まっている。
 
ある時、友人のアパートに遊びに行った。
彼女は、数年前、県外から仕事で移住してきた。
和室の押入れを活用した本棚があった。自分で棚を作り、本がずらりと収納されていた。
東南アジアのガイドブック。料理のレシピ本。小説、マンガ。彼女の「好き」が手に取るようにわかるラインナップだった。びっしりと、ジャンルごとに分類され、収納され、いつまでも眺めていたくなる気持ちのいい本棚だった。
県外から来て日の浅い彼女が、これだけの本を、引っ越して来てから買ったとは思えない。わざわざ持って来たのだろう。
遠いところからダンボール箱に詰めて持って来たと言うことは、何度も読み返したくなるような本当にお気に入りの本たちだろう。それがこんなにたくさん。
実際、ガイドブックに載っている東南アジアの国々に毎年のように行っていると聞いたし、料理本に載っていたメニューは、私が遊びに行ったその日、彼女が振舞ってくれた。彼女の本棚の本たちは、ちゃんと彼女の生活の血となり肉となって、本が生きていると感じた。
 
私の本棚は、ハウツー本の専門図書館のようだった。
ダイエットに自己啓発、ファッションコーディネートに、英会話。
雑誌も同じように、「○枚でこの秋のコーディネートは完璧!」や「夏までに○キロ痩せる!」という特集を見ればつい買っていた。そうやってハウツー本は増えていく一方。
小説やエッセイも買うには買うが、圧倒的に買う数が違っていて、そんな本たちは本棚の隅に追いやられてしまっていた。
 
そして、問題なのは、買った時は、やってみようと思うのだけれど、結局三日坊主で終わってしまうことだ。
 
「断捨離」と称して、年に2回ほど、本の大半を古本屋に持って行く。
未練の残る本はほとんどなく、あっさり手放してしまう。
もし引っ越しするとして、一体どれだけの本が「持って行くもの」として残るのだろうか。多分ほとんど残らないだろう。
私の「本好き」ということさえ疑わしくなっていた。
 
そんな時、先ほどの友人の本棚を見たのだ。
 
「どれでも読んでいいよ。貸すよ」
友人の言葉に甘えて借りたマンガは、私と同年代の女性が主人公で、仕事や恋愛に悩みながらも、一生懸命生きていくストーリーだった。とても面白かった。私もそのマンガが大好きになった。
 
その時、
「私の本棚には、好きな本がない」
そう思った。
 
私の本を選ぶ理由、それは「好き」ではなく「欲望」だった。
もっと、綺麗になりたい。痩せたい。もっと、幸せになりたい。
旅行に行きたい。もっと仕事を楽しくしたい。美味しいものが食べたい。
英語が話せるようになりたい。
私の本棚は「もっと欲しい」で、できていた。
 
ハウツー本が悪いわけではない。
でも、コーディーネートの本を買っても、やってみなければオシャレにはなれない。
自己啓発の本だって読むだけでは現状は変わらない。
旅行も行かなければガイドブックの意味はない。
 
私はいつも現実を変えたくて本を手に取る。
でも本は魔法使いではない。
読んで、その通りやってみなければ、何も変わらない。
そしてまた新しいハウツー本を買う。
私は、全然、本を生かせていない。むしろ殺してしまっている。
 
共に移住してきた本たちと暮らす友人とは大違いだ。
 
本棚は、その人の心の縮図だ。
どんなことに興味があるのか、どんなことがやりたいのか。
「好き」に囲まれた、穏やかで、芯の通った暮らしを送っているのか。現実を変えたくて迷走しているだけなのか。
 
私は、ハウツー本を買うのを、できるだけやめることにしてみた。
代わりに、好きな作家の小説やエッセイ、前から知りたかった歴史の小説、料理やお酒が好きなので、料理マンガやお酒にまつわる小説を買って読むようになった。
友達にオススメされた本や、興味を持った映画の原作など、今の自分の心のままに手に取るようにした。どれもとても面白くて、自分を心から楽しませてくれた。
少しずつだが本棚がだんだんと「好き」で埋まるようになった。
実践できなかったハウツー本はだんだんと減っていった。
友人の本棚のように、「好き」でいっぱいには、まだなっていないけれど、自分の「好き」を、とことん集めた本棚にしたいと思う。
 
今までに集めたハウツー本も全部捨ててしまったわけではない。
やってみて、自分に合ったものは処分せず大事に置いておくことにした。それは私の「好き」だからだ。
 
ここでまた新しい悩みが増えた。
「好き」な本たちは、簡単に処分できないのだ。何度も読みたくて、大事で、捨てることなんてできなくなってしまった。
どうやら新しい「整理術」の本が必要なようだ。
 
 
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2017-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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